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11月26日 AI革命以後社会を考える③ 変革はすぐにやってくるわけではない

 と、ここまで「AI革命以後の時代がやってくるぞ! 大変だー!」という調子で書いてきたけれども、しかしそういう時代がすぐにやってくるわけではない。もっと緩やかに、じわじわと社会観が変わっていくだろう……と予想している。

 イギリスにはかつて、「ガス灯を点ける仕事」というものがあった。電気街灯が発明され、それが世界的にも当たり前になった時代になっても、イギリスにはまだガス灯に明かりを点ける仕事が残っていた。ガス灯に明かりを点ける仕事は1920年頃まで残っていて、その後、ようやく電気街灯に入れ替わった。

 日本では石炭採掘は1975年頃まで続いていた。1975年といったら、もう世の中的に石油中心の生活に変わっている頃だったはずなのに、まだ採掘しているところがあったらしい。ただし1975年あたりで終わったようだが。

 産業革命以降、なくなった仕事といえば、他には馬車の御者、手織り職人、手書きの書記、電報配達員、手動式電話交換手、映写技師、手動式エレベーター係員……挙げればいくらでもある。
 しかしこういった仕事も、「産業革命が起きた!」といってもいきなり消滅したわけではない。新しいサービスの導入が遅かった……という地域だってあるはずだ。ある日突然それぞれの仕事が消えたのではなく、じわじわと、一つ一つ消えてなくなったのだ。

 この例からわかるように、「イノベーションが起きた!」……といってもすぐに時代が変わるわけではない。人間は新しい発明や新しい時代に対応して、すぐに生活様式を変えられるわけではない
 まず仕事というものは、そうそう簡単に習得できるものではない。その仕事を獲得するための技術や体作りは1日や2日でできるものではない。時代が変わって、その仕事が必要なくなった……といっても、ある程度年寄りになってしまうと、もう新しい仕事を見付けることができない……ということだってあり得る。
 それに機械化されたといっても、どんなものでも最初の頃は「人間が手作業でやったほうが早いし、精度も高い」というのはよくある話。
 次に、時代遅れになっていたとしても、その仕事による恩恵を受ける人達がいる。その仕事によるサービスで楽をしていた……という人はいるはずだ。そういう人達の中には、そういう仕事が世の中にある……という前提で生活をしていた、という人もいるだろう。
 もう一つは社会情勢が変わった、いま働いている人はみんないらないよ……となったとき、街に大量の失業者で溢れることになる。こういった失業者を放置すると、次にどんな問題が起きるか? 治安の悪化だ。失業者たちによる窃盗や暴動で日々消耗することだろう。そういう人達を出さないためにも、いきなり仕事がなくなる事態は危険だ……と考えるのが普通だ。

 なんにしても、「社会を変えるイノベーションが起きた!」といっても、来年から急に街の様子が変わる……ということはない。そうなったとしても、誰も対応できない。変わるとしても緩やかに変わっていく。
 その以前の時代にはあった仕事が一つ一つなくなっていき、新しいタイプの仕事が一つ一つ生まれていく。生活様式も変わっていく。世代が移り変わるタイミングで、若い世代が新しい時代に対応した生活スタイルを作って行く。じわりとオーバーラップする感じなので、気付けば新時代に対応して生活観が変わっている……という感じになるだろう。
 そういう変化が10年から20年くらいかけて起きていく。ごく普通に暮らす人々にとっては、「そういえば“あれ”なくなったなぁ」と、いつの間にか変わった、なくなったものを思い出して感慨にふけることだろう。

 かつて日本の各地に、石炭採掘を中心とした村があった。そういった村は、石炭採掘が活発な頃にはずいぶん賑わっていたそうだ。今ではそういう村は廃墟になっていて、ああいった村がある時期まで栄華を極めていた……と言われても不思議な感じがする。
 ああいった村がどんなふうに終了したのか……それは私もよく知らない。時代が石炭を必要としなくなっていき、一人一人失業してきて、村から人が去って行く……。そういう石炭を中心に生活していた人達にとって、なんとも言いがたい瞬間だっただろう。中にはそこが「我が故郷」という人もいたはずだ。そういう人達にとって、我が故郷に少しずつ人が去って行き、少しずつ寂れていき、最後に自分が去って行くとき、どんな気分になっただろうか。
 AI革命が起きて、「必要のない仕事」と言われた人達は、きっとこういう感慨を味わうことになる。そういう現象が世代が一つ移り変わる……というタイミングで色んなところでぽつぽつと起きて、気付けば時代が変わった……というふうになっていることだろう。

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