松本あずさ

日芸卒 小説家志望 特技:積読 第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞をいただきました。…

松本あずさ

日芸卒 小説家志望 特技:積読 第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞をいただきました。 メフィスト賞2023年下期座談会に作品が取り上げられました。

最近の記事

2024年4月頑張ったね日記

4月の前半に思ったこと、 〇松本は友人はいるが、悩み事を打ち明けられる友人はいない。 悩みも相談できないなんて友達と言えるのか、と一瞬考えたが、 「連絡が来たら嬉しい人」を私は友人だと思っているらしかった。 だから、松本がちゃんと返信するのは連絡が来たら嬉しい人だけだ。 〇映画パストライブスを見に行った。 よかった。ボロボロ泣いた。 多分人によって感想分かれる。 私は好き。 公開終わったらそのうちネタバレ記事書きたい。 〇最近なんだかよくわからないものを食べに行くのが

    • 中編小説『東洋の忘れ形見』④

      今日も本吉はピアノを弾く。曲は勿論、今度の演奏会で弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第二番だ。私はオーケストラのパートを一緒に弾いて練習に付き合ってあげていたが、今日の彼は少し落ち着きが無いようだった。それもそのはず、今日は正午から帝都音楽院の入試結果が発表される日だった。 本吉は「絶対受かってるから大丈夫」と言う割には不安そうで合否結果が分かる三日前から、練習に身が入らなくなっていた。ユーゴはここのところ本吉の練習に参加せず、帝都音楽院の入試関連の仕事で家に居なかった。そのた

      • 中編小説『東洋の忘れ形見』③

        私は鼻歌を口ずさみながら、バルコニーの洗濯物を眺めていた。洗いすぎてちょっと固くなったバスタオルの向こうには青空が広がっており、風で見えたり隠れたりする。 朝九時の少し前、本吉はいつも通りピアノの練習をしている。聞こえてくるのはラフマニノフのピアノ協奏曲第二番の冒頭部分だった。受験が終わるとユーゴは入試の結果も待たずに本吉にレッスンをつけ始めた。 本吉は楽譜を見ながら一通り弾けるようになるのに二週間丸々を費やそうとしていたが、未だできていない。まだオーケストラと合わせる段階で

        • 中編小説『東洋の忘れ形見』②

          本吉はすごく真面目な男だった。朝九時からの練習にも、七時半には来ていて自主練習をしていたし、五時に終わる練習の後も夜の八時までみっちりと延々ピアノを弾き続けた。楽譜読みものみ込みが早く、最初はドレミファソの説明からだったが、一か月もすれば初見で軽い練習曲くらいなら弾けるようになっていた。私はこんなに飲み込みが早いと思っていなかったから彼の成長速度に底知れなさを感じた。 しかし、帝都音楽院の入試はただ初見で課題曲が弾けるだけではだめなのだ。 聴音という、聴いた旋律、和音などを楽

        2024年4月頑張ったね日記

          中編小説『東洋の忘れ形見』①

          母から譲り受けたもの。 飴色の髪に、マルセイユの海のような瞳、少しそばかすはあるけれどきめ細かな肌。セピア色の家族写真、鍵盤の柔らかいアップライトピアノ、手書きの不完全な楽譜。 それが私の知っている母の全てであった。 私の音に深みがないと誰かが言った。また別の誰かが、私の演奏には愛もないと続ける。師匠は良くても、弟子はお粗末だと誰かが笑う。 事実だ。  認めてしまえば、案外すんなりと受け入れられた。ただ、ピアノを弾いていない自分を想像できなかった。だから、そのまま叔父であ

          中編小説『東洋の忘れ形見』①

          短編小説『1日遅れの花火』

          俺たちは家族じゃなくなる。  今までのことがなかったことになる訳じゃない。でも、一つ屋根の下住んでいた家族から赤の他人になるのだ。俺はそれが裏切りの様な気がしてならない。  小さい頃から知っている、それこそオムツを履いていた時期から、ジョセフと俺はずっと一緒で兄弟だった。  寒い日は、他の弟と妹達を集めて、おしくらまんじゅうの様にして寝た。暑い日は皆で公園の噴水まで行ってずぶ濡れになって先生に怒られたっけ。なんでもない日は園の屋上にこっそり入って干された洗濯物に混じって、壊れ

          短編小説『1日遅れの花火』