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祈る夜

 出会った頃から、あなたが元カノに未練たらたらなことは仲間内でも有名な話だった。だから、みんなで飲む時にいつも隣に座ってくるのも、はじめて連絡先を聞かれた時にもわたしはただ困惑していた。そして、真意は未だにわからない。あなたはきっとただの悪い男で、なのにいつからか、わたしは魔法にかかってしまった。未練を語る愛情に満ちた横顔。それを見つめていて、どの瞬間からわたしは、顔も知らない彼女を妬ましく思うようになっていたのだろう。

 今はただ、会いたい会いたい会いたい。隣りに座ってくれなくてもいいし、教えたアカウントにろくにDMをくれなくてもいい。ただあなたのことを考えてしまう。顔を見たいと願ってしまう。いつもあなたが言う彼女の好きだったところは、悲しくてもうちゃんと聞き取れない。

 でも、唯一の救いは、これは恋特有の一過性の感情だということをわたしがきちんと知っていること。毎晩彼への想いを抱きしめながら、けれど同時に、早くこの魔法が解けてくれるのを、夜ごとただ祈っている。

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