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低用量ピルのおかげで司法試験に合格した話

 生理痛は、いかにも諸悪の根源である。
 私に生理痛さえなければ、全てのテストで100点満点をとり、部活では自己ベスト記録を更新し、学校一のモテ男子に告白され、全てがうまくいったはずである(以下「進研ゼミ漫画現象」とする)。

 ただ、生理をめぐる様々なトラブルを緩和させたことによって、司法試験に合格することはできた。ベネッセも驚きの展開である。
 生理痛やPMSが完全に消滅したわけではなかったが、低用量ピルを活用してから随分と生きやすくなった。少なくとも試験期間が5日間もある司法試験との関係においては、ナイスな判断をしたと思っている。

 そんな私の体験談をまとめておきたいと思う。
 念のために強調しておくが、このnoteはピルの服用をむやみやたらに推奨することを趣旨としていない。吐き気や不正出血の副作用があったり、血栓症のリスクが高まったりすることは、調べたらすぐ出てくることであり、病院でも必ずお医者さんから説明を受ける内容である。
 服用するしないは完全なる個人の自由であり、悩んでいる司法試験受験生にとって判断材料の一つになれば幸いである。


1. 生理痛とPMSに怯える日々

 個人差はあるものの、私の生理痛を形容するなら「骨盤を臼にして延々と餅つきをしているような痛さ」だった。あの痛みは、1週間ものの間ずっとBPM160を保ち続けていた。ぺったんこーが鳴りやまない。

-空気を読んでくれない生理痛

 特に生理2日目が痛みのピークなのだが、そんなクソったれな2日目とロー入試が被ったことがある。
 大学4年生の私はまだピルを服用しておらず、生理痛の予感がしたらすぐバファリンを手に取るという対症療法しかとっていなかった。そして、生理痛には「常に存在している鈍痛」と「たまに大波として襲いかかってくる激痛」の2種類がある。

 今でも鮮明に覚えているが、当時、憲法の試験時間中にその「大波」がやってきた。当然のことながら集中力はかき乱され、1秒でもはやくお手洗いへと向かう必要に駆られたが、試験時間の1秒は金の1粒であるため、自席でただただ耐える選択肢を選んだ。マズい。波が大きすぎる。さっきからずっと同じとこを読んでいる。
 問題文中のXの人権をどうこうする前に、私の人権がどうこうなってしまいそうだったが、幸いにも5分程度で「大波」は過ぎ去った。

 ただその5分は、体感として30分だった。トップスピードで走っている真っ最中に、予告もなしに突然強制的に足止めを喰らう感覚は、今でもうっすらとトラウマになっている。

コロナ禍×ロー入試×生理の三重苦だったときに
カフェオレをこぼして半日呆然としていたことがある

-情緒をおしまいにするPMS

 そして生理痛もさることながら、何より生理前のPMSが本当にキツかった。些細なことでひどく落ち込んだり、イライラしたり、とにかく情緒が安定しなかった。私が10代だったら、そのメンタルのまま深夜にTwitterで過激なツイートをし散らかしていたと思うし、いくつか炎上を起こして滝沢ガレソにまとめられていたと思う。

 気付けば、寝る前に勝手に泣いているときもあった。希死念慮のようなものを抱いて深夜に1人でワンワン泣くと、きまって翌日に生理が始まった。精神的に塞ぎこむ日々が続くぐらいなら、もはや生理がはやく始まってほしいとさえ思っていた。

2. ピルを服用することにしたきっかけ

 周囲ではピルを服用し始めた子も増えており、漠然と「ピルもアリだよなあ」と考えてはいた。ただ、決定的なきっかけがなかった。

 その間、PMSで苦しむ期間はどんどん長くなっていた。当初は生理前の3日間程度だったものが、気付けば1週間、2週間…と容赦なく長くなっていた。2週間というのはつまり半月であり、いくらなんでも長すぎる。
武蔵小杉駅における南武線から横須賀線への乗り換え距離ぐらい長い。動く歩道でもつけてくれないと納得できないぐらい長い。

-救急車を呼ぶか悩んだ午前4時

 そんな時、低容量ピルを服用することにした決定的な出来事があった。

 いつものように寝ていると、午前4時頃に突然、下腹部を刺すような鋭い痛みが走った。この時は生理直前期だったため、そろそろ生理がお出ましになるからではないかと考えた。
 とはいえ、今まで一度も経験したことないレベルの激痛。流石に生理とは関係ないところで不調が起きているのではないか?と考え、救急車を呼ぶかすごく悩んだ。判断を仰ぐために、半泣きで#7119に電話をした。

 電話先の眠そうなお姉さんに「歩けそうならご自身で病院に向かってください。無理そうなら救急車を呼んでください」と至極真っ当な案内をされ、そりゃそうだよなと情けなくなった。パジャマのまま、自分の足で歩いて病院に向かうか一瞬考えた。平成のニコニコ動画の踊り手みたいな恰好だが仕方ない。ハッピーシンセサイザのめろちん?

