[自作楽器]リボンコントローラー その詳細と演奏への応用

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ここでは私、尾上祐一回擦胡と並んで日々演奏している自作電子楽器、リボンコントローラーをご紹介させて頂く。

リボンコントローラーとは

リボンコントローラーは、指で押した場所に応じて滑らかな音程変化の演奏が可能な電子楽器で、棒状のボディに接触タイプのリボン状の位置センサーを搭載し、指で押した場所の位置情報で発振器の周波数をコントロールするのがその原理である。テルミンのようなピッチスライド演奏が出来ると同時にキーボードのように目的の音程を瞬時に出すことも出来る特徴がある。歴史的には1960年代にムーグ・シンセサイザーの鍵盤に代わるインターフェースとして出現した辺りが初出と思われ、その後1970年にYamahaの電子オルガンYC-30に搭載され(これは"刑事コロンボのテーマ"に使われたと推測される。その詳細は拙文のこちらを参照)、更に各社シンセサイザーモデルの幾つかに搭載されたりもした。現在は、Kurzwell社、Doepher社、Eowave社あたりが長いリボンサイズの製品、KORG社が小型なMonotron、といった製品を流通させている。

楽器の概要を記した所で、本題である私の自作リボンコントローラーと、その音楽への応用について話を進めさせて頂く。まずはその演奏から。曲はこの楽器で作曲したオリジナルの"樹氷"。

※更に様々な音楽形態での演奏例は後ほどこちらでご紹介します。

私のリボンコントローラー事始め

この自作リボンコントローラーの原型は、1998年に友人の金澤重則氏が製作し紹介してくれた10cmほどの短い自作リボンコントローラーで(電気的には可変抵抗として機能する)、電気抵抗で発振周波数か可変できる簡易なIC発振機に繋ぐといい感じに音程コントロールできることを確認できた。その後、20cm、30cm・・・と長さを伸ばし、旋律演奏性を高めて60cmの長さに落ち着いたのが拙作リボンコントローラーである。製作が落ち着いた2002年辺り以降、2019年現在、この60cm長のリボンコントローラーを発振機共々メンテナンスしつつ演奏活動を続けている

私は、旋律にコブシまわしや音程スライドといったものを多用する民族音楽などの音楽に以前より興味があり、一方で自分で音色を創ることが出来るシンセサイザーやそれを多用した電子音楽にも興味があり、そしてそれらの要素を取り入れたポップス、ロック音楽にも興味がある。これらの要素を自分流で音楽表現するための楽器として、このリボンコントローラーを見出し演奏活動し続けている。一般的に演奏方法が確立されている楽器ではないので弾き方は人それぞれであると思うが、私的には上の動画のように膝の上に置いて演奏するスタイルに落ち着いている。というわけで私のリボンコントローラの中身を見てゆこう。

自作リボンコントローラー ボディ部分

このリボンコントローラーのボディは、DIYショップなどで売られているモールと呼ばれるもので、オフィスなどで電線を配線する時にそれをしまっておくプラスチック製の棒で、チャンネル(凹)型の土台とそのカバー、そして電気抵抗体のリボン部分から成り立っている。下の写真2枚は、加工前のモールである。

このモールのカバー側は、後述のリボン部分が顔を出すように60cm×2cmの細長い長方形の窓あけ加工をし、チャンネル(凹)側は、凹部分に角材を入れ、その角材の上側には薄いステンレスシートを貼り付けている。角材とステンレスシートの高さは、凹部分が微妙(1mm程度)に出るようにしている。

上から加工したカバー部、土台部、そしてリボン部

土台部はステンレスシートを貼った角材を入れてこんな感じになっている ↓

この凹の土台部分の上にリボン部分を乗せるとこんな感じ↓

つまりリボン部分はステンレスシートとの間に1mm以下のクリアランスがあることになる。

リボン(抵抗体)部分

そのリボン部分は、0.4mmの塩化ビニールシート(東急ハンズで購入可能で様々な色がある)をリボン状に切ったものに、同じくリボン状に切った導電性のゴムシートを薄手の両面テープで貼り付けたものである。導電性のゴムシートは、導電袋(ESD袋。電子部品を静電気から守る保存用袋)と呼ばれるものから加工したもので、私はHozan製のESD袋をらせん状に切り60cmの長さを得ている。この導電性ゆえにリボン部分は電気抵抗を持つことになる(リボンの端と端で数百kΩ程度)。

