アンゴルモア_元寇合戦記149898023307

2018年夏アニメ感想 アンゴルモア 元寇合戦記

 1274年対馬を襲撃したモンゴル帝国との戦いを描いた作品だ。
 歴史はさっぱりなのだが、とりあえず本棚にある地図帳を開いてみると、当時の地図はこんなふうになっていた。

(資料:一目でポイントがわかる!科学で見る!世界史 学研)
 なんとユーラシア大陸ほぼモンゴル帝国。世界最大の領土を持った大帝国……地図で見るとインパクトが凄い。
 大帝国を築いたモンゴル帝国が東の果て、日本を得ようとするのは自然な流れだったのでしょう(知らんけど)。日本には莫大な金が埋蔵されているからそれを狙ってきた……とも日本を拠点に海路を得るのが目的だった、とか日本を狙った理由は諸説あるようだ。
 「蒙古襲来」は日本の歴史においてはなんとなくメジャーではない雰囲気がある。歴史の教科書には取り上げられているものの、「そんなこともありました」くらいな感じで流れていく。歴史ドラマでもあまりテーマとして取り上げられることもない(取り上げられていたとしても私は知らない)。
 でも深掘りしていくと、とんでもなく大がかりな戦闘があったんじゃないだろうか。対馬という辺境とはいえ、一大帝国と戦った記録だ。なぜ日本国内でもそれほどの重要度をもって語られないのか、少し不思議な感じがする。

 対馬を拠点にした、日本とモンゴルとの過酷な戦いを描いた『アンゴルモア 元寇合戦記』……あらすじを聞いて、そうとう期待して視聴したのだが……アニメーションとしてはかなり残念な出来となってしまっていた。
 第2話まではまあ普通のアニメだったのだが、第3話、戦いが始まったあたりで作劇がガタガタと崩れていく……(後で振り返ると、第3話はまだ良かった)。
 合戦のシーンなのに、描かれるのは顔だけ。絵はほとんど動かず、動くのは口パクだけ。動きも書き割りみたいなもので、戦いの立ち回りっぽさはぜんぜんない。雰囲気だけでお話が進んで行く。
 自然の風景も書き割りみたいなもので、鬱蒼とした森の中での戦いが描かれているのに、自然と人間のバランスがまったく考慮されてない。第3話では海岸沿いに上陸する蒙古の軍団が描かれるが、自然と人間の大きさが明らかにおかしい。あれだと人間が巨人サイズだ。ちゃんとロケハンやったのか? と疑問を感じるような描写だったし、どのシーンを見てもどこにでもあるような「山」や「森」描写で、対馬らしい特徴を持った自然描写もなかった(予告編を見ると、ロケハン映像が使われている。ロケハンは行くには行ったようだ)。
 大軍勢同士の戦いを描いているのに、描かれているのはほぼキャラの顔だけなので、何が起きているのかほとんどわからない。援軍が来た……といってもどの方向からやってきたのかわからない。総じて何が起きているのかまったくわからない。雰囲気だけで戦いが進行してしまう。前半の方はまだ「キャラの顔」だけはきちんと描かれていたのだが、後半になるとそれすら崩れはじめて……。

