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記事一覧

頭寒足熱を実感/#買ってよかったもの

 この時期になると、「今年買ってよかったもの」なんて記事を目にする。大抵の場合は、売り込みたいだけの商品やら、あまり興味のないガジェットだったりするのだけど、ときどき「おっ、これはいいかも」と思えるような出会いがあるから、なかなかに面白い。  そんなわけで、僕の「今年買ってよかったもの」を紹介して、書き納めにしたいと思います。 *  僕が今年買ってよかったもの、それは『ルームソックス』です。  なんだ靴下かと思うことなかれ、ただの靴下にあらず。ルームソックスは屋内用の

金木犀の香りと――キミの想い出

 ――金木犀(キンモクセイ)の香りがする。  毎年この時期だけ、それもほんの一週間しか味わえないこの甘い香りは、秋のはじまりを教えてくれる。だけどそれだけじゃなくて、僕に昔のことを思い出させるんだ。 * 「――でもさ、この香りをずっと楽しめちゃったら」  目の前を楽しそうに歩くキミは  どうしてか、僕より先を行こうとしたね 「――ありがたみとか、ないじゃん?」  ときどきこちらを振り返っては、ふっと笑う  はいはい、そりゃキミみたいには早く走れないけどさ 「

5月の短歌(十首)

一  気が付けば もうすぐ半分 過ぎるのか 月日経ちしは あっという間よ  二  はじまった そう思ったら 終わってる そういうものかな 大型連休 三  ここにしよう 吊革にぎり 見定める 満員電車の 椅子取りゲーム  四  朝起きて ラジオ体操 横目にし 職場に向かう せわしない日々 五  花から花 次から次へと 飛び回る お前もそうかと 蜂を見つめる   六  海が見たい そう思い立ち 行ってみる 足りないものは 君の面影 七  何者にも なれな

4月の短歌(十首)

一  名も知らぬ あなたの紡ぐ 言の葉と 散りゆく花が ふいに重なる 二  柔らかな 春の日差しを 浴びながら このままここで 眠りにつけたら   三  ドナドナの 歌が聞こえて 来るようで ちっとも慣れぬ 満員電車 四  もったいない スマホでいいよと 言う君の 呆れた顔を こっそり写す 五  大切に したいと思う 気持ちでも 毒になるのは 薬と同じか 六  味がある そういうことに しておけば 世の中もっと 生きやすいのに 七  くだらない 吐き

3月の短歌(十首)

一  誉れある 数多の賞を 受けるより 嬉しく思う あなたの言葉 二  日々羽織る コートが重いと 言う君に ふっと感じた 春の訪れ 三  春からは 新たな場所で 咲いてみる 耐えられるかな 満員電車  四  朝起きて 部屋の掃除と 洗濯で 迎える昼が いつもの週末 五  カメラ持ち 歩き慣れたる 参道の 花見て思う 冬も終わりか 六  好きなこと 続けたいなと 思う程 ままならないと 感じる日々よ 七  椿かな いや山茶花か 迷う僕 美しさには 変

才能って――

「――ねぇ、知ってる?」 「なんだっけ、あの、緑のやつ?」 「あー、豆しば。懐かしいね」  彼女は少し笑ってから、そうじゃなくて、と続けた。 「最近、聞いたんだけど――」 「うんうん」  あんまり茶化すと後が怖い。僕は神妙な面持ちで聞いた。 「――才能って、『やめられないこと』なんだってさ」 「……やめられないこと?」  不思議そうに聞き返す僕を、彼女は見ようともしなかった。 「そう。やめられちゃうのは、『才能がない』ってことなの」  聞いた話のわりに、はっ

2月の短歌(十首)

一  不似合いな 赤い手袋 するたびに 便り途切れた あの子を想う 二  寒い日に 産まれてきたと いう母の 優しい声も 思い出せずに 三  産まれた日 祝ってくれる ひとがいた 煩わしさも 有難さかな  四  在りし日に 仲たがいした 友達の 撮りし写真を じっと見つめる 五  もらったよ もらってないよと 騒ぐのは ひとの業かな 黒き洋菓子 六  会いたいと 思える人が いることの 嬉しいことよ 苦しいことよ 七  会うたびに 面差し変える 君がため 寒空のな

友達ではいられない

 あの子の好きなところは、『自分』がしっかりあるところ。  「自分はこうだから」「そういうことはしたくないから」  いつもそんな風に、語っていた。  あの子の嫌いなところは、『自分』がしっかりあるところ。  「どうして何も言わないの」「どうして放っておけるの」  いつもそんな風に、感じていた。  きっと、期待し過ぎていただけ。  目に見えるカタチで、気持ちを、考えを、示してほしいと。  でも。  どう感じて、どう考えるか。何をするかは『自由』だから。  そ

何も言わなくていいよ

 ――昨日はちょっと言い過ぎたかもしれない。  朝起きると彼女の姿がどこにもなかった。いつもなら「朝ごはんまだ?」と急かしてくるのに。まぁ、小さな子どもじゃないし、大丈夫だろう。  夏の暑い日、自分しかいない部屋で、ぼんやりと考えていた。エアコンは付けていない。暑がりなお嬢様がいないから。元来、夏は暑いものなのだ。 *  僕はあまり口数が多い方ではない。二人っきりなら普通に話せるけれど、三人以上になってしまうと、どうも言葉が出なくなる。たぶん会話の流れに飛び込むのが下

祖母の思い出と自殺遺伝子

「――おじいさんはね、コノエキヘイだったのよ」  懐かしそうに、でも少し泣きそうに。皺だらけの手で私の頭を撫でながらそう話す、年配の女性。”祖母”の一番古い記憶。はじめて聞いたその単語が近衛騎兵だと理解できたのは、ずっと後になってから。  父方の実家は『サマーウォーズ』に出てくるような田舎で、本家や分家のうえに、大本家なんてものまであった。祖母はその大本家の長女。男兄弟はみんな戦争で死んでしまったから、必然的に祖母は家長だった。  父に連れられ田舎に顔を出すと、祖母は喜

悪い狐/#2000字のホラー

 ――悪い狐が出る。  そんな噂を耳にしたのは、この”町”で暮らしはじめてまだ間もないころ。ここには動物――とりわけ猫が多い。引っ越してきてすぐにそう感じたが、狐まで出るのか。  新入りにとっては驚くようなことでも、この町では珍しくもないらしい。広場で声を掛けてきた古株の住民は、町の仕組みや決まりごと、おすすめの観光名所を教えてくれた。そして、ここで暮らすときに注意すべきことも。そのひとつが「悪い狐」だった。  ”悪い”と呼ばれるからには、狐は何か迷惑なことを”しでかす