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よそ者を活かした地域づくりに関する研究(修士論文)

人口減少・地方の衰退は、今後日本が迎える大きな課題であると思います。最近ホットなワード ”関係人口”:地域の外にいるが地域との関係を保つ存在が注目されている。地域づくりには「よそ者・若者・ばか者」が必要だとよく言われるが、特によそ者は関係人口としてどのように地域づくりに関わることができるのか…
離島出身でもある自分の背景から、こんなテーマで修士論文を執筆しました。少し編集し公開しましたので、ご興味があればご覧いただけたら嬉しいです。コメントやご意見などもぜひ。
(*論文調かつ約3万字あるので、分析手法などはぜひ読み飛ばしてください…考察や結論だけ読んでくださっても大丈夫かと思います!)
ご協力くださったみなさま、本当にありがとうございました。

Keywords
地域づくり、地方創生、関係人口、よそ者、食べる通信、地域コミュニティ

要約
 地域づくりにおいて、しばしばよそ者が必要であると議論されており、近年では関係人口の注目も高まっている。しかし一方で、よそ者を地域づくりに活かすための有用な示唆を与えられる研究はまだ少ない。また事前調査から、地域づくりの担い手にとっては実践的課題が多く残っていることが分かった。
 そこで本研究では、よそ者と地域の相互作用に関する仮説を提示しよそ者を活かした地域づくりに関する実践的示唆を与えることを研究の目的とした。
 本研究では、よそ者を活かした地域づくりの事例として『食べる通信』を取り上げた。分析対象として「地域外ファン層」に注目し、食べる通信における地域外ファン層と生産者の相互作用のプロセスをモデル化することを研究課題として設定した。この研究課題に答えるために、食べる通信の地域外ファン層・生産者・編集者を対象にして面接調査による質的データの収集を行い、修正版・グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った。
 分析の結果、食べる通信の購読をきっかけにして、生産者とのリアルな出会いの体験や、自身の積極的な行動を通して、ファンは自身の役割を認識し行動する成熟したコアファンへと成長する、生産者もファンとの繋がりによって精神の充足を得ながら自身の新しいスタイルを確立していく、そしてお互いの関係性が誠実で対等な関係であり、お互いを思い助け合う成熟したコミュニティへと変化していく過程が見られた。分析結果により、これまで明らかにされてこなかったよそ者と地域の相互作用のプロセスモデルの一例を提示することができた。
 最後に分析結果を考察するために、比較対象「地域内ファン層・ふるさと納税利用者」と比較を行なうことで仮説を導出した。そして仮説を元に主張する、よそ者を活かした地域づくりに関する実践的示唆として、(1)ナラティブ性の高い情報を積極的に届けること、(2)地域との新たなストーリーや出会いを促すため、リアルイベントやコミュニティなどの場を用意すること。(3)SNSを活用し、あえてよそ者と地域の関係性を維持すること、の3点を与えた。

第1章 序論

1.1 研究背景
 現代の日本において、人口減少・少子高齢化と、地方の過疎化は大きな社会課題である。2017年における国立社会保障・人口問題研究所による人口推移の結果は、以下の図1-1、1-2の通りである。

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図1-1 わが国の人口推移 ー明治期〜21世紀ー
(出典:旧内閣統計局推計、総務省統計局「国勢調査」「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成 29 年推計[出生中位・死亡中位推計])

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図1-2 都道府県別 65 歳以上人口数 2010年、2040 年
出典:「国勢調査」、「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」)

 日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じ、総人口も2008年をピークに減少に転じており、2065年の総人口は約8808万人・2115年には約5056万人になるとの予測がされている。
 一方で、地方の過疎化を考えると、1960年代頃からの高度経済成長期において労働人口が都市部への流入したことから急速に進んだ。日本創成会議・人口減少問題検討分科会が2014年に出した調査結果、通称「増田レポート」では、その東京一極集中の構造による影響から、2040年までに国の市町村の半数が消滅する可能性があるとの指摘をし、大きな波紋を呼んだ。特に、都市部と地方の出生率の違いに目を向け、人口問題の解決策であり地方の生き残りのために若者に魅力的な地域づくりを行い、地方へ都市への人口の流れを変えることの重要性を主張した。このように、人口問題と地方活性化には密接な関係があると考えられている。
 では地域づくりの担い手たちはどのような地方活性化の対策がなされてきたのだろうか。地域活性化の成功法則として、しばしば「よそ者・若者・ばか者」が必要だ、という議論がなされてきた。実際、多数の地域において「よそ者・若者・ばか者」が活躍した事例をあげればキリがないが、昨今特に注目を浴びているのが、『関係人口』という概念である。
 総務省の定義において関係人口とは、「移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと」とされる。これはまさに地域に定住しない「よそ者」の活かし方だと考える。

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図2 交流人口ー関係人口ー定住人口の関係(出典:総務省 webサイト)

 減少する総人口から定住人口を地方が取り合うのではなく、多様な関わり方を提案し総人口の限界を超えた関係を構築する関係人口に着目し、政府や多くの地方がそのきっかけ作りに挑戦をしているところである。本研究では、この時代の流れに着目した。

1.2 よそ者を活かした地域づくりの事例
 本節では、よそ者を活かした地域づくりの事例をいくつか紹介する。
1.2.1 地域おこし協力隊
 総務省の平成30年度「地域おこし協力隊」の活動状況によると、地域おこし協力隊とは、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住⺠票を移動し、⽣活の拠点を移した者を、地⽅公共団体が「地域おこし協⼒隊員」として委嘱。⼀定期間地域に居住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの⽀援や、農林⽔産業への従事、住⺠の⽣活⽀援などの「地域協⼒活動」を⾏いながら、その地域への定住・定着を図る取組のことをいう。平成21年度から地方公共団体によって始まったこの取り組みは、平成30年度には5359人もの隊員がこの制度を使い地域で働き、また任期満了後は約6割同じ地域に定住するという結果をもたらしている。

1.2.2 島根県立隠岐島前高等学校の高校魅力化プロジェクト
 NHKが提供する映像『逆転人生 「全国から注目 離島の高校 廃校危機から変革が起きた」』によると、島根県隠岐諸島島前地域にある唯一の高校である隠岐島前高校の生徒数が減少していることに危機感を感じた町役場の人が、改革の一手として招待したのが「よそ者」である岩本であった。岩本は東京都出身で都内大手企業に勤めていたが退職・隠岐諸島へ移住した。高校の魅力を向上し来たくなる学校にするために「地域が丸ごと学校」というコンセプトを掲げ、学校関係者・地域住民を巻き込み変革を行なった。当初はよそ者である岩本に対して地域住民からの警戒心や反発もあったそうだが、地道に活動を続ける中で理解者も増えていき活動を拡大させていった。結果、全国から入学希望者が集まり1クラスしかなかったところから2クラスに拡大するなどの成果を上げ、廃校の危機から脱却することに貢献したという。

1.3 事前調査1
 調査にあたって、『実際の地域づくりの現場では「よそ者」や「関係人口」をどのように活かす取り組みをされているのか、活かす上での課題はあるのか』、といった内容のインタビューを行った。実際にインタビューをおこなったのは、以下表1の2名である。

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 実際2人とも、地域おこし協力隊の受け入れや地域外の人材を呼び込むプロジェクトに関わっており、よそ者の活用や関係人口には関心が高かった。一方で2人共から聞くことができた共通の課題としては、以下の点があげられた。

・よそ者を地域に入れることが目的になる
・よそ者を安価な労働力として使ってしまいがちである
・地域毎の個別性が高いため再現性がない
・最終的に定住を目的としたコミュニケーションがされている

