見出し画像

2月5日 コナミがアニメスタジオを作るそうです。その話を聞いて思ったこと。

コナミデジタルエンタテインメントは、自社アニメーションスタジオの「KONAMI animation(コナミ アニメーション)」を設立した。KONAMI animationが中心となって手がけた初めての作品として、遊戯王カードゲーム25周年特別映像が公開されている。

 えー…コナミが独自にアニメーション会社を作りました……という話です。

 私がアニメーターだった頃の話、コナミは業界の全アニメーターの「リスト」を作っていた……という話を聞いたことがある。私の先輩はそのリストを直接見て、自分の名前もあった……と話していた。
 ……私の名前もあったのだろうか?
 この話も十数年前の話になるから、今もリストがあるのかどうかわからない。とにかくも、コナミは実は意外とアニメ業界を見ていた、ということがわかるエピソードだ。

 今回の話は、「表」の面と、「裏」の面の両面から話していきましょう。

 まず表面。ポジティヴな面。

 日本のアニメは今や世界的に需要がある。これは本当。この話について、今さら文句付ける人もいないでしょう。しかしビジネス展開がうまくいっていない。ほとんどのユーザーは無料で放送や配信で見ている。配信プラットフォームにはお金を払っているけど、コンテンツにお金を払っているわけではない。
 では海外でDVDやグッズなどが売れているかというと、さほど売れていない。という以前に売っていない。売っている場所がない。原作本は翻訳しなければならず、すると見込みのありそうな国限定になっていく。
 ディズニーはそこはうまくやっていて、色んな国に展開するために、表現の面で引っかかりそうな要素はあかじめ排除していて、あらゆる言語に翻訳、販売する場所を確保している。コンテンツからDVDとグッズ販売、最後にはアミューズメント施設と、うまく流れを作っている。
 アニメはどうか……というと所詮は零細企業。そんな大がかりなビジネスができない。
 そこにコナミがやってきた! 資本力の大きな会社だから、作品を作り、色んな国に翻訳して展開、販売ができる。単に作品作りだけではなく、色んな国に展開できる……という強味がある。
 ずいぶん前に、ブログで板越ジョージの『結局、日本のアニメ、マンガは儲かっているのか?』という本を取り上げた。この中で「コンテンツ産業のコングロマリット化」が取り上げられている。例えばディズニーはご存じのようにすでにアニメだけを作っているわけではない。最近は『スターウォーズ』や『マーベル』などの権利を買収。その中でも一番の買い物は2019年の21世紀フォックスの買収だ。買収額およそ650億ドル。これによって『ダイハード』シリーズも『エイリアン』シリーズも『アバター』シリーズもディズニーが権利を持つようになった。
 さすがに巨大過ぎでは……という気もしないでもないが、これもある種の「生き残り」戦略。最近のアニメ・映画作りは金がかかり過ぎる。それぞれで作品を作っていたのでは先細っていく。だからこそ合体して巨大化して、ビジネス展開もより大きくやる。ついでに配信の時代がやってきたから、マーベル、スターウォーズ、FOXを自前の配信プラットフォームから独占配信できる強味も発揮できる。

 板越ジョージは日本のアニメもコングロマリット化すべきだ……と語っていた。そもそもアニメは制作に莫大なお金がかかる。にも関わらず、ほとんど儲からない。なぜアニメーターの賃金が安いのか……というと「金がかかる割に儲からない」が究極の答えだ。では人気があるのになぜ儲からないのか、というとビジネス展開が弱い。日本国内での展開はいつも一部都市ばかりで地方は手薄。海外売りになるとまったくダメ。ディズニー並に、店舗を構えて自前の本やグッズをどんどん売ればいい……といっても、日本のアニメ会社はせいぜい零細企業なんでそんなことできない。
 「海外で売る」ってことは実際とんでもなく大変だ。それぞれの国の本屋や問屋へ行き、「うちの商品を扱ってください」と掛け合う。アメリカでは今ではいろんな本屋に『少年ジャンプ』が売っているが、それもこんなふうに地道にやってきた成果だ。その国に向けた翻訳版を出せば、自動的に本屋に並ぶ……というわけではない。店に置いてもらうように、自分の足で行って営業に行かねばならない。そんなの、零細企業でやれるか……というとできない。
 だからこそ合体・巨大化・多角化だというのだ。一つ一つの資本ではできないなら、合体して巨大化するんだ……という理論だ。

