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読書感想2023#4 「中洞式山地酪農の教科書」

はじめに

今年4冊目の読書感想は中洞正さん著「中洞式山地酪農の教科書」東海教育研究所出版です。
私は普段ビジネス書やサイエンス系の本を読むことが多くいつもと少し毛色の違う本だったのでとても新鮮でした。

簡単な本の概要です。
構成は5章で、山地酪農の歴史に始まり、その目的、具体的な技術論、著者の中洞先生のこれまでの歩み、後継者の方々による寄稿文(これが意外と長かった)となっています。
「山地酪農の教科書」というタイトルだけあって、まさに山地酪農を行うために必要であろう知識や技術が非常に事細かに解説されています。(素人には細かすぎて技術論はだいぶ読み飛ばしました。)牛の飼育はもちろん、乳製品の製造方法からマーケティングの話もあり、山地酪農を目指す人にとってはかなりバイブル的な本になるのではないかと思います。

私がこの本を手に取ったのは数年前に近代的畜産の実情を知り、どうやったら牛が牛乳または肉の製造マシーンであるかのように酷い扱いを受けている現状を変えることができるだろうかと考えていたところ、1年中牛を放牧し、牛が穀物飼料ではなく山に生える芝を食べてストレスなく過ごす山地酪農なるものがあることを知り、自身がそれを実践することで少しでも現状を変えることができるのではないかと考えたからです。
読んでみてその考えがどうなったかは後半に書くとして、文中で気になったり刺さったり勉強になった箇所の抜粋とその感想を先にまとめていきます。


文中抜粋(太字)と感想

「限界を迎えている大都市集中型の社会から、地方産業の創設に向かうという意味においても、山地酪農は発展性と拡大性を有し、そして大いなる可能性を持ちあわせている。」
→もしかしたら未来ではさらに都市集中が進んで多くの人間がタワーマンションに住んでいるかもしれない。それはそれで効率が良くエコであると考える人もいるであろうが、自分の子孫にはそんな生活はしてほしくない。緑あふれる美しい景色の中で美味しい空気を吸い美味しい水を飲み、自然を敬い、調和しながら幸せに生きていってほしい。それを実現するためには都市ではなく地方でコミュニティを作ってその中で小さな経済を成立させられることなのだろうと思う。エコヴィレッジみたいな感じ。酪農に限らず、そんな美しい王国を作りたいな、なんて思う。

中洞式山地酪農の場合は、生産から販売まで一貫して自ら行い、価格決定権も持っている。
→逆にそれ以外の多くの牧場は農協に決められた価格で生乳を買い取ってもらい、酪農家は殺菌、加工、販売まで行わないってこと、この本で初めて知りました。

現在、日本のほぼ100%の酪農家が人工授精であるのに対し、中洞牧場の受精は牛群に種オスを一緒に放牧する自然交配である。
→全然知らなかった。メス牛たちはみんなレイプまがいのことをされていると思っていたが、人工授精なんだね。でも自分が牛の立場だったら絶対に中洞さんところで自然恋愛(?)したい。

収量や栄養価だけを見れば、今の一般的な酪農家が使う外来牧草が優れている。しかし山の保全まで考えた酪農をするのであれば、野シバ以上に適した植物はない。
→山の保全まで牛さんにやってもらえるというのが素晴らしい。カーボンオフセットにもなるということだ。

「女性一人でもできる酪農」は3〜4頭のウシで採算が採れる手法であるが、それでも数百万から1000万程度の資金は必要になる。
→日本政策金融公庫の「新創業融資制度」を利用すれば無担保・無保証人で3000万円まで融資してもらえるのでこの辺の不安はなさそうです。

(パッドクの柵は)丸太で作る場合は、丸太の皮をはぎ防腐剤に塗ると耐用年数が長くなる。
→自分で牧場やるなら全て自然のもので作って美しい景観にしたい。

製品だけならうまい、まずい、安い、高い、という価値判断しかない。そうではなくて牛と共に生活し、健全な自然環境を整えていく背景や牧場の景観、そういった全てを含めて商品の価値を判断してもらう。
→現代においては口にするもののほとんどが、どこでどの個体から頂いたものなのか分からない。牛乳においてはどの牧場でどの個体(モ〜チャンなのかウッシーなのか)から誰が絞って加工してくれたのか見えるのは素晴らしいですね。


感想

読んでみた感想は間違いなく山地酪農は牛にとって良いものであること、さらには人にも山にとっても良いものであるということが理解できました。持続可能であることが短期的な利益を生み出すことよりもはるかに重要であると気づき出した現代、山地酪農はまさにそのニーズを満たすサステナブルな畜産を体現したものであると思います。そして酪農のらの字も知らなかった自分にとっては生乳の取引基準や行政の政策など勉強になることも多かったです。
山地酪農を自分も志したいと思った反面、やはり酪農は肉体労働を伴うとのことで(そりゃそうだろうと思っていたけど)、10年間オフィスワークをしている自分に肉体労働なんてできるのか不安が強まりました。筋トレやランニングは好きだけど、重いタンクを運んだりするのは嫌だもんな。。
そして牧場を開業するとなれば場所は地方になるでしょう。田舎では人間関係が都会と比べて厄介であると聞きます。開業にあたり地元住民の理解や面倒な行政との折衝など、人付き合いが苦手で面倒な私にはここのハードルがかなり高いと感じました。(おばさんに嫌われて嫌がらせとかされそう。)実際に牧場を開くにあたっての苦悩や壁などは、第5章の後継者の方々の寄稿文がかなり参考になりました。

最後に

こちらの寄稿文を書かれているお一人、薫の野牧場さんの牛乳を飲ませていただいています。こちらの牛乳は市販の牛乳とはまるで違うものです。市販の牛乳は「ギュウニュウ」という飲み物、人工的で動物から分けて頂いている感じがありませんが、山地酪農の牛乳は「あ、これが牛さんのお乳の味なんだ」と直感的に分かります。飲むたびにお母さんの愛情が伝わるような優しい味で、まったりしているんだけど、くどくない。とてもとても美味しいです。
夢に向かっている皆さん、そして自身の信じる道を信じて突き進んでこられた中洞さんを尊敬します。素敵な本をありがとうございました。


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