1.4 問題意識
 前節までの議論から、よそ者を活かした地域づくりに注目は集まっているものの、実際の地域の現場では課題が残っていることがわかった。
これは、よそ者を活かす戦略における実践的かつ網羅的な情報がないためであると考えた。
すなわち、よそ者と地域が影響を与えることにおいては本来、
・相互的な関係の中で影響を与え合うはずであるのに一方向の影響のみが議論されていること
・プロセス的な性質を持っているはずなのに結果のみが議論されていること
によって、現状の情報では有用性や網羅性に欠いているのではないかと考える。 そこで、以下の問題意識を提示する。

問題意識
よそ者と地域の相互作用や影響を与えるプロセスに関する議論がなされていないため、有用性や網羅性に欠けている

1.5 研究目的
 前節の問題意識から、本研究の目的を以下のように設定する。

研究目的
よそ者と地域の相互作用に関する仮説を提示し、よそ者を活かした地域づくりに関する実践的示唆を与える

1.6 本論文の構成
第1章では、序論として本研究の背景と問題意識、研究目的を述べた。
第2章では、先行研究レビューを元に、よそ者・地域づくりという言葉とよそ者の影響に関して考察し問題提起を行う。
第3章では、本研究の調査対象である事例について説明する。
第4章では、本研究が達成する研究課題を提示し、それを達成するための分析手法である修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチについて説明を行う。
第5章では、分析過程とその結果を示す。
第6章では、分析結果を元に考察を行なった。
第7章では、本研究のまとめを行う。その上で研究の限界と今後の課題について検討する。


第2章 問題提起

 本章では、先行研究レビューを元に本研究における「よそ者」「地域づくり」といった言葉を概観し本研究における定義をする。その上でよそ者の影響について考察することで問題提起を行う。

2.1 よそ者とは
 よそ者(英語では Strangerに相当)、およびよそ者に関連する概念から、よそ者という人物を表す上で重要な特性について述べる。
 日本語の辞書にあるよそ者の定義は、以下のようにある。

他の土地から来た者。他国者。[広辞苑 第五版]
その土地で生まれ育った人でなく、他の人土地から新たに移住して来た(ばかりの)人。(多く、違和感を持って排斥される対象を指す。)[新明解国語辞典]
他の土地から来た人。(多く、仲間から除外する意味合いでいう。)[明鏡国語辞典]
①その土地で生まれ育ったり、以前から住んでいたのではなく、よその土地から新たに来た者。
②親しい仲間以外のもの
[学研 国語大辞典 第二版]

 一方、英和辞書による Strangerの定義は以下のようにある。

①<人にとって>見知らぬ人、知らない人。
②<‥に関して>知らない人、経験がない人。
③不慣れなひと、不案内の人。
[The Wisdom English-Japanese dictionary Fouth edition]
①知らない人、よその人
②(ある場所に)初めて来た人、不案内の人
[Compass Rose English-Japanese Dictionary]
①見知らぬ人、見慣れない人、よそから来た人、珍しい人、第三者、非当事者
②不案内な人、不慣れな人
③(‥を)経験したことのない人、(‥に)無縁の人
[The Anchor Cosmica English-Japanese Dictionary]

 辞書を概観し、ある特定の地域におけるよそ者(Stranger)と意味を解釈すると
・その地域以外の土地から来た人
・その地域に対して、知らない・不慣れである・無縁である人
といった特徴が考えられる。

 一方で、ウェブ上の記事においてはよそ者についてこのように記述も見られた。

よそ者(余所者)とは、遠方の地から来ている者、あるいは、同じ集団に属さない人のこと。(中略)「よそ(余所)」は、物理的に遠くにある場所(例えば日本における海外のような)、あるいは精神的に遠くて近寄りがたい場所(例えば「異界」といった言葉で表現されるような)をいう。[笑える国語辞典, n.d.]

 すなわち、ある集団の外にいるという現象には、物理的なよそ者性と精神的なよそ者性とがあることが述べられている。
 次に先行研究では、よそ者についてどのように記述されているかを見ていく。

①自分たちとは異質な存在と認識され、「よそ者(余所者)」 や「旅の人」または「風の人」など、主に地域外から来る人びと
②よそ者とは同じ地域や空間内部にいる「関係者ではない異質な存在」
(敷田, 2009)
(1)当該地域やその地域から地理的に離れたところに暮らしている人。
(2)外から当該地域に移住してきて、その地域の文化や生活をよく理解していない 人。
(3)当該地域やその地域の文化にかかわると自認する人たちによって「よそ者」のスティグマを与えられうるし、 また実際に与えられている人。
(4)利害や理念の点において、当該地域の地域性を超え、普遍性を自認している人。 (鬼頭, 1998)

 以上より、先行研究においては、様々によそ者が描写されていた。地理的もしくは文化的なよそ者性の他にも、地域アクターからのレッテルとしてよそ者性や、地域アクターとの関係によって意味付けられるよそ者性というのが特徴的であった。
上記のよそ者の定義において共通して見られた特徴を元にして、本研究においては以下の2種類のよそ者を定義する。

・地理的・物理的に離れており、地域外から来る”地理的よそ者
・その地域にある文化や生活を理解しておらず異質性を持っている”社会的よそ者

 このように定義すると、ある人物とある地域との関係は、以下図3におけるいずれかの集合に属すると考えられる。

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図3 ある人物とある地域との関係の集合関係

 また、日本社会におけるよそ者に関する考察として、日本の社会構造について考察した中根の研究がある。中根(1967)では、日本社会では家族・地域・会社といった「場」に対して集団意識が強く根付いており、一体感によって養成される枠の強固さ、集団の孤立性は同時に枠の外との間に溝を作り「ウチの者」「ソトの者」の意識が打ち出されると考察した。そして、日本人の社会集団が個人に全面的参加を要求することから、個人の集団所属はただ一つであるという「単一社会」を形成していると主張した。このような日本独自の社会構造から、以下のような日本特有のよそ者性が生まれたということも中根は述べている。
・極端な人間関係のコントラスト:ウチの者以外は人間にあらずの感覚、極めて自己中心的な自己完結的な見方。
・地域性(ローカリズム)が強い:その集団ごとに特殊性が強い、また一定の集団構成員の生活圏が狭く、その集団内に限定される傾向が強い。
・直接接触的:人間関係の強弱は、実際の接触の長さ、激しさに比例しがちであり、この要素こそが往往にして集団における個人の位置付けを決定する重要な要因になっている。

