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読書感想文

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読んだ本の紹介と感想です。
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記事一覧

読書感想 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論/赤松 啓介

 かつての「性の営み」とはどんなものだったのか。そこに日本人の本当の姿あったのかもしれない。  「村」はその開発者と子孫が中心になって運営される。後に移住してきた人や、その子供は「村入り」しないと村人とは認められなかった。子供は宮参りすると村人として認められ、初詣(はつもうで)を見物に来た子供達に菓子や文房具などを配って、「子供組」に入れてもらう。  子供組は12歳か、14歳になると子供組の「頭(かしら)」になった。年長者が何人もいると、選挙して「子供大将」を決めた。子供組

読書感想 裸はいつから恥ずかしくなったのか――「裸体」の日本近代史/中野明

 歴史家すら忘れていた、かつてあった日本人の風習。  それはとある1枚の絵から始まった。その絵とはこちらの作品である。  『下田公衆浴場図』という作品で、描いたのはドイツ人画家のヴィルヘルム・ハイネ。描かれた年代は1854(安政元)年である。歴史に詳しい人はこの年号を聞いてピンと来るかと思うが、この前年、ペリーが艦隊を引き連れて江戸に来航した。そんな年に日本の銭湯を描いた西洋画……ということからわかるように、ヴィルヘルム・ハイネはペリーとともにやってきた随行画家だった。

読書感想 天狗にさらわれた少年

 少年の語る物語は真実か、ホラ話か?  近代以前の日本には“変な話”が一杯あった(いや、日本以外にも変な話は一杯あったが)。例えば村から人が行方不明になり、どこを探してもいない。なのに1ヶ月や2ヶ月がすぎて、突然屋根の上に現れる。今までいったいどこへ行っていたんだ? と尋ねると「天狗と一緒に旅をしていた」と答える。こんな感じに今となっては真偽不明、現代的に解釈しようとしてもなんだかよくわからない“変な話”はそこら中に転がっていた。  今回紹介するお話しは、そんな変な話のなか

読書感想 コンテナ物語/マイク・レビンソン

 物流革命を起こしたのは、ただの「箱」だった。  今回紹介の本は『コンテナ物語』。世界的に話題になった本なので、名前だけでも聞いた人は多いでしょう(でもあんまりにも分厚い本なので諦めちゃった人も多いでしょう)。コンテナが物流の世界に登場したのは1950年代の話。このコンテナが登場したことによって、物流の世界だけではなく、社会の形そのものも変わってしまった。それも世界規模の変動だった。コンテナは文字通りの「革命」を起こした発明だったのだけど、現代、その偉業は完全に忘れ去られて

読書感想 実力も運のうち 能力主義は正義か?/マイケル・サンデル

 「正論」であれば「差別」は許されるのか?  ハーバード大学のマイケル・サンデル先生といえば、NHKで放送された「トロッコ問題」の授業で知られている。現代人が当たり前だと思っている道徳意識にはどんな“欠陥”があるのか……それを一方的に語るのではなく、生徒との話し合いであぶり出していく。そういうスタイルの授業を実践する教師として一定の地位を得ている。今回も「道徳」の話である。それも、現代の格差社会にまつわる話だ。  この本はこんなお話しから始まる。2020年、新型コロナウィ

読書感想 世界で最初に飢えるのは日本 鈴木宣弘

 「飽食」という虚構世界に生きる日本人へ。  いま、世界中でかつてない規模の食糧危機が迫っている。  WEP(国連世界食糧計画)とFAO(国連食糧農業機関)は2022年6月に「ハンガーホットスポット~急性食料不安に対する早期警告」という報告書を発表した。新型コロナウイルスの蔓延とウクライナ戦争の影響により、世界20カ国で深刻な飢餓が発生すると警告したのだ。  その中でも日本は深刻な脅威に直面している。  日本のカロリーベースの食糧自給率は2020年時点で約37パーセントとい

読書感想 日本とユダヤの古代史&世界史 田中英道 茂木誠

 矛盾はないように感じられるが……??  まずこんなお話しから。  日本の伝統的文化とユダヤの伝統的文化はよく似ている。具体的な例で見ていこう。  関東地方の古墳から出土する「武人埴輪」は、正統派ユダヤ教徒のいでたちによく似ている。ちなみに埴輪が多く作られていた弥生時代の衣装と武人埴輪はぜんぜん似ていない。  山伏が額に付けている兜巾(ときん)と、ユダヤ教徒が儀式で額に付ける小箱のテフィリン。また一方はホラ貝で、一方は角笛。  日本のお祭りではこうやって神輿を担ぐが、

