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顧客の購買プロセスの半分以上は営業に会う前に終わっている『ザ・モデル』

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はじめに
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こんにちは。伊藤 航です。
いつも本の紹介をご覧いただき、誠にありがとうございます。

本日はセールスフォース・ドットコムにて9年間にわたり、インサイドセールスに携わってきた「福田 康孝」氏の本をご紹介致します。

福田 康孝氏がセールスフォースの研修で学んだのは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの分業体制による営業でした。

従来の営業は、プロセスのすべてをカバーしてきました。自分で商談を探してくるのが営業の仕事。提案書を作って受注するのも営業の仕事。クレームが発生したら、真っ先に足を運んで対応するのも営業の仕事。これが従来の営業のイメージです。

しかし、セールスフォースではプロセスを分業するやり方だというのです。
著者は本書の中で「分業体制による営業」のメリット・デメリットと併せて改善策を懇切丁寧に詳しく述べています。

私は現在、全国のお客様に向けてSaaS型クラウド製品を提案するインサイドセールス部隊に所属しています。2019年5月に立ち上げてからまだひと月半ですが、課題が色々と見えてきました。そんな中で本書と出会い、解決のためのヒントが目白押しで300ページを超える骨太な本でしたが、あっという間に読めてしまいました。

今回の本の紹介からは「最新のレベニュー(売上)モデル」を学ぶことができます。早速、その内容を見ていきましょう。

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従来の営業では通用しない時代に

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本書の中で、プロセスを分業するやり方をうまい例えで表現されています。

❝ 学生時代に野球部だった私は、それまで先発完投型のピッチャーが当たり前とされた日本のプロ野球が、メジャーリーグの先発・中継ぎ・クローザーの分業によって大きく変化していったことを思い出した。
野村克也監督が当時先発にこだわっていた江夏豊にリリーフの重要性を説いて「一緒に革命を起こそう」と説得した話を本で読んだことがあり、このような分業体制は営業の革命につながるかもしれないと思った。❞

現在では、多くの日本企業が「営業を科学する」ことに関心を示すようになってきました。売上向上のために、ツールを使って日々の営業活動を管理する企業はこの10年間で飛躍的に増えましたし、分業プロセスである「ザ・モデル」を参考に、組織改革に取り組む企業も出てきています。

近年、日本でインサイドセールス部門が脚光を浴びているのはその表れだと思います。

ただし、このモデルを「マーケティングが獲得した新規リードをインサイドセールスが素早くフォローして、商談として進められるものを選別し、営業に引き渡す」という分業によるオペレーションとだけ理解していると、実行段階で行き詰まるはずだと本書に書かれていました。

そのやり方では、もはや通用しない時代になったと著者はいいます。

以下では、その理由を解説していきますが、その前に、頻出する用語やツールの概要を説明しておきます。

❶「リード(Lead)」日本語で「見込客」と訳されることが多いです。本書では、展示会で獲得した名刺情報、ウェブサイトの入力フォームから獲得したコンタクト情報など、自社が保有する潜在顧客のコンタクト情報すべてをリードと表現しています。その中には見込客とは呼べない、ただのコンタクト情報も存在するという意味で、日本語の見込客とは意味が異なります。本書では、このリード情報を分類し、受注に進めていくためのプロセスを紹介しています。

❷「クオリフィケーション(Qualification)」は、一定の基準を満たしているか判断することを指します。営業においては、マーケティングからインサイドセールスへ、インサイドセールスから営業へリードや商談をパスする時に、それぞれの部門間で事前に合意した基準を満たしているかを確認することを意味します。工場の製造工程における「検品作業」と同じ概念であり、前工程で品質を担保することにより、後工程の負荷を減らしたり、手戻りを減らす役割を果たします。

❸「コンバージョン(Conversion)」は、訪問者がホームページの目標としているアクションを起こしてくれた状態のことを指します。もともとの意味は「転換」や「変換」です。訪問者がホームページ内を動きまわった末にシュートを放ち(アクション)、得点に転換されたイメージを持つとわかりやすいかもしれません。コンバージョンの数はホームページが現状でどれだけ目標を達成しているのかを示す、客観的な指標になります。

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新規リードはいつか頭打ちになる

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福田 康孝氏は日本のセールスフォース・ドットコムで計9年間働き、初めはビジネスを順調に伸ばすことができたそうです。しかし年数が経つにつれて新たな課題が出てきました。