Hozan製のESD袋(秋葉原の千石電商などで購入可能)

これをらせん状に切り、60cm長のリボン状のシートにする。

このリボン状の導電シートを0.4mm厚の塩化ビニールシートに薄手の両面テープで貼り付ける。

リボン部分の組み込み

こうして作られたリボン部分を先に記したようにチャネル(凹)の上に乗せて、カバーを取り付ける。そのままだと先に書いたようにリボンとステンレスシートは1mm弱のクリアランスがあり非接触状態なのだが、リボンの任意の場所を上から指で押さえると、リボンがステンレスシートに接触する。このときリボンの片端に端子1、ステンレスシートの片端に端子2をつけると両端子には、リボンを押さえた場所に応じて可変する電気抵抗が得られる。押さえる場所が端子よりも遠いと高抵抗、端子に近づくと低抵抗となる。つまりこのリボンコントローラーは電気的には可変抵抗(ボリューム)といえる。

端子1(リボン部の片端)と端子2(ステンレス部の片端)の取り付け

押さえる場所が端子よりも遠いと高抵抗(発振機の音程は低い)

押さえる位置が端子より近いと低抵抗(発振機の音程は、高い)

発振機(オシレーター)部分

発振機部分は、電気抵抗で発振周波数か可変できる簡易なアナログIC発振機を使用している。具体的には発振機部分にタイマーICの555型を使用し、その6番と7番ピンの間にリボンコントローラーによる可変抵抗を咬まし発振周波数を変化させている。リボンコントローラーの抵抗値が低い場合は発振機は音程が高く、逆に抵抗値が高い場合は発振機の音程は低い。なお、音程の変化の仕方は音程が低いほど間隔が広く、高いほど狭くなる。私的に間隔は音程に関わらず一定であってほしいのだが、これは抵抗制御型の発振機では致し方ないことであり「ギターやバイオリンと同じ」として開き直ってこの発振機を使用している。将来的にはOct/Vの電圧制御型にして解決したいとも思っている。

そして555型ICからはパルス波が出力される。それを4024型バイナリーカウンターICに入力することにより1オクターブ下、2オクターブ下・・・・・・6オクターブ下と、6つのオクターブ下の信号を得ている。これらのオクターブ下の信号群をロータリースイッチ、並びフットスイッチで切り替えることにより幅広い音程レンジを得ている。フットスイッチの制御にはFET電子スイッチを使用。そして終段に矩形波と(擬似)鋸波の切り替え回路がある。

リボンコントローラ自体では2オクターブ半ほどの音程幅
があるのだが、この回路でそれを更に6オクターブ分、スイッチで切り替えできるので音域はかなり幅広いことになる。ただ演奏中にアクティブに音域を切り替えるのはフットスイッチによる1オクターブ切り替えで、ロータリースイッチは楽曲に応じて音域を決めるという感じで使っている。が、ロータリースイッチも演奏中に素早くランダムに切り替えてトリッキーなスイッチング奏法的なことも時折行っている。この発振機の出力は簡素な矩形波か擬似鋸波で、これだけだと80年前後のアーケードゲームや80年代半ばのPSG音源のようなサウンドである。また三角波と矩形波が出せるLFOも内蔵し、それを555発振機の5番ピンに入力し変調をかけることもできる(下記回路図ではLFO部は省略)。

回路図↓

発振機内部↓(汚い配線・・・高校生レベルの工作である・・・)

余談:リボン抵抗体にSoftPot位置センサーを使う?