2.2 地域づくりとは
 地域づくりの定義について、前述の敷田(2009)では『多様な地域の関係者がかかわる地域活性化』であると述べられている。ここで、”多様な地域の関係者”という言葉には、地域外に住むよそ者も関わることができる含意があると考えられる。また、”地域活性化”という言葉にも多様な解釈が考えられるが、小田切(2013)では”内発的発展”という観点からバブル期の前後における農山村の開発の要請の違いを述べている。バブル期以前における農山村の開発は、地域振興が経済開発に著しく偏って実施され、そのためにはリゾートという外部資本導入・誘致こそが近道だと意識されていた。しかしバブル崩壊以降、リゾート構想の多くは民間企業の撤退や参入中止により頓挫するという事態が発生した。そのような状況下で多用されるようになった言葉が「地域づくり」であり、その言葉には以下の3つの含意があると主張している。
①内発性:大規模リゾート開発 では,資金も意思も外部から注入されたものであり,地域の住民は土地や労働力の提供者,さらには開発の陳情者に過ぎないものであった。そうではなく,自らの意思で地域住民が立ち上がるというプロセスを持つ取り組みこそが,重要であることがこの言葉では強調されている。
②目的の総合性・多様性:当時は経済的な活況を目指す意味合いがあった。そうした単一目的を批判し,文化, 福祉,景観等も含めた総合的目的がここに含意されている。また,そのような総合性は,地域の特性に応じた多様な地域の姿に連動する。実際に,リゾートブーム下で は,経済的振興ばかりが各地で語られ,またどの地域で も同じような開発計画が並ぶ「金太郎アメ」型の地域振興が特徴であった。その反省の上に立つ地域づくりには「総合性・多様性」が意識されている。
③革新性:「つくる」という言葉が持つ含意であり,そこには「革新性」が意識されている。いうまでもなく,地域振興を内発的エネルギーにより対 応していくとなれば,従来とは異なる状況や新たな仕組みを内部に作り出すことが必然的に必要となる。地域における意識決定の仕組みや行政との関係等を含めた地域革新のニュアンスがここには含まれている。
 実際、本研究では地域づくりをcommunity developmentと訳したが、この分野に関する先行研究においても、同様な含意が見られた。Alex Zautra, John Hall & Kate Murray(2008)は、経済的目標とは違った幸福や生活の質の向上に繋がる”強くて健康的なコミュニティ”の指標づくりに関心を示しており、またHA Nikkhah & M Redzuan(2009)は、内発性と関連して人々の参加やエンパワーメントとコミュニティ開発のアプローチの関係に示唆を与えている。
 そこで、本研究もこれらの地域づくりの含意を踏襲し、本研究における「地域づくり」を以下のように定義する。

多様な地域の関係者が関わり、多様な総合的目的を持ち、地域の仕組みを革新しながら、内発的に新たな地域をつくりあげていくこと。

2.3 よそ者がもたらす影響
 よそ者が周囲にもたらす影響は数多く存在するだろう。しかし一方で、よそ者についての研究によって明らかになっていることは非常に限定的であるため、その数少ない研究で言われていることを紹介すると共に、関連がありそうな他分野の研究を基にして考えられる影響についても紹介する。
2.3.1 ある地域において、よそ者がその地域に与える影響
 敷田(2009)によると、地域づくりを「多様な地域の関係者がかかわる地域活性化である」と定義し、よそ者が地域に与える効果として以下の5つの効果を主張している。
・地域の再発見効果:地域アクターは地域の日常の中で生活しているので、地域資源の価値や魅力になれきっていて気づかないことが多い。しかしよそ者は地域に不慣れなことが幸いして、逆にそれを見いだすことができる。日常性に埋没した「当たり前」を再考し、再発見する機会をよろ者が作り出すことができる。
・誇りの涵養効果:よそ者の持つ外部の視点は、「自意識を高めるための媒体」であり、他者による評価や賞賛によって価値を認識することができる。
・知識移転効果:よそ者が地域にない知識や技能を持ち込む効果である。これは、地域が最新の知識を得る機会が少ないか、学習するための姿勢つや設備などが地域に不足していること。または、以前は地域づくりに必要とされなかった最先端の知識まで地域づくりに必要となったことから、よりその効果は求められていると主張されている。
・地域の変容の効果:よそ者の持つ異質性は、地域側に驚きや気づきをもたらし、そのよそ者の刺激を利用して変化するというエンパワーメント効果が見られる。
・地域とのしがらみのない立場からの問題解決:地域のしがらみに囚われない立場だからこそ、よそ者は優れた解決策を提案できる。

 また、環境社会学の分野でよそ者の影響を主張した、鬼頭(1998)の論文がある。この論文では、よそ者が地域に属したしがらみに囚われることがなく、それがすなわち、よそ者が持つ普遍性を主張し、ことさら環境運動においては
・政治的な力になり、運動を成功に導く
・新たな視点の導入
の2点においてよそ者の積極的役割が述べられていた。このようにメタレベルで普遍的な視点から評価出来ることも、よそ者の影響であると考えられる。
2.3.2 異端児の観点から見た影響
 「ある集団における異質性を持った人」という意味において、よそ者と似た概念として「異端児」がある。異端児の研究としては、坂本(2018)は異端児が組織に与える影響がまとめている。この論文によると、異端児が持つ、枠にとらわれない姿勢や内なる信念といった特性が、組織や構成員の
・認知枠組みの変化
・業務遂行能力の向上
・行動の変化
・異端の主流化
・社内での対立
といった影響があるとし、社会変化への適応が求められる硬直化した組織に異端児を投入すべきだという示唆を提示した。
 以上の異端児に関する研究を概観し、よそ者の影響への可能性へと展開するのならば、よそ者が持つある地域に対する異質性が、硬直化した地域に対して社会変化を促す機能を果たすのではないか、といった考察が得られた。
2.3.3 弱い紐帯の観点から見た影響
 弱い紐帯の強さとは、アメリカの社会学者であるマーク・グラノヴェッター氏が1973年に提唱した社会的ネットワーク理論で、新規で有用な情報は、家族や親しい友人といった強おい繋がり(強い紐帯)よりも、ちょっとした知り合いといった弱い繋がり(弱い紐帯)からもたらされる場合が多い、というものである。
弱い紐帯は、異なるコミュニティを結ぶ「ブリッジ=橋」としての役割を担い、情報を広範囲に伝播しコミュニティ間の相互理解を促進する存在として弱い紐帯の機能が考えられている。
 よそ者は、ある地域において外にいる者と認識される時点で繋がりはあると考え、また地域内に比べてその物理的・文化的距離や異質性を持っていることから、弱い紐帯の機能を果たし得るのではないかと推測する。であるならば、その地域において、他都市やコミュニティを繋ぎ、その地方には無い情報の交換と相互理解を促進するための存在として機能することが期待される。

2.4 よそ者がもたらす影響に関する先行研究のまとめと問題提起
 2.3の結果をまとめた表が、以下の表2になっている。

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 以上のような効果が、よそ者が地域に与えうる影響として推測される。 
2章では、よそ者と地域づくりについての先行研究概観し、 よそ者が地域に与える効果についても考察した。しかし、1.3節において主張した「よそ者と地域の相互作用や影響を与えるプロセスに関する議論がなされていないため、有用性や網羅性に欠けている」という点においては、解決をもたらすような研究はなされていなかった。今後、よそ者を生かした地域づくりを実践するためには、一層実践的で網羅的な研究が必要なのではないだろうか。

第3章 事例:食べる通信

本章では、本研究がケーススタディ・リサーチを実施する対象事例である、「食べる通信」の概要について説明する。
3.1 食べる通信の概要
 食べる通信とは、食のつくり手を特集した情報誌と、彼らが収穫した食べものがセットで定期的に届く“食べもの付き情報誌”である。
 「世なおしは、食なおし。」という理念のもと、食べ物付き情報誌にとどまらずFacebookコミュニティの活用やリアルイベントの開催などを行い、購読者と生産者を繋げ関係性を再構築する取り組みを行なっている。
 2013年に高橋博之によって設立され「東北食べる通信」として始まったこのサービスは、現在その理念に共感した人が全国でそのビジネスモデルとブランドを利用し展開することで、北は北海道・南は沖縄まで36の編集部がサービスを提供している。

