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「それまでの明日」(原尞)読了

このnoteでは原尞作品「それまでの明日」について書いてはいますが、作品の内容や感想はほぼ書いておらず、原尞作品に対する自分の思いをダラダラと書き連ねているだけですので、そのつもりで読んでください。


デビュー作「そして夜は甦る」(ハードボイルド的でなんてカッコいいタイトルだろう)を読んでいっぺんにファンになったのは、今から約35年くらい前のことで、その頃首都圏に住んでたワシは毎日の通勤電車に押し込まれながら、一生懸命に文庫の文字を追っかけていた。
ハードボイルド小説をそれほど読んでいなかったワシだったけど、この持って回った物言いのひねくれた中年オヤジにかっこよさを感じてました。

それから新作が出るたびに読み続けていたもの、歳を取らない探偵沢崎と違い、いつの間にか主人公の歳を追い越して確実に歳を取ったことで老眼を患ったワシとしては本を読むことも少なくなり、その結果か毎年のミステリランキングを追っかけることがなくなってしまい、最新作であり最終作となった「それからの明日」が発表されたことに3年近くも全く気づかず、あまつさえ作家本人が亡くなられたことも知らず、偶然本屋で見かけた平積みになったこの本を見かけたことで一気にそれら情報を知ったことで、自身の不明を悔やみました。

とかなんとか悔やんでばかりいても仕方がないので、早速手に入れて読んだわけです。(老眼対策として文字の大きさが自由自在なKindle版を購入しました)

文庫表紙

読み始めてすぐに感じたのは「探偵沢崎がまたワシの前に現れた」ってことですね。初めて読んでから長い時間が経っており、かつ探偵の周りの状況は現代へと推移しているにも関わらず、探偵は歳を取っていないのが不不思議でしたが、それは作者本人のあとがきを読めば理由がわかります。

まあそんなふうに久々活字(Kindleの画面に表示された文字だけど)を追っかけて楽しい時間が過ごせたのはとても良かった。

以下、少しだけネタバレ風味ありなので注意が必要

ちょっと話の中心があちこちしすぎた印象はあるものの、作中には読者を引っ掛けるトリックが仕掛けられており、それを目の前に突きつけられたときに感じた面白さは、かつて新本格の旗手として登場した綾辻行人デビュー作「十角館の殺人」を読んだときの感じたものを同じでした。

作者あとがきによると、続編の執筆も一部開始されていたようですが、新作が出版されるまで10年近くかかるような超絶遅筆の作家がわずか3,4年程度で書き上げているはずもなく、読者ファンとしてはなにかの形で出版されないかと期待して待つだけですね。

以下、原尞作品とは直接関係ないハナシ


日本のハードボイルド作家で原尞と並んでワシがファンなのは東直己という作家です。(アメリカ作家ではロバート・P・パーカーがいますけど)
この人が生み出した札幌すすきのを徘徊する便利屋を主人公にした一連のシリーズ(すすきの酔いどれ探偵シリーズ?)も全て読みました。(畝原ものも全て読みました)
作品中に出てくるハードボイルドにありがちな乱闘シーンを描く東直己の文章からは伝わってくる痛みを他の作家から感じたことはなく、文章はとてもうまいと思いますので読んでみてください。

作中では決して名前を明かさない(作中では黒澤映画「用心棒」の主人公をもじって「桑畑四十郎」などと称していたけど)便利屋は作品の時系列に沿って歳を取っていて、デビュー作ではまだまだ若造だったのが最新作(2012年)の「猫は忘れない」ではシリーズ中で出会った美人と結婚し子供をもうけた後に離婚した立派な中年太りのおっさんになっていて、リアリティはあるもののそれはそれでちょっと寂しい感じもしましたね。

すすきの酔いどれ探偵シリーズは大泉洋と松田龍平コンビで「探偵はバーにいる」というタイトルで3作映画化されています。小説を先に読んでた身としては、便利屋と空手家高田コンビとはちょっとイメージが違ってましたが、映画を見ているうちにその違和感もなくなってきたので、小説を読むのがめんどくさいけど興味がある人は見てみてください。第一作目はワシ的にはシリーズ中ベストだと思っている「バーにかかってきた電話」が原作で、悪くない出来で泣けますよ。


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