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私が受験生の時に読みたかった合格体験記

 令和5年度の司法試験に合格しました。まだ、ギリギリ自語りさせて欲しい。

 中学受験でも大学受験でも第一志望校に敗れているため、人生においてまともな合格体験記を書いたことがない。12歳の私と18歳の私が成し得なかったことを、25歳の私が鼻息を荒くしながらリベンジしようと思う。

 ただ、「ロー生活の過ごし方」や「合格する勉強方法」を得意気に語るつもりはない。私が書いてみたかった合格体験記は、本来そのように過去を振り返るものであったが、ほとんどの勉強方法は、結果を出したことによって後から「正」に塗り替えられるだけにすぎない。結局は、n=1の範疇を出ない。だから、個人的に「自分が受験生だったときに知りたかったこと」というコンセプトで書き進めてみることにする。

1. 模試を受けなかった

受験生の私「みんなTKC模試とか受けてるし、私も受けた方がいいのかな。ネットで調べたり、先輩に聞いたりしても、5日間拘束される経験をするために受けたほうがいいって言うけれど」

 模試を受けるメリット・デメリットを比較衡量して、私は模試を一つも受けないという判断をした。

 最大の理由は「自分の立ち位置を知りたくなかったから」に尽きる。つまり、成績が良かったら良かったで慢心して気が緩み、成績が悪かったら悪かったで落ち込んで勉強が手につかなくなる自分の姿が想像に容易かったからである。成績で一喜一憂するタイプという自覚があった。
 逆を言えば、成績が良かろうと悪かろうと揺さぶられないメンタルの持ち主にとっては、自分の現状把握をして勉強方針の修正をするために、模試を受けることは有用だと思う。

 友人たちに「どうして模試を受けるのか」と聞くと、ほとんどの人たちが「5日間試験を受ける経験をしておきたいから」と答えた。
 それは間違いない。試験という独特の緊張感、集中力の持続の可否、2~3科目の論文を書ききる腕力の有無、中日の過ごし方……変態な5日間を乗り切るためには、これらを確かめる必要がある。

 そこで、最大のメリットの一つである「試験を受ける経験」を享受できない代わりに、集中力の訓練をする必要があると考えた。そのため、毎週月曜日は司法試験1日目もしくは2日目と全く同じスケジュールで過去問を解いた。朝から夜まで缶詰状態の出来上がりである。

引用:https://www.moj.go.jp/content/001390554.pdf

 毎週月曜日に司法試験と同じスケジュールを過ごすという日々は、2023年2月から5月まで続けた。最初の頃は疲れ切って屍となり帰ったが、初夏に入ると、夜は夜で自分の勉強ができるぐらいには体力がついた。

 ところで、なぜ冒頭で「勉強法は語らない」と息巻いたにもかかわらず、直後に勉強法を語り始めたか。在学中受験が解禁された今、この勉強法は参考にならないからである。つまり、こんな贅沢に一日を費やせたのは時間のある修了生だからできたことであって、授業の予習復習に追われる在学生におすすめすることはできない。

 伝えたいメッセージとしては、模試を受けない代わりに毎週月曜日を犠牲にしたように、「やらない」ということは「代わりにやるべきことが生ずる」ということである。同様に、「やる」ということは「代わりに諦めるべきことが生ずる」ということも当てはまると思う。

 でも私は、スマホ上でTwitterの使用時間の制限をかけていたのに、試験直前期でも1時間以上Twitterに張り付いていたから説得力ゼロです。はい、おしまい。ちゅ、怠惰でごめん。

2. おすすめしたいホテル泊

受験生の私「5日間、試験会場近くのホテルに泊まったっていう先輩もいたけど、お金もかかるし実際どうなんだろう」

 模試を受けなかったことで浮いた4~5万円を、ホテル代にあてた。

 ただでさえ緊張する司法試験本番の5日間、慣れないホテルの部屋で過ごすことに多少の不安はあったものの、枕を持っていくことにしたので、よしとした。案外どこでも寝れるタイプなのが功を奏した。

 ホテル泊の最大のメリットは「満員電車のストレスから解放されること」と「遅延リスクを回避できること」である。極限状態にある当日の朝、駅のホームで、もし‘体当たりおじさん’にエンカしてしまったら、地の果てまで追いかけまわしてしまう自信がある。無敵の人 vs 無職である。