3.2 食べる通信に関する先行研究
 眞鍋・中塚(2017)は、食べる通信の生産者と消費者が協働するプラットフォームとして機能している点に注目した。この論文では、ビジネスモデルとその展開に着目し議論をしている。
 展開を支える仕組みとしては、一般社団法人日本食べる通信リーグが統括し、そこに加盟する形で食べる通信を創刊をすることが可能であり、初期投資や運営リスクを低減するとともに、ブランド力や相乗的な宣伝効果を得ることが可能であり、編集長として多様なキャリアを持った人々が、食べる通信のコンセプトと仕組みに共感し参入していることを述べていた。
 そして、展開の要因のとしては、以下の3点をあげた。
・「東北食べる通信」が情報誌と SNS によって「生産者と消費者を繋ぐ」というコンセプトを明確に打ち出したことで、メディアを主体としたサービスとの認識が広がり,農業や流通関係者以外からも関心を引くことになった点
・「食べる通信」のブランドを掲げつつも各編集 部の主体性と自主性を重んじる運営方針
・基幹となる決済システムを共有し、ノウハウを提供するなどして創刊の障壁を下げたリーグ全体の運営のしくみ

3.3 事例の選定理由
 本研究の事例として食べる通信を選定した理由を以下に述べる。
3.3.1 よそ者を活かしている点
 2章において、本研究におけるよそ者として”地理的なよそ者”と”社会的なよそ者”を定義した。地理的な側面において、食べる通信では発行地域外にも多くの購読者を抱えており、ある地域では9割以上を地域外の購読者が構成しているところも存在する。情報誌の形で全国にユーザーを抱えFacebookといったSNSを活用することで、地理的なよそ者である購読者と生産者を繋いでいる。
 一方で、社会的側面、すなわちそこに住む生産者や文化・生活に対する理解という側面では、よそ者性は一概に言えないだろう。すなわち、購読者は元々地域にゆかりがなかったという点で地域の文化や生活への理解が低いことが推測できるため社会的なよそ者である側面があるが、食べる通信では生産者生産者のストーリーや、その後のコミュニケーションといったことが重要視されているため、生産者への理解や共感度は高く、その点においてはむしろ”社会的にはうち者”とも解釈できる。実際その共感の高さからサービスの解約率は2~3%と他の定期購読サービスと比べて低い解約率であるとされている。
 食べる通信が生産者と購読者を繋ぐ機能を果たしていることを示したのが以下の図4だ。

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図4 食べる通信の機能

 本研究では特に、地理的に離れているよそ者を活かしているという点に注目したい。2.1節において、日本社会特有のよそ者性として、地理的側面であり生活の場である「地域」に対しても集団意識は強く根付いており、そこに「よそ者」「うち者」の意識が打ち出されると述べた。すなわち地理的なよそ者という視点は、日本社会においては重要であると考える。
 また第1章で述べた通り、人口減少が見込まれる日本社会において、減少する人口を取り合うのではなく、関係人口を増やすことが注目されている。そんな中で食べる通信では”食べ物つき情報誌”やオンライン・オフラインの繋がりを活かすことで購読者と生産者や地域の関係性を作っており、今後の地域づくりに有用な示唆が得られる事例ではないかと考えた。
3.3.2 地域づくりの事例の先端事例である点
 2章において、地域づくりとは”多様な地域の関係者が関わり、多様な総合的目的を持ち、地域の仕組みを革新しながら、内発的に新たな地域をつくりあげていくこと”と定義した。
 食べる通信では、各地域・生産者それぞれが購読者の相互的な作用を通して多様に効果をあげている事例が、書籍やwebデータから見受けられる。ここでその事例を2つ紹介する。
天災によって被害を受けた地方の農家を助けるために200人規模ものファンが、全国から田んぼに駆けつけた事例があった。これは様々な交流を重ねる中で共感力を増していくことで、作る人と食べる人の豊かな関係性を取り戻していった結果だ、と述べられており、相互作用によって消費者としての意識が変化し行動を起こすことで生産者を人的資源的・精神的に支えた事例であると考えられる。
消費者との交流や漁協としてのブランディング活動を行なっていたある地方の漁協を食べる通信が取り上げた際には、大きな反響を呼びその生産現場を訪れる読者もいた。それをきっかけに活動も加速し、漁協としての情報発信能力や認知度の向上・継続的な交流活動・ファン獲得・商品開発等様々な効果をもたらした。
 このように、購読者・生産者・編集チームなどの多様な関係者が関わりながら、一生産者と購読者の関係性の変化や、それにとどまらず地域の産業にも大きな影響を与える事例まで存在する。これは上記の”地域づくり”の定義にも合致し、よそ者と地域の相互的で網羅的な仮説を提示するという本研究の目的に適すると考えた。

3.4 事前調査2
 食べる通信で起きたよそ者と地域の相互作用についてより深い知見を得るための事前調査として、文献上のデータ収集と、食べる通信関係者への事前インタビューを行った。
3.4.1. 文献上のデータ収集
 食べる通信について書かれた代表的な文献としては、設立者の高橋博之著の「だから僕は農家をスターにする」(2015年初版、CCC メディアハウス)がある。この本において、
『第3章「都市と地方、生産者と消費者をつなぐコミュニティの力」』の章が、食べる通信における、よそ者である購読者と生産者との関係をよく表していると読み取れた。これらの記述を以下に抜粋しまとめた。

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3.4.2. 食べる通信関係者へのインタビュー
 食べる通信関係者の方に『食べる通信を通じてよそ者と地域の人が関わり変化をもたらしたエピソード』についてインタビューを行った。インタビューの概要は表3の通りである。

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 このインタビューでは、以下の知見が得られた。
・東北食べる通信においては、食べる通信の理念や生産者のストーリーに共感し自ら積極的な行動を起こすファン層が、地域外にもいること
・このファン層によって、生産者と購読者とのコミュニケーションが促進されている
・その他、販路を勝手に開拓するなど、様々なファン層の行動が生産者にプラスの影響を与えているのではないか
・ファン層のモチベーションは「好きだから」「たまたま」といった偶発的であり個人的であることが多い
 これらの結果を元に、食べる通信の事例においてよそ者と地域の相互作用を見るには、「地域外にいるが食べる通信の理念や生産者のストーリーに共感し、自ら積極的な行動を起こすファン層」が、鍵を握るのではないかといったことがわかった。

3.5 比較対象としての対抗事例:ふるさと納税
 ここで、食べる通信と対照的な事例として、ふるさと納税について説明する。ふるさと納税とは2008年から総務省主導で始まった制度であり、手続きをすると、寄附金のうち2,000円を超える部分については所得税の還付、住民税の控除が受けられ、また寄付金の対価として地域の名産品などのお礼の品ももらうことができる仕組みである。

ふるさと納税

図5 ふるさと納税の仕組み(出典:ふるさとチョイスwebサイト)

地理的に離れていたとしても、生まれた故郷や応援したい自治体に寄附ができる制度として注目され、平成28年度の実績は、約2,844億円(対前年度比:約1.7倍)、約1,271万件(同:約1.8倍)と着実に普及している制度である。お金を支払うことで、生産物を代表とした返礼品を受け取るという点では、食べる通信とも似たような制度であると考えられる。
 一方、株式会社インテージリサーチによる調査によると、ふるさと納税の利用する動機は
・寄付の特典(返礼品)が魅力的だったから
・税金が軽減されるから
といった理由が最たる理由であるとの調査がある。
 前述の通り食べる通信では、生産者のストーリーや、その後のコミュニケーションといったことが重要視されており、この購読者の動機は大きな違いであると考えた。この比較をまとめたものが以下の表4である。

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第4章 研究課題の設定

4.1 よそ者の分類と事例
 本研究におけるよそ者は大きく”地理的なよそ者”と”社会的なよそ者”の2つが存在することを2章で述べた。ここで、食べる通信と対抗事例のふるさと納税の事例に当てはめて検討すると
食べる通信の購読者・ふるさと納税の利用者の多くは、地理的・物理的にその土地から離れて存在している。
食べる通信の購読者の多くが、食べる通信や生産者に対する理解度が高く、とりわけファン層においてはその異質性は小さいと思われる。
ふるさと納税の利用者の多くは、自身の利益を動機とし地域を選定しているため、地域や生産者に対する理解度が低い利用者が存在する。
以上のことを表5のようにまとめた。

