中編小説『東洋の忘れ形見』③
私は鼻歌を口ずさみながら、バルコニーの洗濯物を眺めていた。洗いすぎてちょっと固くなったバスタオルの向こうには青空が広がっており、風で見えたり隠れたりする。
朝九時の少し前、本吉はいつも通りピアノの練習をしている。聞こえてくるのはラフマニノフのピアノ協奏曲第二番の冒頭部分だった。受験が終わるとユーゴは入試の結果も待たずに本吉にレッスンをつけ始めた。
本吉は楽譜を見ながら一通り弾けるようになるのに二週間丸々を費やそうとしていたが、未だできていない。まだオーケストラと合わせる段階で