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【300字小説】美しい靴底

 近所に新しく靴屋ができた。けれどまだ開店しているところをみたことがない。いつも「皮をなめしています」とか「靴紐を紡いでいます」とか、何らかの理由で店を閉めている。

 その店が気になりすぎてとうとう昨晩夢をみた。店主であろう人物が接客をしてくれて「新作の、哀しいけれど美しいレインブーツがおすすめです」と言う。
 差し出されたのは、こげ茶色の上品なレインブーツだった。靴底を見るように促され、そっと裏返すと一面うすピンク色だ。よく見るとそれは無数の桜の花びらを模しているようで、なるほど美しかった。そこで夢から醒めた。

 今日もあの靴屋の前を通る。「桜が雨に散って哀しいので休みます」とシャッターに書いてあった。

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