読書感想文 銃・病原菌・鉄/ジャレド・ダイアモンド

イントロダクション 問いーなぜ地域による文明の格差は起きたのか? はじまりは1972年7月のことだった。この当時、鳥好きおじさんで知られるジャレド・ダイアモンドは鳥類研究のフィールドワークとしてニューギニアを訪れていた。そこで仲良くなった地元の人たちとこんな話をした。  ニューギニアの人々がヨーロッパ人に発見されたのは、20世紀はじめ頃のことだった。その頃までニューギニアは石器での生活を続けていた。小規模血縁集団(バンド)という小さいコミュニティしかなく、「政治体制」と呼べ

読書感想 ルポ・食が壊れる/ 堤 未果

 今回は「怖い話」である。  かつてMicrosoftを創業し、引退してからは慈善活動家となったビル・ゲイツは2021年に出版した『地球の未来のために僕が決断したこと』という本の中で、増え続ける人口問題、化石燃料の枯渇、森林破壊などの諸問題を解決するために、人間は「肉食」をやめて、AIが制御するデジタル農業をすべきだ……と語った。  2019年、インポッシブル・フーズ社は100%植物性挽肉から作られた《インポッシブル・バーガー》を発表。牛を殺すことなく作れる植物性バーガーで

読書感想 雑食動物のジレンマ/マイケル・ポーラン

 ChatGPTに「アメリカの主食は何だ?」と質問すると、次の答えが返ってくる。 1、ハンバーガー 2、ピザ 3、フライドチキン 4、ホットドッグ  「主食」といえば、日本でいえば「米」。西洋では「小麦」。ジャガイモが主食というところも結構ある。主食といえば特定の作物・収穫物のことを指すが、「アメリカの主食」と尋ねるとそういう答えが返ってこない。加工されて出てくるものが答えになってくる。  しかしマイケル・ポーランは「トウモロコシ」こそアメリカ人の主食ではないか……そのように

読書感想 現代文明ふたつの源流/中尾佐助

 民俗植物学者であり、探検家でもある中尾佐助先生が「照葉樹林文化論」を思いついたのは、ネパール・ヒマラヤの探検が始まりだった。  1952年、日本山岳会マナスル踏破隊は今西錦司博士を隊長に、同行者5名で現地へと旅だった。中尾佐助先生はその探検隊のマネージャーだった。  当時はイギリス製航空用百万分の1地図しかなく、地図の通りにその場所を通れるのか、登路があるのかどうかもよくわからない旅だった。マナスル踏破隊はその調査のために派遣されたのだった。  中尾佐助先生は植物学者とし

読書感想 照葉樹林文化とは何か/佐々木 高明

 「照葉樹林」とは葉が分厚く、ツヤツヤと輝かせるところからそう呼ばれている。主に温帯地域を中心に群生し、日本の本州から中国南部、ブータンやネパールといった同緯度の広範囲のエリアを含む。ただ、日本は南北に長いという特徴を持っているので、東北部は「ブナ林帯」と呼ばれる地域に入っていく。ブナ林帯は東北の他にヨーロッパ圏の広域を含むエリアと同一である。  我が国には全国に10万箇所という数の神社があるが、その多くが「鎮守の森」を有していて、その大半が照葉樹林である。天然記念物に指定さ

読書感想 昨日までの世界

ファーストコンタクト 現在のパプワニューギニアの首都ポートモレスビーには「空港」がある。そこにはたくさんのニューギニア人が行き交っている。かつての時代では顔を合わせることもなかったような部族、氏族同士が当たり前のようにすれ違っている。空港にはどこの国の空港と同じように、係員がいて、コンピューターを操作し、もめ事がおきたらただちに警察が飛んでくる。そんな空港には、それまでニューギニアにやってくることのなかった多くの国の人々が日々やってきている。  話を今から90年前に戻してみ

2022年冬期アニメ感想 明日ちゃんのセーラー服【原作版】

 実は「アニメ化」の情報が出た時から放送日を心待ちにし、珍しく原作本を買い(残念ながら貧乏なため、3巻までしか買えなかった)、しっかり熟読した上でアニメ視聴に臨んだ作品だった。  なぜ私がこの作品に心惹かれたのか――それは主人公の女の子がセーラー服を着ていたから。ただ単にセーラー服を着ていた……というだけではなく、セーラー服の描写が正確だったから。最初はネットで絵を1枚発見した、というところから始まったのだが、ザッと勢いのある線を走らせたような絵なのに、セーラー服特有の皺の流