 あと、一人暮らしの人にとってのメリットは「最悪、寝坊しかけたときはホテルの人に起こしてもらえること」である。家族、友人に「朝〇時までに私の反応がなかったら、鬼電してもらってもいいかな」と狂気のお願いをして回った。それでも起きられない場合の最終手段として、ホテルの人に物理的に叩き起こしてもらうというものがある。背に腹はかえられない。

ー浜松町近くのおすすめホテル

 私の試験会場は東京都立産業貿易センター浜松町館で、そこから900m歩いたところにある「ホテルリラサーレ東京」というホテルに泊まった。

 2022年7月オープンの新しいホテルで、建物が綺麗だった。朝食会場が別の建物にあって、少々外を歩かないといけないが、日の目を浴びる瞬間はそれぐらいしかないので、むしろ助かる。

 そして、いざ泊まってみて気付いたが、個人的にはビュッフェスタイルより、決まったメニューを出されるスタイルの方が良い。なぜなら、緊張のあまり、食欲が皆無になるからである。ビュッフェスタイルだと、青い顔色のままトングを持って立ち尽くす自分の姿が想像できる。正直、食べたいものなど一切ないのだ。何かを口にすると、代わりに何かの論証が頭から出て行ってしまう気がする。

 けれど絶対に、ある程度朝食は食べた方がいい。それだけは間違いない。
 その点、ホテルリラサーレ東京の朝食は、決まったものが出されるため、頭を空っぽにして、ただただ完食を目指せばいい。

 朝食会場には私以外に2人、司法試験受験生と思われる男女がいた。5日間連続で顔をあわせ、虚ろな目で一生懸命何かを読みながら朝食を食べる人種は、司法試験受験生しかいないだろう。
 朝食会場内のスクリーンに、瀬戸内海の様子らしきもの(?)がリアルタイムで映し出されていたが、終始、霧が充満していてよく分からなかった。5日間、霧を見ながら「今日も頑張ろう」と思っていた。

3. 短答式試験は110点台

受験生の私「例年の合格者短答平均点を割ったんだけど、おしまい?」

 自己採点が終わって、昨年合格した友人に「合格者平均点を割るんだけどここから逆転できるかな」と半分泣きながら電話をかけた記憶がある。私の短答式試験の点数は110点台だった。

 Googleで「司法試験 短答 低い 合格」で検索して、短答の点数が悪くても最終合格した人のエピソードを、藁にも縋る思いで探した。なかなか見つからなくて、検索ページを6ページ目まで読んだ。あんたたちみんな140点ぐらいとってるじゃない!と憤慨して寝込んだ。
 こんな最も多感な時期に、5chを見るという自傷行為がやめられなかった。「短答110点台はまず合格しない」というコメントを見たときは「どうしてそんなひどいことを言うの!?」と憤慨して寝込んだ。

 令和6年度以降の司法試験を受けて短答の自己採点をしたら、思ったより低くて、泣きそうになりながら検索を続けている受験生たちを、今から全力で励まそうと思う。短答の配点は175点だが、論文の点数は1.75倍されるから、今明らかになったのは全体のうち1/9にすぎない。どう考えたって、今後の勝敗を決するのは残りの8/9だ。司法試験は論文ゲー

 目と耳にタコができるぐらい「短答の成績と論文の成績は比例している」という提言を見聞きした。確かに、短答の点数が高い人は、論文も優秀な成績を修めてくる。「短答◎→論文◎」はあてはまる話で、この層においては「比例している」といえる。
 しかし、短答の中間層(合格者平均点±10点ほどを指すことにする。短答3~5問分をより当てたか間違えたか)は「短答〇→論文◎/論文〇/論文△」と、どのパターンもあり得る。この層においては「比例している」とは言い難い。

 あ、ただこれを読んでいるこれからの受験生たちは、気を引き締めて短答の勉強をするように。司法試験は短答ゲー!短答を制すものが、司法試験を制す!合格発表日まで穏やかな日々を過ごそう!

4. おわりに

 一緒に令和5年度の司法試験を受けた私たち、本当にお疲れ様でした。就活をしたり、また来年に向けて取り組んだり、各々「一難去ってまた一難ぶっちゃけあり得ない」状態が続いているけれど、お互い体調には気を付けよう。

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