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4.2 研究課題
 研究目的は「よそ者と地域の相互作用に関する仮説を提示し、よそ者を活かした地域づくりに関する実践的示唆を与える」であるが、事前調査2から食べる通信においては特に地域外ファン層の存在が相互作用において重要な役割を果たすことが分かった。
 そこで、本研究の研究課題としては、食べる通信の地域外ファンと生産者の相互作用に着目し、以下のように設定する。

研究課題 
食べる通信において、地域外ファン層と生産者の相互作用のプロセスをモデル化する

RQアウトプットイメージ

図6 研究課題 アウトプットイメージ図

4.3 分析手法:M-GTAによる分析
 本研究では研究課題に答えるために、分析手法として修正版・グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach:以下M-GTA)を用いた。
4.3.1 M-GTAとは
 本節ではM-GTAの解説をすると共に、その採用理由を述べる。
 そもそも、グラウンデッド・セオリー・アプローチとは、1960年代に米国の社会学者であるアンセルム・ストラウスと、バーニー・グレイザーによって考案された質的研究法である。その背景には、理論の検証に偏った当時の社会学研究のあり方に対する強い批判がある。グラウンデッドとは、Grounded on Dateのことで、データに根ざした分析を進め、データから概念を抽出し、概念同士の関係づけによって研究領域に密着した理論を生成しようとする研究方法である。データとして用いられるのは主にインタビューデータであるが、そのほかにもフィールドノーツや文献といったデータも利用することが可能である。
本湖では、木下(2003)のM-GTAを活用して分析をした。データを分析することを「コーディング」と呼ぶが、グレイザーとストラウスの提唱するデータの切片化はコーディングに多くの時間が取られ、切片化したデータのコーディングに注力すると解釈が難しくなる。一方、コーティングを疎かにすると質的データの客観性がなくなってしまう。M-GTAは、質的データのコーディングと深い解釈を同時に行いながら、そこから説明力のある概念を生成することに適した分析手法である。木下(2003)によると、M-GTAに適した研究には次の三つの要素が含まれる。
1.人間と人間が直接的にやり取りをする社会的相互作用に関わる研究である。
2.まとめられた研究結果が実践現場に還元され、能動的応用がなされることに繋がる。
3.研究対象とする現象がプロセス的性格を持っている。
 以上三つの要素に沿って、本研究ではM-GTAを用いる理由を三つあげる。
 一つ目の理由としては、よそ者が地域の相互作用というのは、よそ者と地域の人物とがやり取りをする社会的相互作用に起因するものである。
 二つ目の理由としては、M-GTAが実践的な活用を視野に入れた分析手法であるため、地域づくりの担い手に対してよそ者を生かした地域づくりに関する実践的示唆を与えるという本研究で掲げた研究目的に適しているからである。
 最後に、対象とする現象が、よそ者と地域の相互作用であり、プロセス的性格を持っていることがあげられる。
4.3.2 分析手順
 M-GTAにおけるコーディングは、データから「概念」を生成していく「オープン・コーディング」で始まり、概念間の関係性から「カテゴリー」を生成し、分析結果全体の論理的体系化を進める「選択的コーディング」で収束させていく。概念生成において、「深い解釈」を行うには、データの中に表現されている人間の認識、行為、感情や、それらが関係している要因、条件などをデータに即して検討していくことが重要となる。データに密着した(Grounded on Date)分析を行うが、ひとたび概念ができたらデータは捨て、視点をデータ側から概念側に切り替える。データを重要視しながらも、その後はデータから分離するのである。M-GTAは後述する分析ワークシートを活用し、データ本体からの分離を行う。また、「研究する人間」の分析上の視点となる「分析焦点者」の設定も重要となる。この研究においては、地域づくりの担い手の視点を分析焦点者とし、分析焦点者にとってどうゆいみになるだろうかという視点でデータを解釈する。
 具体的な手順について説明する。M-GTAでは、分析ワークシートを活用し、面接データの文章の中から意味のあるものを抽出し、その部分を具体例として抜き出して「ヴァリエーション」欄に記入する。そしてその具体例を解釈し、他の具体例も説明できるような「定義」およぼそれ一言で表す「概念名」をそれぞれ該当欄に記入していく。また、データ全体から特定の方向へのみ解釈する危険性を回避するため、「理論的メモ」欄に類似例と対極例を適宜書き込む。特に対極例の検討は、木下(2003)も強調しているように、M-GTAによって導き出された結果は恣意的であるという批判をかわすためにも重要なチェック項目である。対極例がデータから発見されない場合は、その旨を理論的メモに書き込んでいく。分析ワークシートの例として付録に載せた、本研究で使用した分析ワークシートを参考にしていただきたい。
 このようにシステマティックに、かつ研究者である筆者の問題意識を踏まえながら、分析ワークシートを活用して概念を生成していく。最初の協力者を終えると、次の協力者に移り、逐次出てくる具体例が、すでに生成した概念で説明可能か、あるいは新たな概念を作るべきかを一つ一つ検討していく。ちなみに、前半のオープンコーディングは発散させていく段階である。そのため、最初から解釈を確定させるべきではなく、様々な解釈の可能性を検討していく。木下(2003)は、この段階の作業を他の人と共同で行うことを推奨している。分析の設定をきちんと共有した上で、データの解釈作業を共に行うことで、一人で行うよりも多様な解釈を出すことが可能である。概念を確定させていく段階になったら、その判断の主題は筆者のミニ限定し、収束化へ向かうべきであるとしている。ヴァリエーションが少ない概念は、説明力が弱いため概念としての見込みはないと判断する。
 全てのデータを概観し、採用する概念とそうでない概念の峻別が済んだら、次はカテゴリー生成に入る。カテゴリーは、複数の概念の関係からなる。修正版の方法をとると、データと概念の距離は全て一定となっている。それはすなわち、個々の概念の説明力が様々であり、限定された範囲において有効な概念もあれば、包括的な説明力をもつ概念もあるということである。よって、生成した概念の中には、他の概念を包含するカテゴリーとなるものも混在している。一方で、複数の概念を包含する新たなカテゴリーを作る場合もある。何れにしても、この段階では複数の概念からなるカテゴリーを形成し、カテゴリー名をつけていく。
 カテゴリーの生成作業が終わると、次にすべきは結果図をまとめることである。すなわち、概念やカテゴリーの関係性を線や矢印などで表し、相互の影響関係や変化のプロセスを結果図という形で示す。ここで重要となるのが、全体としてこの分析が明らかにしようとしているのはどのようなプロセスかという視点である。推測的、包括的思考を活用し、現象としての何らかの動きに着目しながら、図が一定の方向性をもつ形でまとめていく。
 最後に結果図を元にストーリーラインを書く。ここでは分析結果を、生成した概念とカテゴリーだけで簡潔に文章化する。自分が理解したと思っていることを形式知化することで、曖昧な部分を浮き彫りにすることができる。
 以下は、M-GTAの分析手順をステップごとに示したものである。実際には、修正版においては各ステップが段階的に進むのではなく、多重同時並行で進めていく。
ステップ1 分析テーマと分析焦点者に照らして、データの関連箇所に着目し、それを一つの具体例(ヴァリエーション)として、かつ、他の類似具体例をも説明できると考えられる説明概念を生成する。
ステップ2 概念を作る際に、分析ワークシートを作成し、概念名、定義、最初の具体例などを記入する。
ステップ3 同時並行で、他の具体例をデータから探し、ワークシートのヴァリエーション欄に追加記入していく。具体例が豊富に出てこなければ、その概念は有効でないと判断する。
ステップ4 生成した概念の完成度は類似例の確認だけではなく、対極例についての比較の観点からデータを見ていくことにより、解釈が恣意的に偏る危険性を防ぐ。その結果をワークシートの理論的メモ欄に記入していく。
ステップ5 生成した概念と他の概念との関係を個別に検討し、関係が概念を元にカテゴリーを生成する。
ステップ6 カテゴリー相互の関係から分析結果として結果図に落とし込む。その概念を簡潔に文章化する(ストーリーライン)。
(木下,2003)