それは「新規リードが永遠に増え続けることはない」ということです。

最初のうちは、セミナー、展示会、ウェブサイトからのコンバージョンなど、あらゆるリード獲得はすべて新規リードです。しかし、セミナーも回を重ねれば、以前に参加した人の割合が増えてきます。ウェブサイトも同様です。日を追うごとに、純粋な新規リードの割合は減っていきます。

そもそもB2Bの検討型・高額商材では、リード獲得段階で具体的に検討しているのは全体の10%程度だそうです。25%はパートナー、競合など将来的にも購買に至らない層、そして残り65%は、「将来購入の可能性はあるが、今すぐではない」という人たちです。裏を返すと、65%のリードは時間がかかっても戻ってくる可能性があるということです。

一度商談まで進めても、途中で失注するものもあります。受注した後も本来であればアップセル、クロスセルの可能性があるのに、営業のフォローが追いつかずに放置顧客となってしまうこともあります。

つまり、ビジネスを続ければ続けるほど、このような商談に至らないリード、失注、未フォローの既存顧客の数は増えていくことになります。

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パズルを解く1本の線「リサイクル」

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ここで著者は、再び商談化のプロセスへとリサイクル(循環)させる流れを作り、再度見込客にできれば、劇的な効果が見込めるはずだと考えました。

このアプローチがどのくらいのインパクトをもたらすか、次のグラフを見るとわかります。たとえば月間の新規リードが100件。そのうち20%が商談化し、受注率は30%と仮定すると毎月の「受注件数」と「失注と未商談件数」の累計は大きく差が開いていきます。

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ここで大切なのは、「失注と未商談リード」はこれ以上リード獲得コストがかからないということです。つまり、大幅にマーケティングコストを圧縮できる可能性があります。このような課題に対するソリューションとして登場したのが、マーケティングオートメーション(MA)です。

従来のモデルでは、入り口のリード件数を増やすか、中間指標となる商談化率と受注率を上げるしか売上を上げる方法はありませんでした。

しかし、下の図のように、もう1本ルートを付け加えると解決策が見えてきます。

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 リードから商談になる過程で「今は商談にはつながらない」と判断され、商談にならなかったリード。商談として進めたが失注したロスト商談。顧客になったがフォローが漏れているためにアップセルの機会を失っている既存顧客。
これらを再度検討プロセスに戻す、つまり「リサイクル」することによって新規顧客では追いつかない、必要なリード数を補うことが可能になります。
しかもこのリサイクル対象の箱にたまっていくリードは、事業年数が経てば経つほど加速度的に増えていきます。

このたった1本の新しい線を意識するかしないかで、まるでビジネスの組み立て方が変わってくるのです。

2004年の「レベニューモデル」を発展させたプロセスの全体像

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2004年当時、著者の手書きメモにはなかった最も重要なパーツが「リサイクル」です。「リード育成」から「有望リード」へのクオリフィケーションで落ちてしまったもの、アポイントには至らなかったもの、商談まで進んだが失注したものなどをすべて「リサイクル」というステージに格納し、再度検討プロセスに戻してあげる。直線的ではなく、このような循環型のモデルを構築することができれば、ビジネスは雪だるまのように成長していきます。

おわりに
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私が勤めている会社で一番必要だと感じたのは「リサイクル」の部分です。
新規リードは毎日供給されるわけではありません。顧客の流入量には波があります。そこで、これまで商談を行った顧客を再度フォローする「リサイクル」という対策が有効になってきます。

現在、失注・未商談リードを「ナーチャリング(醸成・育成)」する仕組みを構築しているところと伺っていますので、最新のレベニューモデルにさらに近づけることにワクワクしています。

そして、これからは分業ではなく、共業が大切であると繰り返し著者は主張されています。本書には、インサイドセールスの話だけではなく、マーケティング・フィールドセールスの在り方や、カスタマーサクセスの実現方法など、新しい共業体制に必要な知識がたくさん詰まっています。

皆さまも部門を越えて会社が目指す1つの目標「顧客第一主義」を達成するための第一歩として、本書を座右の書としてみてはいかがでしょうか。




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私は本で世界を変えられると信じています。そして常に既存の考え方とは違う考え方をします。世界を変えるために美しいデザインかつ情報に優れた記事を世に送り出そうと努力するうちに、このような『note』ができあがりました。一緒に世界を変えてみませんか?