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【学生系科目】大学受験のウソ採点実感

第1問(配点:100)

 2022年4月、あなたは高校1年生の甲の家庭教師をすることになった。現在甲は文系であり、国立大学の法学部を志望しているが、他にも私立大学は複数受験する予定だという。甲に「先生、今の時点で英語・国語・数学のどれに最も力を入れたらよいでしょうか。またセンター試験(現・大学入学共通テスト)では社会のうち、地理・世界史・日本史のうちどの二科目を選択するとよいでしょうか」との質問を受けた。現在の甲の成績は、偏差値50前後である。また甲は部活動に勤しみながらも、勉強に対する意欲はある。

設問
 甲を志望大学に合格させるために、どのような返答をすればよいか、判例の立場も踏まえながら自説を述べなさい。

1 出題の趣旨等

 出題の趣旨及び狙いは、既に公表した出題の趣旨の通りである。

2 採点方針

 現役大学受験まで、まだ3年間の猶予がある甲に対して、自身の経験も踏まえながらどのような適切なアドバイスができるか対応力を測ることを目的とした。胡散臭い助言や価値観の押し付けを求めるものではなく、甲の得意不得意や各大学の科目配点、参考書・演習書の充実っぷりといった具体的事実を注意深く分析したうえで、臨機応変にアドバイスする能力があるかを確かめることとした。

3 採点実感

第1 論述内容全体について
  論じるべき点が多岐にわたるため、厚く論ずる部分と簡潔に論ずる部分を選別して、手際よく論じる必要があったが、問われていないことを冗長に論じる答案が一定数見られた。甲は一般受験をすることを前提としているにもかかわらず、一般受験と指定校推薦のどちらが優れているかなど、古来からTwitterで炎上している学説の対立にまで触れている答案が見られたが、問題の所在を理解していないものと思われる。

第2 設問前段について
(1) 英語をすすめた答案について
 判例の立場と同じく、まずは英語の勉強をすすめる答案が多数であった。ほとんどの大学において英語の配点が大きいこと、早くから英単語を覚えた方がいいことなどの諸要素を、本問の事情に適切にあてはめて論ずることが求められており、多くの答案は必要な論述がなされていた。
 また、おすすめの英単語集として、鉄緑会の『東大英単語熟語 鉄壁』を挙げている答案も少なからず見られた。『システム英単語』のような王道のものを勧めないところに思想の強さが伺えるが、実際に甲に鉄緑会の英単語集を使用させるには、自説の論述の整合性に配慮しながら分かりやすい文章で表現することが求められる。甲はまだ高校1年生であることに加え、偏差値50前後と平均的な生徒であるから、重厚感があり青黒く光っている英単語集は、少々負荷が重いようにも考えられる。このような分析まで踏まえて、説得力のある論述をしている答案は極めて少数であった。

(2) 国語をすすめた答案について
 判例の立場をとらない論述をする場合には、判例に対する的確な批判をしたうえで自説を述べる必要があるところ、そのような分析ができている答案は必ずしも多くなかった。
  現代文は確立した勉強方法が提唱されていないのが難点であるところ、これに対する適切な対策まで言及した答案は、ごく一部にとどまった。センター試験で「おほほほほほほほほほほ」「あはははははははははは」という文章を見かけても狼狽えない精神力が重要となる。

(3)数学をすすめた答案について
 確かに、数学が得意な文系はさまざまな場面で有利となる。しかし数学はときに裏切る科目であり、そのような特性に対する分析がやや不十分な答案が一定数見られた。
 中には「センター試験で、間違って数ⅠAじゃなくて数Ⅰを解かないようにねw」と論述した答案も見られたが、高校1年生のときに伝えられても頭の片隅に葬られ、3年生になれば忘れ去られてしまうため、センター試験直前に口酸っぱく伝えるべきである。

第3 設問後段について
 本設問では、明確に「地理・世界史・日本史」があげられているにもかかわらず、倫理や政治・経済を論述している答案が少なからず見られた。
 多くの答案は世界史を含めた論述をしており、法学部を目指している甲に対するアドバイスとして適切だと思われる。憲法の短答式試験において「マグナ・カルタ」や「人間と市民の権利の宣言」などの単語を見かけても腰を抜かさないようにするためであり、ただでさえ完答をしないと点数が入らず緊張感の高い憲法において、えんぴつを転がす事態は防がねばならない。

 他にも、世界史との相性の良さから地理をあげる答案が多く見られたが(有力説)、一方で記憶力に自信のある立場から日本史をあげる答案も少なからず見られた(少数有力説)。「盟神探湯」や「曼荼羅」など書くのも読むのも困難な熟語が散見され、世界史用語との画数の温度差で体調を崩しそうになるが、そのような弊害まで拾い上げて当てはめを行い、説得的な結論を導くことが求められる。

4 教育に求めること

 自分の大学受験の苦い記憶を思い出して、体調を崩す方もいると思われる。どのような形であっても、自分の経験に照らした反省点などを後世に伝えるのが重要である。また「センター試験」と表現すると一発で世代が露呈するため、「大学入学共通テスト」と表現して世代を濁す方法も、生きていくうえでポイントになるタイミングがあるかもしれない。


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