第5章 分析と結果

5.1 面接調査概要
 本研究では、面接形式によるデータ収集を行った。
 研究課題では、食べる通信における地域外ファン層とその生産者の相互作用を対象としている。そこで、該当地域外食べるファン層及びそのファンと交流のある生産者、そして双方を知っていると思われる食べる通信編集者を調査対象とした。
 実際にインタビューした対象者C1~C6についての簡単な情報を以下の表6にまとめた。

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 これら6名の方に、よそ者と生産者の相互作用についての面接調査を行った。形式は回答に応じて質問を臨機応変に変える半構造化インタビューとした。以下に主な質問内容をまとめた。

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 インタビューの平均所要時間は61分であった。6人目でのデータ分析においては、新たな概念が生成できなくなり、カテゴリー生成とその関連が詳細に把握できる状態であったため、その時点で理論的飽和と判断した。

5.2 概念の生成
 インタビューの内容は逐語録としてテキストデータ化した。それらを本研究の分析テーマに照らし合わせてデータの関連箇所に着目した。着目した部分を1つの具体例(ヴァリエーション)として、かつ他の類似具体例をも説明できると考えられる説明概念を生成していった。1つの概念につき1つの分析ワークシートを作成し、概念名、定義、ヴァリエーション、理論的メモを記入した。新たな概念を生成しながら、同時進行ですでに生成した概念の他の具体例をデータから探し、ヴァリエーション欄に追加記入していく作業を繰り返し、概念と定義を完成させていった。
 次の表10に抽出した26の概念を示す。ここで、生成した概念の対象が<ファン>、または<生産者>どちらか明確な場合が多くあったため「対象」欄を設け記述した。概念の対象がそのどちらでもないと判断した場合この欄は空欄とした。

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5.3 カテゴリー化
 抽出された複数の概念の関係からなるカテゴリーを生成した(表11)。概念を1つ1つ比較して関係性の検討を行った。

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*論文では、抽出した概念の具体例と抽出過程を示した分析ワークシートと、カテゴリー生成の過程を以下で紹介したが、割愛いたします。

5.4 RQへの回答:よそ者ファンと生産者の相互作用のプロセスのモデル化
 M-GTAによって抽出された概念とカテゴリーの相互の関係から分析結果をまとめた。その結果図として、「よそ者ファンと生産者の相互作用のプロセスのモデル」(図15)を導出した。M-GTAの手続きに則り、以下にストーリーラインを示す。

ストーリーライン
 食べる通信の購読をきっかけに、購読者は未知の世界である生産側の世界を知り、生産者に対する理解度の高い存在=ファンへと変容する。その中でも、生産者にアプローチをするというファンの突出した行動によって、ファンと生産者がリアルな場で繋がる体験が実現する。通常よそ者との交流には警戒心を伴うのが一般的だが、食べる通信の情報誌によってすでに両者の間で対話がなされ生産者には安心感が生じているため、食べる通信をきっかけとしたこのリアルな交流体験はスムーズに成されていく。
 ファンは、このリアルな体験を通じて高度な理解度と自発性を持ったコアファンへと変容し様々な活動を行うようになる。そして活動を通じて自身の役割やモチベーションを見出していき、コアファンの成熟が成されていく。生産者にとっても消費者と繋がる経験は精神の充足をもたらす。しかしその一方で、負担の増加といった副作用も見受けられる。
 生産者はファンとの新しい関係性を通して、新しい自身のスタイルを認知→実行していき、そのスタイルを確立していくようになる。この過程において、コアファンの存在や援護する行動が支えとなっている。一方で生産者が変化していく姿もコアファンの成熟に影響を与えている。
 購読者のファンへの変容や生産者の精神の充足を通して、お互いの関係性は誠実で対等な関係へと変化する。また、自身のスタイルや役割を確立していった遠いコアファンと生産者の関係は、物理的には遠いけれどもSNSを通じて繋がり合うことで成熟したコミュニティへと発展していった。

C_モデル図


図15 よそ者ファンと生産者の相互作用のプロセスのモデル

第6章 結果の考察

 RQへの回答としてモデル図の導出を行なったが、本章ではこの結果を元に考察を行なった。
6.1 新規性の検討
6.1.1先行研究との比較
 2.3節において、先行研究を元によそ者が与えうる影響についてまとめたが、これらは分析結果における「地域外ファン層が生産者に与えた影響」と概ね一致していると言えるだろう。すなわち敷田(2009)が示している、地域の再発見効果は「価値の見直し」、誇りの涵養効果は「自信」「モチベーション」、知識移転効果は「消費者との出会い」、地域の変容の効果は『新しいスタイルの確立』、地域とのしがらみのない立場からの問題解決は「販路の開拓」「きっかけ行動」等が近い概念として見ることが出来たからである。
 一方で、先行研究では示されていなかった、生産者への影響として消費者との接触による『副作用』を発見することもできた点、よそ者の作用を相互的なものでありプロセスとして捉え分析することで相互作用のプロセス図を示すことができたという点で、新たな貢献することができた。
6.1.2 文献『だから、ぼくは農家をスターにする 「食べる通信」の挑戦』との比較
 3.4.1節において収集した記述をもとに、よそ者であるファン層と生産者との関係を分析結果と比較をしたのが、以下の表20-1~4である。

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以上の表を整理すると
・購読者と生産者の関係:関係性を表すものとして「豊かな関係」と「成熟したコミュニティ」が一致するものであると読み取れた。
・一方で、食べる通信においてはSNSを通じたコミュニケーションも特徴的であったが、結果図においてはSNSの機能が内包されているものの概念としては生成されておらずその重要性が分かりづらくなっている。
・生産者の変化:文献内では「自らの価値に気づく」といった点をあげていたが、これは分析結果においては概念名18「価値の見直し」に該当し、そのほかにも「自信」「モチベーション向上」といった変化も捉えることができている。
・購読者の変化:「作り手に寄り添う共感者」に変化し「自発的な行動」を起こすと文献内で述べられていたが、分析結果はこれらを網羅しつつより細かい変化(「きっかけ行動」・「販路の開拓」等)を捉えることができた。
また、結果図からは「コアファンの成熟」段階があることが分かっている。
・食べる通信の機能:未知との世界との接触を果たす”入り口”の機能を果たし、購読者と生産者を繋ぐという点で一致していた。結果図ではその要因として「安心感」が作用していることが分かる。
一方で、文献で見られた「入りにくい環境」といったより客観的なコミュニティの評価は分析結果に含まれていなかった。

 よって、結果図の評価としては、概ね文献の情報を網羅しており、より具体的で細かい変化を捉えることが出来ていると言えるだろう。特に、プロセスを明らかにすることで以下のような点が明確になった。

