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「切り絵で世界旅」大世界(上海/中国)「魔都」上海の幻影を求めて

 2001年7月、上海を旅行した。上海は1995年以来2度目だが、前回は仕事だったので市内見学ができなかった。そこで今回はゆっくり巡り歩こうと考えた。その第一の目的地が「大世界」だった。

多くからでも分かる大世界の建物


 かつて「魔都」と呼ばれた戦前の上海。魔都とは何と誘惑的な響きではないか。その魔都上海の象徴する存在が「大世界」だった。
 『上海パノラマウォーク』(新潮社)の著者、上田賢一氏によれば、マレーネ·ディートリッヒが主演した『上海特急』(1932年)の監督、ジェセフ·フォン·スタンバーグが、1930年中頃、大世界を訪れたときの感想を自伝で記している。

 「その施設はつめかける群衆に慰みを提供する六つのフロアから成り、それぞれのフロアには人生の興奮と歓声が渦巻いている。そして、娯楽はバラエティに富み、中国人の才能が生み出したさまざまな娯楽が各階にちりばめられている」
 各階の部屋を詳細に紹介しているが、興味深いものだけを紹介しておこう。 
 賭博台、スロットマシーン、少女歌手の歌う部屋、アクロバットの部屋、生姜や香の匂いを楽しむ部屋、鳥を見る部屋、コオロギの籠を置いた部屋、耳掃除の部屋、軽演劇の部屋、ジャグラーの部屋、アイスクリーム·パーラー、チャイナドレスを着た淫売の部屋、射的、針灸、ダンスホール、ピープ·ショウ、ラブレターの代筆屋、鏡の迷宮、麻雀、綱渡りの曲芸‥etc。列挙しているだけでむせ返るようだ。

 その大世界へ地図を見ながらたどり着いた。特徴的な外観と「大世界」の看板文字。入場券を購入して中に入る。屋外ステージのある中庭を取り囲むように「コ」の字型に廊下があり、各部屋を覗き見しながら回って見る。伝統劇やダンスショーをやっていたり、昔の人力車がおかれていた。

中庭のステージで行われていた雑技ショー


 そして屋外ステージでは雑技が披露されていた。観客はステージ前からはもちろん、各階の廊下から見下ろすこともできる。全体にレトロ色が濃いが、娯楽の内容は解放後の人民中国を反映して実に健全なものだ。できればスタンバーグの時代のように、戦前の怪しい大世界を見たかったが、叶うはずもない。今回は、夢にまで見た大世界に足を踏み入れただけで満足しておこう。

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