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「花をもらう日」

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失業していた27歳のときの、約1年のこと。連載のように書いていきます。フィクションですが、ほぼノンフィクションです。
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記事一覧

『花をもらう日』第一章 無職、はじまる①

「またいつかどこかでお会いしましょう。さようなら」  言い終えるとわたしはカフ(マイクの…

北村浩子
4年前
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『花をもらう日』第一章 無職、はじまる②

「短大を卒業し、大手メーカーに3年勤務したあと、FMラジオ局に転職。会社に不満があったわ…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第一章 無職、はじまる③

 わたしの部屋に電話はない。K市で独り暮らしをしていたときに使っていたものは、同期にあげ…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第一章 無職、はじまる④

「浩子ちゃん!」  約2年ぶりに会うSさんは生き生きしていた。もともと見目麗しい人だった…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第一章 無職、はじまる⑤

 名刺の住所にデモテープを送ってしまうと、わたしは他に何をしていいのか分からなくなってし…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第一章 無職、はじまる⑥

 Uさんは煙草を灰皿に押し付けながら、独りごとのように言った。  「ヒロコちゃんって、皿…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第二章 苔が生えた①

「……そういう求人は、今まで一件もないですねえ」  薄いガラスの向こうで、担当の女性は眼鏡の縁に手をやった。からかいが声にこもらないよう気を遣ってくれているのが分かった。そうですよね、とわたしは薄く笑った。真っ昼間の蛍光灯の光は肌の色をくすませるなあと心を飛ばしてみる。  「希望の職種」の欄にアナウンサーと書いた人間はかつていただろうかと思いつつ、わたしはためらいもせず大きな文字でそう書いたのだった。1か月前、ハローワークの世話になろうとはこれっぽっちも思っていなかったからだ

『花をもらう日』第二章 苔が生えた②

 応対してくれた女性マネージャーは、口の端にあきらめたような笑みを浮かべてわたしを見てい…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第二章 苔が生えた③

 浅黒く整った顔。麻のスーツ。組まれた指の爪の白さ。30代前半と思しきその男性の青年実業家…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第二章 苔が生えた④

 検査の機械に顎を乗せる。黄色い液で眼球を染められる。大きな双眼鏡のようなものを覗き込ん…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第二章 苔が生えた⑤

 次の日の昼過ぎ、NHKの玄関前にいたのはあの女性マネージャだった。  数メートル手前で立ち…

北村浩子
5年前
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「花をもらう日」第二章 苔が生えた⑥

 細い廊下の先に、公開放送の番組でよく見るような広々と明るいスタジオが開けていた。  数…

北村浩子
5年前
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「花をもらう日」第二章 苔が生えた⑦

「えーと、実は、もうひとつオーディションがありましてね」  今度はEテレの経済番組なんで…

北村浩子
5年前
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『花をもらう日』第三章 きょうだいたちとの仕事①

 バスロータリーの向かいに、銀行や生命保険会社の看板が付いた背の低い建物がいくつかある。それらの1階にはファストフード店、定食屋、コンビニが入っている。府中競馬場の正門前からひとつ離れた駅の、ごく普通の個性のない風景を、わたしは気に入った。  夜10時にかかってきた電話で、明日から来ていただけませんかと言われたとき、脱力した。ほっとしたのとさびしい気持ちがないまぜになって、ため息が出た。引導を渡したのか渡されたのか、どちらなんだろうと思いながら眠りについた。  しかし翌朝の