・『地域外ファン層の積極的な行動(生産者へのアプローチ)』と『リアル世界で消費者と生産者が接する体験』が、お互いの変化や相互作用の起点となっている。
・地域外ファン層の変化には、積極的な行動を重ねる中で成熟する段階が存在した。
・繋がる順番が、オンライン→リアルだったのが良かった:安心感を持ってからリアルで繋がれることでスムーズなリアルでの体験を促している。

 しかし一方で、俯瞰的な分析をすることは出来ていないことも分かった。本研究課題の分析におけるインタビュー対象者は、地域外ファンと生産者の閉じられたコミュニティ内の人物であったため、「入りにくい」といった客観的なコミュニティの評価や、関係性をつないでいるインフラのSNSの重要性が分かりづらい結果となっている。本研究の研究課題の達成には問題がないと考えるが、本研究の限界でもあると考える。

6.2 対象の比較による仮説の導出
 本研究課題においては、4.1節の通り「地域外ファン層」に対象を絞っていた。ここで、別対象との比較を行うことで、さらなるよそ者と地域の相互作用に関する深い考察と仮説の導出を試みた。そこで今回は比較対象である、地域内ファン層(自分が住む地域内の食べる通信を購読している食べる通信ファン)・ふるさと納税利用者とその関係者、両者にインタビューを行った。
6.2.1 食べる通信地域内ファン層との比較
 岩手県花巻市に在住で東北食べる通信を購読している方に、結果の仮説を説明し自身との体験と比較して、合致する点・相違点をインタビューした。
 インタビュー内容を以下に箇条書きで記す。
・食べる通信を購読したことによる自身への影響について:身近にあるのに知らなかった生産者側の世界が知れる。未知のものを発見するというよりは、再発見的な感動をもらっている。そこから顔が見える食材に対する安心感や食べ物に対する愛着を持つようになる、といったの変化があった。また生産側のことを知ったことで、近くの知り合いの生産者とももっと関わりたいという気持ちになった。
・地理的なウチ・ソトの違いについて:今までは、地理的には近かったとしても生産者との関わりはなかった。だから、生産側の話は自分にとって新鮮だった。なので、地理的なウチ・ソトによる比較にはあまり違いがないのではないかと思う。
・他地域の食べる通信について:取ってみたいと思ったことはある。それは色んな地域の食材を食べてみたいから。しかし、金銭的な問題と、まだまだ東北食べる通信を通じての発見や面白さが続いていて飽きないから取り続けている。
 以上の内容から、地域内ファン層にも同様の変化が起きていることが分かった。それは、生産側のことはあまり理解していない点が、物理的なウチ・ソトの関係よりも影響が大きいからだとの意見である。
 一方で、地域外ファン層には『積極的な行動を起こし、自らの役割を見出す』という特有の性質があげられた。この視点の延長線上として、開発援助での議論を参考にする。佐藤(2005)は、開発援助における外部者がもつパワーの1つとして「為替レートが与えるパワー」を主張した。これは二国の為替レートの違いによって、外部者がもつ小さな資源だとしても大きな影響力を持つ可能性があるという主張である。
 実際インタビュー内容を振り返ると、地域外ファン層が偶発的におこなった、Facebookへの投稿から友人を生産者と繋ぐ行動や都内の飲食店への販路開拓は、地域住民にはない資源を活用し生産者に大きな影響をもたらした行動であったと思われる。そして、それらの行動や影響力が地域外ファン層にとっての役割となり、積極的な行動を促進していた。
ここから考えられる仮説として、以下に提示する。

よそ者が持っている資源は、時に地域にとって大きな影響力を持っている。この影響力がよそ者にとっての役割になり、積極的な行動を促進する。


6.2.2 ふるさと納税との比較
 ふるさと納税利用者の中でも、『ふるさと納税利用の目的として「返礼品の魅力」を主としており、「地域への貢献」等を考慮していなかった人』にインタビューを行なった。内容としては、結果の仮説を説明し、自身の体験と比較していただき、合致する点・相違点とその理由などをお聞きした。インタビュー内容を以下に箇条書きで記す。
・納税先と返礼品について:返礼品の魅力や話題性などから納税先を決定した。期待値を超えるほどの商品も届いた。
・納税先の地域や生産者との関わりについて:返礼品が届いてから、地域・生産者との関わりはない、行きたいとも思わない。
・食べる通信との違い:『思い』に着目した情報を届けることで「共感」や「理解」を促しているかどうか。ふるさと納税では、返礼品の情報を知ってから地域や生産者のことを知る。返礼品をもらうことで満足してしまい、それ以上の情報は追加情報でしかない。食べる通信では、生産者の思いやストーリーを知りたくて購読し、その生産物もいただく。そのため地域や生産者への共感や理解を喚起し次の行動に起こそうという気になるのではないか。
 
 以上の内容から、インタビュー対象者には食べる通信の購読者に見られたような影響や変化がなかったことがわかり、その要因の1つとして情報の違いをあげていた。実際、インタビュー内容を振り返ると、記事を読んで生産者の思いやストーリーに衝撃を受けた、というふるさと納税利用者とは対照的な意見が得られていた。
 ここで、食べる通信における情報に着目し、「ナラティブ型コミュニケーション」について言及する。川端,浅井,宮川,藤井(2014)は、公共政策に関する情報を伝える際に、『「時間性」が明確であり時系列で出来事が整理されていることと,「主体意図性」が強調され活動主体の意図が明確であることの二つをもって,情報の「ナラティブ性」』と定義した時、ナラティブ型情報に対する志向性が高いほど、納得性や納得感、関心向上などといった読了効果が顕著に表れるとの結果を示した。また最近では、創業やブランド成立にまつわるナラティブ情報を与えることで、消費者の既知のブランドに対するSelf-brand Connection:SBC(=個人が自己概念にブランド連想を組み込んでいる程度)が変化するといった研究もされている。
 食べる通信の情報誌は、生産者のストーリーや思いを綴ったナラティブ性が高いと思われる情報が購読者に届けられる。そこで、ナラティブ志向性の高い購読者には、大きな読了効果をもたらすことでファンへの変容を促したのではないだろうか。すなわち、

ナラティブ性の高い情報がファンへの変容を促す

という仮説を提示する。
 ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」では、利用目的を明確にした納税の仕組みとして、ガバメントクラウドファンディング(GCF)という制度を設けている。
 GCFとは、自治体が抱える問題解決のため、ふるさと納税の寄附金の「使い道」をより具体的にプロジェクト化し、そのプロジェクトに共感した方から寄附を募る仕組みである。納税時において自治体の考え方や利用目的を明確にして発信することはナラティブ性の高い情報だという点で既存のふるさと納税と異なり、今後発展的な活用が注目されるだろう。
 また、ふるさと納税について調査を進めると、地域によってはふるさと納税利用者と地域・生産者とが関係を深め影響を与え合っている事例も発見することが出来た。この点について、ふるさと納税のメディア事業等を行う企業の方にインタビューをした。以下に内容を箇条書きで示す。
・ふるさと納税による影響:大きい影響は経済的な効果であり、生産者の事業の黒字化・安定化。
(佐賀県太良町:経営の安定化から、6次産業にも本腰を入れられるようになった。山形県天童市:伝統産業のPRに利用。経済効果からさらにPRに資金をかけられるようになった。)

