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自身作の兜を一刀両断する天下の名刀を目指す刀鍛冶─「いっしん虎徹」

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「いっしん虎徹」 山本兼一

新年あけましておめでとうございます。
今年は「寅年」なので刀鍛冶・長曽祢虎徹をモチーフとした小説「いっしん虎徹」を。

越前から重病の妻と共に江戸へと向かった鍛冶の秘めたる決意。
それは、「己が作った兜を、一刀のもとに叩き切る刀を鍛える」という途方もないものだった。
後に彼の刀を、数多の大名、武士が競って所望したという、伝説の刀鍛冶、
長曽祢興里こそ虎徹の、鉄と共に歩み、己の道を貫いた炎の生涯を描く傑作長編。

(文庫版のあらすじ)

刀鍛冶の物語というのはなかなか珍しいのでは無いかと思いますがこれが面白い。
刀鍛冶・長曽祢虎徹に関しては色々な説がありますが、
本作では越前で甲冑師をしていた興里が36歳で刀鍛冶に転向する。

江戸に出て和泉守兼重に師事し、その後自分の鍛冶場を開く際、
兼重の鍛冶場で気になっていた火床を自分の使いやすいように工夫した。
それを見た兼重は「仕事は下手がいいのう」とつぶやく。

「下手なやつほど手を抜かずにやる。懸命に、必死にやる。ありがたいことに、鉄はそんな男が好きだ。下手のままでいろ」
師匠のことばに、興里は頭を下げた。よい師匠にめぐりあえたことを感謝せずにいられなかった。

自分はこの、ちょっとした工夫を褒めてくれる師匠、というのがとても好きな場面であります。

刀を鍛えた興里はその後、試刀家の山野加右衛門や僧侶の圭海と出会う。
興里は入道し、圭海につけられた法名が「一心日躰居士 入道虎徹」である。

「こてつと読むが良い。漢書に李広という武人が出てくる。猛獣を手で打ち殺すほどの猛者で、射術の名人であった。この男が狩りに出て虎を見つけたと思うがよい。矢を放ってあやまたず射抜いたが、近寄ってみれば、草むらのなかの石であった。矢はその石に深々と突き刺さっておったそうじゃ」
「それは粗忽な…」
「おまえにまことにふさわしい名であろう。粗忽だが、石をつらぬく執念がある」

師匠に「下手」、圭海に「粗忽だが執念がある」と評された、まっすぐな刀鍛冶である。
そのまっすぐさは傲慢でもあり、「正宗や郷のようだ」と自身の刀を褒められると、
「正宗や郷ごときとお比べくださいますな」
と憤慨する。
正宗も郷も、日本刀の名工だ。

どこまでもまっすぐで、頑固で、自分の仕事に、刀に一心である長曽祢虎徹。
ライバルである越前康継との確執や、
妻・ゆきとの夫婦愛など、
歴史や刀に明るくなくても楽しめるのでは無いかと思います。

ゆきさんが本当に良い奥さんで、鍛冶場の神様・金屋子神は女神なので鍛冶場に女性を入れることは厳禁だが、
向こう槌を振るったり、銘を切る時は支えたり、刀の出来を褒めたり、
虎徹にとってなくてはならない存在なのです。

拙い文章ではありますが、少しでも興味を持っていただけたら!

(ヘッダーなどの画像は文春文庫の「いっしん虎徹」からのものです。問題がありましたら削除致します)


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