 もちろん弊害はある。巨大化してしまうと、儲かることに主軸が置かれすぎて、ありきたりな作品ばかり作られるようになる。その以前のような、小粒で意外なヒット作……がどんどん淘汰される。最近のハリウッドがヒーロー映画ばかりになってしまったような現象が起きるだろう。
 それにクリエイター一人一人の注目度が下がってしまう。巨大化して人材豊富……という状況になると、「別にお前じゃなくてもいいから」と軽率にクリエイターをクビにできる環境ができてしまう。例えば最近のヒーロー映画、監督の名前をチェックしている人はどれだけいるだろうか? 監督の色よりもシリーズ作品の存在感が上になってしまっている。
 そうすると作品とクリエイターの結びつきも弱くなっていく。あの作品はあの監督じゃないとダメ! という作品は一杯あるが、企業が巨大化していくと、経営側は「そんなの、知らんがな」と考えるようになっていく。利益主義のために作品が作られていくので、1作目の魂が抜け落ちたような、出来の悪い2作目、3作目が作られていく可能性がある。

 で、コナミがアニメ会社を作りました……という話だが、ゲーム会社の強味はまず金・資本。次に海外展開。これまでアニメが人気だったのにもかかわらずビジネスが手薄だったところにも、アピールできるようになる。売る規模が大きくなる。今までやらなかったところでも、コナミ主催でアニメイベントが開催されるかも知れない。
 作る作品も、大きな予算で、大きな作品になっていく。テレビアニメでもこれまでにない予算枠での作品が作られ、そういう作品が世界に展開していく……という将来もあり得る。
 ただ、その代わりに企画内容がありきたり、何かの二番煎じに流行の後追い……みたいな感じになっていくことはあり得る。またクリエイターの権利が弱くなっていき、あのアニメーターだからいい作品になったのに、2作目はその魂が抜け落ちる……ということもよく起きるだろう。経営やっている人間からすると「作品の魂」なんて「知らんがな」という話。いくら儲かるかどうかが大事……という感覚になる。

 というここまでの話が、巨大企業がアニメ会社を作ったら……というポジティヴな面。
 次はダークサイド面の話。

 これ、大丈夫か……と私が思う最大の理由が「コナミだから」ということ。
 私はゲーム会社としてのコナミを、外から見ているけれど、最近のコナミのゲームははっきりダメ。出来が悪い。売れてない。たまに出来がいいと思ったら系列子会社だった……という感じ。さらに利権ヤクザ。これは本当の話らしいのだけど、とにかく外に向けて訴訟を起こし、金を取れる特許を探せ……という号令を社内で出し、見つけた社員には謝礼金が出る……ということもあったそうだ。作品を作ることよりも、訴訟を起こして金を取ることに夢中になる……トンデモない会社だ。
 それでもコナミは巨大企業だから、やはりこういう会社に入るとそれだけで社員にとってはステータスになるらしく、まわりの人を見下すようになるようだ。自分たちは何も生産していないけど、コナミという大会社にいるんだ、という優越感と自尊心を持つようになる……と。実際、元コナミ社員だったけど、そこから離れたとたん、社員からひどい扱いを受けた……と証言する人は出ている。どうやらコナミ自体がそういう社内空気なんだとか。だからコナミ社員は、外から見て「コナミそろそろヤバいよね」と思われているのも気付かないんだそうだ。

 もう数年前の話になるけど、小島秀夫追い出しの件はひどかった。コナミ時代最後の作品となる『メタルギア5』の時は隔離部屋に閉じ込められていて、スタッフとコミュニケーションできない状態に追い込まれていたとか。
 コナミはこうやってクリエイターと作品を切り離し、まったく無関係の作品を作る。こんなふうにコナミは「作品を作れる人」を「厄介者」として追い出し、どんどん新しい作品が作れなくなっている。『メタルギア』も『悪魔城ドラキュラ』も『ゴエモン』も出なくなった代わりに、こういった作品を作っていた人々が外に出て作品を作る……という状態になっている。今のコナミがやっているのは、魂の抜けた続編と、リメイクだけ。

 私にはコナミが巨大な泥船に見えている。しかも、コナミの中にいる人はそれだけで巨大な自尊心を持ってしまうらしいので、そのヤバさには気付いてない。
 昔のコナミは本当によかったんだけどな……。良い作品が一杯あった。あの頃は戻ってこない。

 あのコナミがアニメ会社を作る……大丈夫か? あの体質を引き継いだアニメ会社……というだけでどこか薄気味が悪い。
 半端な作品を作り、同人誌作っている人に対し訴訟を起こしまくる……ということをやるんじゃないだろうか。ゲーム会社としてのポテンシャルを活かして、海外売りの強めていく……ということもやらないんじゃないだろうか。なにしろ今のコナミは「作品を作っているところ」ではなく「利権ヤクザ」の側面のほうが強くなっているわけだから。

 願わくば、そういうコナミのダークサイドとは切り離されたところでアニメ会社の経営をやってくれたらいいのだけど……。どうなるやら。


とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。