 お姉さんに、今の時間も患者を受け入れていて、かつ私の家から近い病院を3つほど教えてもらった。行く前に病院に電話をしてくださいとのことだったため、全ての病院に電話をかけたが、理由は忘れたものの全ての病院からたらい回しにされた。両手を振りかざして、日本の病院は冷たすぎる!と嘆いていたら、いつの間にか痛みは治まり二度寝をしていた。

-多分、5日間の神引きはできない

 体感として私の1か月間は、生理前の約2週間は「しんどい期」、生理中の1週間は「おしまい期」、生理後の「すてき期」、それが終わった後の「むくむ期」の4つから構成されていた。

必死さを伝えたいため手書きで失礼する

 1か月のうちにたった5日間しかない「すてき期」は、その期間の短さもさる事ながら、なによりランダムでやってくるため、司法試験の5日間にぴったり重なってくれる確率は限りなく低いと考えた。中学受験でも数ⅠAでも確率は苦手だったが、そんな私でも限りなく低いということだけは分かる。

 例えば、司法試験に「おしまい期」が重なりようものなら、大波に耐える時間として私だけ試験時間を150分にしてもらわないと困る。しかし、こんな要望をされる司法試験委員会の方が困るだろう。
 全力で司法試験に集中するために、自分の生理にちゃんと向き合わないといけないと考えた。

3. 服用を始めてからの受験生活

 2022年の10月、つまり司法試験の約10か月前からピルの服用を始めた。体がピルに慣れるまで2~3か月を要すること、そして色々試して自分に合うピルの種類を探すことなどを踏まえれば、10か月前はギリギリな気もする。

 最初は「ヤーズフレックス」という、生理が3か月に1回だけくる種類のピルにした。生理の回数が減るなんていう素晴らしいことがあるのか。ソクラテスと生理だったら、ギリギリ生理の方が減ると嬉しい。
 飲み始めの副作用としては吐き気があり、夜中に何度か起きた日もあったが、#7119に相談するほどではなかったためなんとか耐えた。もうあの眠そうなお姉さんの声を聞かずに済むのなら助かる。飲み続けていると、いつの間にか吐き気もなくなった。

 ヤーズフレックスに慣れてきた頃、他のピルも試してみたかったため、次は「ジェミーナ」という種類に変えてみた。こちらの方が吐き気が激しかったため、1か月間服用してすぐにやめてしまった。

基本的には化粧ポーチに入るサイズ感

 ピルもいいことだらけではなかった。というのも、毎日続けるには金銭的に厳しいものがあった。
 保険適用のピルは一度の通院で最大3シートまで貰うことができるのだが、1シートあたり約3000円のため一度に9000円の出費がかかることになった。法科大学院を卒業して無職を余技なくされる私にとって、9000円は一考を要する金額である。弁護士になれたらペイできるかもしれないが、来月のカード引き落とし日の私がペイできない。

 そこで、ジェネリックの「ドロエチ配合錠あすか」に変えた。ドロエチという名前もいかがなものかと考えなくはなかったが、1シートあたり約1000円までお手頃になったため、随分と買いやすくなり助かった。
 このピルは生理が1か月に1回くるのだが、生理日を自由に調整することができるため、ありがたく司法試験とずらした。無事、司法試験と「すてき期」を重ならせることに成功した。

ありがとう、あすか

-劇的な変化までは期待せずに

 とはいえ、ピルを飲んだからといって進研ゼミ漫画現象が起きるわけではない。軽度のPMSは今もあるし、立っているのがつらいほどの生理痛は依然と残っているし、生理をめぐるしがらみをピルが全て消し去ってくれるわけではない。

 これは既にピルを服用している時期のツイートだが、ホルモンが安定していてこれである。何より、司法試験1か月前ぐらいTwitterを控えてほしい。

 しかし、ピルを飲み始めてからは、生理前日に泣くことも、無差別にイライラすることも、救急車を呼ぶべきか悩むほど下腹部痛に悩まされることもなくなった。生理の血の量は減り、40cmの夜用ナプキンをつけても起きたらベッドが殺人現場みたいになっている朝もなくなった。
 劇的な変化まで期待してしまうと物足りなさがあるかもしれないが、それでも、生理がつきまとう人生を許容できるようになった。

4. おわりに

 司法試験のつらさに、基本的に性差はないと考えている。しかし私にとって、生理そのものは、勉強をするうえで弊害でしかなかった。
 ピルのおかげで司法試験に合格できたといっても過言ではないほど、たくさん助けられた。今苦しんでいる人にとって、選択肢の一つになれば幸いである。

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