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Story: One Team! ~ グローバル経営は幻想じゃない ~ ⑧

【第1章 仕事始め】
海外駐在を終えての帰国後の日常生活の立ち上げは面倒くさいことが山積みだ。
連日役所や学校などの色々な手続きや引っ越しの手配や挨拶回りなどでパニクっている奥さんをしり目に、僕自身は仕事に関してはなんとか片付けも終わり、はやる気持ちを抑えながら新たなポジションでの業務を僕は始めた。
なんとなく居心地の悪さを感じながら・・・。
日本の本社のオフィスって、とても静かだ。アメリカのオフィスの喧騒が懐かしく感じた。つい昨日のことなのになんかずっと昔の出来事かのように僕は静けさに吸い込まれていく気がした。生気を吸い取る精霊がオフィスに宿っているに違いない。きっと計測器で見たら僕自身の生命反応は極めて薄い数値が出たんじゃないか、なんて考えながら・・・。
みんな机の上のPCに向かっている。言葉も少なく。ひたすらキーボードを打ち続けている人、ディスプレーを見つめ続けている人、静かな空気感の中でここでは一体何が起きているんだろうか?
なんか落ち着かない・・・(-_-;)
困るのが電話。オフィスの中が静かすぎて電話をかけるのが憚れる。特に帰国祝で一杯やろうかと言うような仕事に関係ない電話など滅茶苦茶声を押さえてひそひそと話す。或いは、携帯電話に持ち変えて廊下に出て誰もいないのを見計らって電話をかけるようにする。へっ!?いつからこんな空気感になったの?日本のオフィスは?

それにしても、本社の仕事って、なんでこんなに会議が多いんだ!?スケジュール表に次々と会議の予定が入ってくる。ぼやぼやしているとダブルブッキング、トリプルブッキングなんて当たり前。
「ねぇ、ねぇ。なんでこんなに会議の予定が入ってくるの?」と、僕のアシスタントも務めてくれているカワゾエさんに着任早々聞いたことが有るのだが、社歴15年で担当業務として業績のとりまとめをこなしている彼女の言葉が忘れられない。
「会議にでるのがトニコバさんの仕事です。」
なんだそれは・・・?
会議に出てもいつも大勢の人間が会議の席に座り、自分自身の存在感が埋没しているような、なんか居心地が悪い。で、たいていいつも最初に会議出席中で一番偉そうな人が結論めいたことを言ってあとは予定調和に沿って皆は人の話をひたすら聞いている、そんな会議ばかり。
本社の仕事って、毎日胃が痛くなるようなぎりぎりの判断を迫られて利害関係の中でもっとダイナミックな仕事が待っていると思っていた僕が浅はかだった。
経営の中枢で舵取りを一翼を任されているというのは僕の勘違いだったのか。毎日退屈な会議と山のようにあふれかえるメールの返事に忙殺される日々が始まった。

直属の上司は管理本部の本部長だ。営業畑が長く経営企画部のようなスタッフ部門にはちょっと縁遠いようなタイプの人に見受けられた。しかも傍らから見ていて事なかれ主義の権化のような存在とも思っていた。仕事が始まりしばらくたったころ、彼が僕にオリエンテーションと称して1時間ほどこれからの仕事の内容を説明してくれた。

「私たちの仕事はトップへのお役立ちですから、ね。言われたことを粛々とこなしていってください。」そして、持ったいぶった口ぶりで、「いいですか、私たちの仕事はPDCAを回すことです。」と得意げに発したその言葉に僕は内心がっくりきていた。
そりゃ、わかるけど、それって仕事の基本動作のことでしょ?
僕は少し反発したくなり、こう言い返した。
「本部長、僕たちの仕事はトップがビジョンを作るお手伝いをして、その実現のための道筋を描くということじゃないでしょうか?その道筋のところどころにマイルストーンを置いて、それを戦略目標として全社に掲げることじゃないでしょうか?それを考えると僕たち経営企画部門は全社の方針決定や経営の舵取りに影響力を行使できているとは思えないんですが・・・」
本部長は、「まぁまぁ、初めからそうきばるな。」とにっと笑った。
「ここは難しい立場よ。」とも言う。
いやいや、この人大丈夫か?と僕は思った。しかし、僕は本部長がなぜそんなリアクションを取ったのかを後になって分かることになる。痛いほど・・・。

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