続・京都〜日光を9日間で走った話(その1)
「え?今年も開催するんですか!?」
あの、今までの人生観をことごとく覆すような輝かしい黄金の日々。京都から日光までの旧中山道と日光例幣使道を通りし古の例幣使の行脚を、自らの足で走って再現するという大いなる歴史とロマンに満ちた大会。昨年度その第一回大会にいち早く応募し、数々の艱難辛苦を乗り越えてなんとか完走を果たした私でしたが、それから数ヶ月後のある日、翌年は開催されないと話していた大会主催者から、今年の開催が決定したとの吉報が届きました。
私は昨年は確かに完走はいたしました。しかし、570キロを走り抜くという前代未聞の距離にばかりに囚われ、その道中の光景の素晴らしさ、歴史的建造物や街道の美しさ、地域ならではの食の楽しさなど、本来の中山道の魅力を十分に享受できたかといえば、それは残念ながら未達であったと言わざるを得ません。一日平均70キロを迷うことなくいかに走り切るか、そしてその日の夜のルーチンをいかに効率的にこなして翌日までに体力を回復させるか、その予定調和をつつがなく成就させるためには私にとってはやむを得ない施策ではあったのですが。
しかし、それではあまりにも勿体なさすぎます。
今大流行中のChatGPTに、「旧中山道を走るということはいかなる魅力がありしか」と問い合わせをした所、かのAIは下記のような回答を指し示して下さいました。
先生、まさにおっしゃる通りでございます。折角昨年度自らの足で中山道を走ったというのに、私はこれらの魅力を存分に享受できなかったではないですか。点数で言えば100点満点中30点くらいの出来ではなかったでしょうか。
本年度は昨年の赤点の無念を晴らすべく、捲土重来をきたして万全の体制で望むべし。そう私は考え、今年も私は募集が開始されて30秒後には大会へのエントリーを終えていました。主催者もこの私の並々ならぬ意欲だけは存分に感じ取っていただけたものと思います。ただしエントリーだけしてお金を払い忘れており一ヶ月後催促は来ましたが。
さっそく私は昨年レース後に買い求めた中山道ガイドブックの他に、中山道の参勤交代をもとにした浅田次郎氏の時代小説「一路」上下巻を古本屋で買い求め、昼も夜も貪るように読破しました。
とにかくこの浅田次郎氏は文章が上手いのです。「参勤交代ハ行軍也」といった、主人公の旗本家に古くから伝わる古文書を創作するのみならず、人物描写や所作などの言い回しが非常に上手い。私はページをめくるごとに何度涙で紙面を濡らしたかわかりません。
特に、安中藩の遠足を得意とする三人の武士たちが、書面を江戸まで届けるために100キロを7時間のスピードで走破した「風神の秘走」の下りには感嘆いたしました。ぜひ日本陸連におかれましてはこの秘技をマラソン日本代表にも取り入れていただき、次回のオリンピックでは悲願のメダルを勝ち取ってもらいたいと思います。瀬古さん聞いておりますでしょうか。
ああ!150年の歴史を超えて私の心はまさに天を駆ける馬のごとし。そうして眼前にありありと迫ってきた克明な中山道の姿を目の当たりにし、スタートの一ヶ月も前からエンジンが全開となって今か今かと大会の開催日を待ち望んでいた私でしたが、一つだけ懸念事項がありました。
それは昨年できなかった食料の調達ポイントの整理がまだできていなかったことです。昨年度は長い間自販機やコンビニがない区間がありあやうく干上がってしまう寸前にまで達した苦い体験を踏まえ、今年はルート上のコンビニや食堂などの位置や開店時間を予め調査し、食料の適切な補給計画を建てることにしていました。これさえあれば鬼に金棒、安心感が全く違います。まぁ土日休みを一日どれか使って集中的にやれば大丈夫だろう。
しかし、私の当時のその考えは、まさに虎屋の羊羹に蜂蜜をかけたごとく、あるいは大福餅にシュークリームをトッピングしたかのごとく、あまりにも甘すぎたことをすぐに知ることになろうとは、当時の私は全く想像だにしておりませんでした。
(次回に続く)
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