 うーん……。これはちょっと制作上の無茶があったんじゃないかな……。おそらく予算は2億円くらい、日常系アニメと同じ予算枠で作ろうしたんじゃないだろうか。日常系アニメと同じ予算で数百とか数千の兵団がぶつかり合う大合戦が描けるか、といえば無理に決まっている。そんなもの手書きでやろうとしたら、死人が出る。
 毎話ちゃんと確認しなかったけれども、制作の大部分が海外制作……予算がないからといって単価の安い海外に回せばうまくいくか、といえばそんなわけはない。それは意味もなくクオリティを下げるだけだ。構想段階で無理があるものを描こうとしてしまったような感じがある。
 それに、やはり手書きでアニメを作ろうとしたこと。手書きアニメでこういった戦記物を描けるか、というと無理。1つの構図にキャラが1体増えるごとに描く時間が増えるわけだが、これが数十、数百になるとそのぶんかかる時間は増える。さらに数十、数百の兵士が戦う動き……を描こうと思ったらテレビアニメのバジェットでは絶対に無理。
 こういう作品こそ、CGアニメ。モーションキャプチャーを使って大人数を使った人間の動き、プロの殺陣師を呼んで武器を使った立ち回りをかっちりと描くべきだろう(『宝石の国』ではほぼ1人でモーションキャプチャーやったというし、映画『ホビット』も合戦シーンは数十人のスタントマンで動きを作っていた。数百人必要……というわけではない。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』の合戦シーンではAI兵士も導入されている)。モデリングのクオリティがやや怪しくても、大画面での兵団のぶつかり合い、兵士1人1人の立ち回りをきちっと描いた方が、作品評価は絶対に上がったはず。『アンゴルモア 元寇合戦記』はとりあえずキャラの顔だけはキープしておこう、という方向で制作が進められていたが、キャラの顔より場面場面の戦いのほうをきっちり描くべきだった。
 戦闘が大部分なのでキャラクターは甲冑を身につけているが……、この甲冑描写もなかなかひどくて。日本の甲冑はパーツが多く、1カットでも描くのは大変。こういう描写こそ、デジタル向きだ。  それに空間描写。どのシーンを見てもパースがあやふやで……。位置関係が不明なシーンばかりだったし。説明的な俯瞰構図もない。山中での戦いが多かったが、地形を活かしたシーン作りはほとんど無かった。
 キャラはCGだけど、背景は手書き……が今のアニメでは多いが、私は背景もまるごとCGでもいいんじゃないか、と思っている。『アンゴルモア 元寇合戦記』のような作品の場合、舞台は平らな“床”ではなく起伏の大きい自然の風景で、その中を兵士や馬が駆け抜けていく、という構造だから、一度全部CGでやってみたら……という気がする。

 ストーリーはなかなか面白い。孤立無援状態のなか、大陸から迫ってくる大軍勢と戦う。頼りになるのは数人の流人だけ……あらすじだけを聞いても胸躍るものがある。絶体絶命の状態で大軍勢と戦うストーリーにはロマンがある。古くは『七人の侍』、ハリウッド映画では『300』、少数対多数で戦い、勝利するストーリーにはハズレがない。
 だが、『元冠合戦記』には胸躍る瞬間はほとんどない。どのシーンもガタガタなので、大軍勢と戦う……という緊張感がまるで感じられない。人物のドラマも薄っぺらい。盛り上がるはずの場面で盛り上がらない。
 主人公朽井迅三郎のヒーロー性を強調するために無理矢理な描写が多い。回りがあからさまにバカな行動・発言をしていて、それを朽井が正す、朽井が正解の行動を取る……というパターンがあまりにも多い。主人公のヒーロー性を強調するために、回りを間抜けに描きすぎている。朽井自身の迷いや思考プロセスがほぼ描かれないため、内面の見えないキャラクターになってしまっている(どうして正解の行動を取れたのか……考えているプロセスが見えるかどうかでだいぶ変わったはず)。いかにもなありきたりな、薄っぺらいヒーローになってしまっている。皇族を前にしても直立不動なのは描写としてもどうなのか……という気がする。そんな朽井に輝日姫が惹かれているのだが、なぜ惹かれるのかぜんぜんわからない。“設定”だけで物語が押し進められている。
 他のどのキャラクターを見ても、平坦で書き割りっぽい。内面の奥の奥まで描け……といっているわけではない。人物それぞれの納得できる動機。その瞬間その瞬間に対する心理の動き。もちろん、(敵・味方双方において)キャラクターを間抜けに描いてはならない。
 後半、白石が朽井たちを裏切るが、心理の動きが不自然。あれは展開に意外性を持たせるために、無理矢理やったんだろうな、という気がした。
 大枠となっているプロットそのものは魅力的なのだが、その中に描かれているものがあまりにも雑。平坦。特に人物描写。あまりにいい加減すぎる。

 表現上の問題……オープニングシーンでビデオ処理が使われていたが、いやいや舞台は13世紀なんだから。キャラクターを筆っぽく描けば昔っぽくなる……というのも短絡的。現代風の楽曲をあそこで載せてくるのはいかがなものだろう。もうちょっと、当時のアートがどんなものだったか、調べた上で映像制作をやってほしかった。
 本編中、和紙のような質感を手前に載せていたが、邪魔だった。あれもいらなかった。

 蒙古襲来をアニメーションで描く……構想自体は魅力的だったのだが、成果としてできあがったものはあまりにも残念なものだった。アニメーション的には第3話まで、それ以降は崩壊の過程を見ているようだった。第4話か第5話あたりで、もう作り手側が諦めてしまったんじゃないか……という気がした。あのあたりから、キャラの顔しか描かれなくなってしまったし。
 物語大きなお題目として掲げられていた一所懸命。しかし、アニメの制作側が体勢を一所懸命できなかったのが残念だ。

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