 一方で、ふるさと納税でもうまく利用者と生産者を繋いで化学変化を起こしている事例も多く存在する。
・三重県南部:寄付者限定のツアーを開催することで、寄付者と地域を繋ぐ。
・都心にて生産者と利用者が交流するイベント:自社主催。利用者との接点は生産者の自信やモチベーションの向上に繋がっていた。
そのような地域においては納税後の導線を、ふるさと納税支援企業(ふるさとチョイス)または地域側が用意していた。また導線の多くは、利用者と生産者が直接関わり合うことができるようなもの(イベントやツアー)であった。
 ふるさと納税利用者と地域・生産者とが関係を深め影響を与え合っている成功事例と食べる通信における分析結果を比較し共通点を検討したところ、ふるさと納税を1つのきっかけとして、その後の導線を用意し利用者と地域の関係性を繋ぐことで、経済効果以外の影響を利用者と生産者や地域が共に与え合っているというプロセスが、食べる通信の購読をきっかけにリアル世界で繋がることで相互作用を与え合う、という食べる通信の分析結果におけるプロセスと一致した。
 一方で、食べる通信の事例において特徴的であった「ファンと生産者のコミュニティ」は、ふるさと納税における成功事例においても見られなかった。両者の事例を比較し違いを検討したところ、食べる通信関係者が強調していた関係性を担保/持続させるためのインフラや場が重要であると考える。食べる通信においてはSNSを通じて購読者と生産者をつなぐインフラとしてSNSを活用することで、離れていても成熟したコミュニティを形成していた。よそ者と生産者・地域をつなぐインフラを整えることがコミュニティの醸成において必要であり、地理的に離れており自然と広範囲に広がるネットワークになるよそ者とコミュニティを維持するためのコストは高くなってしまう可能性があることも踏まえると、SNSの利用は有効な手段であると考える。
 「ロハス」「ソーシャル」そして「関係人口」など、社会をリードするさまざまなキーワードを発信してきた雑誌「ソトコト」の現編集長、指出の著書にも上記に関係する概念として「関係案内所」の必要性が記されていた。関係案内所とは『消費の上にあるきっかけ作りをすることで地域との新たなストーリーや出会いを促す場』のことをいう。食べる通信においては、情報誌やリアルイベントが関係案内所の機能を果たし、消費者でありファンであるよそ者と生産者に新たなストーリーや出会いを促し、SNSは繋いだ関係性を維持する場として機能を果たしたのだろう。
 以上を総合した仮説を以下に提示する。

よそ者と地域の関係性を発展させるためには、地域との新たなストーリーや出会いを促す場と、繋いだ関係性を維持するSNSが必要である。

6.3 分析結果から得られる実践的示唆と考察のまとめ
 最後に、分析結果およびそこから得られた仮説から考えられる、よそ者を活かした地域づくりに関する実践的示唆を示す。

1.よそ者との接点づくりにおける情報発信は、「ナラティブ性の高い情報」を積極的に届けること、すなわち出来事を時系列でストーリーとして整理し活動主体の思いや意図を明確にした情報を届けることが有効である。なぜならナラティブ性の高い情報はより大きな読了効果が期待され、一部のよそ者がファンへと変容し積極的に地域づくりに参加する可能性を高めるからである。同時に地域にとっては、よそ者が自身を理解してくれている安心感を高めることに繋がり、のちのスムーズな関係性発展の助けにもなる。

2.お互いの変化を促進する施策として、よそ者が地域との新たなストーリーや出会いが生まれるよう促すための場を用意する必要がある。よそ者が地域を観光したり地域のものを消費するといった活動は、地域に経済的な効果を与えるがこの効果は断続的なものである。これらの活動は1つのきっかけとして、地域にあるコミュニティスペースやイベント等を活用し、よそ者が地域のストーリーや地域に関わる人との出会いを生みお互いの変化を促進することで、持続的な効果を目指すことも検討する必要があると考える。

3.あえてよそ者と地域の関係を維持することも選択肢の1つである。多くの地域は定住人口を増やすことを目的として活動を行なっていることが多いと思われる。しかし、「よそ者と地域」という関係をあえて維持することで、よそ者はよそ者であるが故に持つ資源を活かすことが可能になる。地域内にはなかったこの資源の活用は、地域にとって大きな影響をもたらす可能性がある。地理的には離れつつもよそ者と地域の関係性を持続させるためにはSNSの利用など相応のインフラを活用することが必要である。


以上、6章を通して得られた考察を表にまとめたものが、以下の表21である。

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第7章 本論文のまとめと今後の課題

7.1 結論 
 本研究では、『よそ者と地域の相互作用に関する仮説を提示し、よそ者を活かした地域づくりに関する実践的示唆を与えること』を目的として、調査と分析を行なった。 この目的を達成するために、食べる通信を事例として取り上げ、その中でも対象を食べる通信の地域外ファン層に着目し、『食べる通信における地域外ファン層と生産者の相互作用のプロセスをモデル化する』という研究課題を設定した。その結果得られたモデル図として、次の図15を再掲する。

C_モデル図

図15(再掲) よそ者ファンと生産者の相互作用のプロセスのモデル

 食べる通信の購読をきっかけにして、生産者とのリアルな出会いの体験や、自身の積極的な行動を通して、ファンは自身の役割を認識し行動する成熟したコアファンへと成長する、生産者もファンとの繋がりによって精神の充足を得ながら自身の新しいスタイルを確立していく、そしてお互いの関係性が誠実で対等な関係であり、お互いを思い助け合う成熟したコミュニティへと変化していく過程が見られた。
 よそ者を活かした地域づくりを実践しようとする人への実践的示唆としては、(1)ナラティブ性の高い情報を積極的に届けること、(2)地域との新たなストーリーや出会いを促すため、リアルイベントやコミュニティなどの場を用意すること。(3)SNSを活用し、あえてよそ者と地域の関係性を維持すること、の3点を挙げた。
 本研究を通して、これまで明らかにされてこなかったよそ者と地域の相互作用のプロセスモデルの一例を提示することで、今後さらによそ者を活かした地域づくりに関する研究が発展していくための礎を築いた。


7.2 研究の限界と今後の課題
 本節では、研究の課題を挙げ、今後の課題について述べる。
 本研究の課題として、サンプルが限定的であることが挙げられる。本調査においては、紹介によって繋がることができた、すなわち限定的な範囲における食べる通信のファン・生産者・編集者の方たちに対して面接調査をしデータ収集を行なった。そのため、食べる通信において取り上げられたストーリーがおうむ返しされていた可能性や、他地域の食べる通信における地域外ファンと生産者、または広く一般的によそ者と地域における相互作用のプロセスとは異なる可能性などが考えられる。
 関連して、本研究ではその分析対象の性質から、よそ者と地域の関係性や変化を全体的に俯瞰して見ることは出来ていなかったという点があげられる。研究課題における分析対象は「地域外ファン層と生産者」に絞り、地域への影響については、生産者の変化を地域の変化の一部として捉えることでその相互作用を明らかにした。しかし「よそ者と地域の相互作用」には、今回の視点では捉えきれなかった変化があると考える。その具体例として、「ファンと生産者のコミュニティは入りづらい」という記述が文献には見られるにも関わらず、分析結果には現れなかった。これはより俯瞰的な視点に立って分析することは出来ていなかった結果だろう。
 そこで今後の課題としては、まず分析対象を様々に設定し直して比較することが考えられる。よそ者を活かした地域づくりに関してさらなる仮説の導出をおこなうことで今後さらにこの研究分野の発展が期待できるだろう。本研究での比較による考察は、仮説を導出することを目的として、少人数へのインタビューと分析結果との比較から行なったが、より厳密なデータ収集と分析や、他分析対象の設定による可能性はまだ大いに存在すると考える。また仮説の導出においては、他研究分野との比較検討も効果的な可能性がある。
 また定量的な実証研究を通して仮説の妥当性を検証することも求められるであろう。本研究は仮説提案型であり、今までにないモデルを提案した。そのために次に待たれるのは仮説の妥当性を検証することであり、これにより精緻な実践的示唆をもたらすことが期待できる。

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