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Story: One Team! ~ グローバル経営は幻想じゃない ~ ⑩

僕は深呼吸をしてからアオシマに問い直した。
「チャラチャラ族ってどういうこと?」
アオシマは言いにくそうに僕にこう言い返してきた。
「トニコバさんは僕たちと違ってエリートですからね。製造現場からのたたき上げのカンノ社長とはかなり肌合いが違うということを前提に聞いてくださいね。」
「いやいや、アオシマ君、僕は実際にエリートじゃないし・・・」
「トニコバさんみたいな海外で長くやってらした方は僕たちとは醸し出すオーラが違うんですよ。」
「オーラ?」
「トニコバさんは、外国人の幹部社員が日本の本社にきて挨拶するとき、ハ~イとか言って男性女性構わずハグしてますよね?」
「へっ?それって普通にするじゃない?」
「いえいえ。カンノ社長はこう感じています。トニコバさんたちはちょっと英語ができるからと言って『自分たちを眺めているお前たちとは人種が違うんだよ!』とこれ見よがしに周りに自分たちの優越を見せつけている、と。」
それを聞いて僕は少しめまいがしてきた。
「はぁ~!?なにそれ!別に外国かぶれでもなんでもなくて、現地で一緒に仕事してきた連中に久しぶりに会う時にする挨拶をしていてなんで気分を悪くされるんだろう?」
「いつもカンノ社長はトニコバさんたちを見て『ここは日本だぞ!このチャラチャラ族め!』ってつぶやいていましたよ。チャラチャラ族っていうのはカンノ社長から見て外国かぶれのオツムのいかれた野郎って意味ですよ。」
アオシマの言葉に僕は何とも言いようのない絶望感を感じた。
売上金額が2兆円を超える世間的には大企業のトップが外国人幹部社員と自分の部下の日本人社員が欧米流に挨拶している光景を見て気分を害するなんてありえないことだ。ここはグローバル企業ではないのか?


「あのぉ、トニコバさん。カンノ社長は形容詞や概念的な表現は大嫌いですから気を付けてください。」
「どういうこと?」
「いや・・・。実はトニコバさんの前任者のカクイさんは随分苦労されてまして・・・。一度報告に行った時のことですが。」
「カクイさんがどうしたの?」
カクイさんは有能で海外でのビジネス経験豊富だし人間的にも素晴らしい人だと思う。カクイさんが55歳の役職定年で部長席を外れて、宣伝広報部で資料翻訳の仕事をやっている。なんでこんな有能な人にこんな仕事をさせているの?と思ったのだが、本人は飄々と仕事をされていて世の中というものを達観されているようだ。それにしても会社として資源の無駄使いじゃないのか?と思うが、いかにも世渡り下手なカクイさんらしい。
「カクイさんがカンノ社長への冒頭の報告の途中で『この会社には危機感が足りない』と言ったんです。すると『危機感って具体的などう感じること?』と切り返されて、『君たちのような頭の良い人はすぐキレイな言葉を使って人をごまかそうとするんだ』と言われたのです。それは一例ですが、ことある毎に言葉尻をとらえては嫌味を言われてました。どうもカンノ社長は海外履歴が長い人って生理的に嫌みたいです。」

「そういうことが有るんだ・・・・。でもなぜどういうことになったんだろう?」
「以前に、海外工場立ち上げのために海外出張した時に、その国の事業パートナーである代理店社長にろくに英語であいさつができなくて、同行した海外事業担当役員に『英語もしゃべれなくてよく役員やっているな!』と罵倒された経験があるらしいんです。それがトラウマのようになって、今でも海外事業に携わっている日本人に対しては虫唾が走るっていうやつでしょうか、嫌悪感をもよおすらしいです。」
「えっ、そんなことで・・・?」
僕はアオシマの話に戸惑った。
「海外に携わる人間全員か?」
「いえいえ、しっぽを振ってくる人間は大丈夫です。海外のビジネスに精通して軸がぶれずに正論をはいてくる人たちは排除されます。」
なんてこったと心の中で僕はつぶやいた。クロッカス電機はれっきとしたグローバル企業だ。
そのトップが海外のビジネスに携わる日本人社員を毛嫌いするという話はばかげているというレベルを通り越して僕にはあまりに荒唐無稽な話のように聞こえた。

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