近年、SoftPotという位置センサー(電気的にはやはり可変抵抗器)がネット部品通販で比較的簡単に入手できる。長さは10cm程度の短いものから50cm、70cmなどの長いリボンコントローラー用途に使えるものまである。これを使わない手はない!と私も購入し試してみた所、押さえた場所の音程が極めて正確にでて押し圧が音程には殆ど影響しない良いレスポンスが得られた。因みに私の導電ゴム袋を使用したリボン自作位置センサーは押し圧が音程に結構影響する。私は元々は押し圧は音程に影響して欲しくないと思っていたのでこれは朗報!と一旦は感じたのだが、暫く試しているとリボン自作位置センサーによる押し圧が音程に影響することによる音程の"不安定さ"、"酩酊感"、そして"ビブラートの掛けやすさ"が私の音楽スタイルに不可欠となってしまっていることをSoftPotを使ったことで知ってしまった・・・。旧来の自作リボンとSoftpotとを音楽的な用途による使い分けも考えているが(例えば短い音符を多用するファンキーな演奏スタイルにはSoftPotのほうが向いているだろう)、基本的には元来の自分のスタイルに即し今後もあえて不安定要素を持つ導電ゴム袋をリボン抵抗体に使用したものをメインに使ってゆこうと思っている

エフェクター

↑ 写真右下にある赤い丸なエフェクターがAX1G、その下はフットスイッチ

発振機だけだと素朴な電子音であることを前項で記したが(これはこれで味わい深い音だが)、これをKORG AX1Gマルチエフェクターで深みのあるさまざまな音色に加工している。この機種は、歪、コンプレッサー、EQ、ディレイ、リバーブといった常套的なものだけでなく、共鳴弦効果をだすDRONE、喋っている様な効果を出すVOICE、アナログシンセ的な音を作るFILTER、サンプリングした音を変則再生する特殊サンプラーなどなどバラエティに富んだ音つくりが可能になっている。私のリボンコントローラーシステムにおいて、このAX1Gはシンセサイザーのモジュールともいえる役割をしており楽器の一部といえる重要な部分である。ちなみに私はこのAX1G(1998年発売)の開発者(DSPプログラミングと音色つくり担当)でもある。

演奏例

この自作リボンコントローラーの応用例として、これまで行ってきた様々な音楽形態での演奏の中から選りすぐりの物をご紹介したい。自己流による様々な奏法、そしてエフェクターの項でも記したように変化に富んだ音色にもご注目を。

まずは、尾上の自作楽器+ベース×2+ドラムによるロック・インスト・バンド、ワナナバニ園によるプログレ、マスロック的アプローチのオリジナル楽曲でドラム担当の熊田央氏作の"樽を見ていた"。

次に韓国と日本を股にかけて活動する、ロック/フォーク・ミュージシャン、佐藤行衛氏の歌と山本耕一郎氏(perc)とのトリオで曲は韓国ロックの父、シン・ジュンヒョンの国民楽曲的代表作"アルンダウンカンザン"’(オリジナルはこちら)。雄大かつサイケデリックな表現としてのリボンコントローラー演奏。韓国プサンでのライブ。

次に、高円寺百景のベーシスト坂元健吾氏と、ポチャカイテマルコなどに在籍のドラマー立岩潤三氏、そして私というプログレ3兄弟による怪しくハードな演奏。リボンコントローラはチャルメラのようなけたたましさを畳み掛ける。曲は都はるみの昭和40年代初期のヒット曲"アラ見てたのね"。

次に私と自作パーカッション奏者の久田祐三氏との自作楽器デュオ、サンピンによるオリジナル曲"浮雲"。リボンコントローラーで作曲した曲で、浮遊感ある平行5度の音色にご注目。

こちらも久田祐三氏との演奏で、曲はトルコのトラディショナル曲「ルメリ・カルシラマ」。この辺りの地域の音楽の特徴である特殊な拍子(ここでは9/8拍子)を畳み掛けるナンバーで、音色的にも演奏的にもアグレッシブものと成っている。こういったトラディショナル曲の新解釈もリボンコントローラーならではといえるか。

再びワナナバニ園の演奏で、こちらは台湾の古い歌謡曲でテレサテンなどの歌唱で著名な"焼肉粽(ちまき売り)"(1971年のTeresa Versionはこちら)。ツインベースとドラムのリズム隊が冴え渡る上をリボンコントローラーが謡いまくるファンキーな演奏。台湾のメディアでは"前衛搖滾 焼肉粽"と紹介された。

こちらは烏賀陽弘道氏のベースと熊田央氏のドラムとによるトリオ、ウガバニのトランス色の濃い演奏。Tangerine Dreamのシーケンスパターンに感化されたライトハンド奏法のベースギターとハイテンションドラムが炸裂する中、尾上の変化自在のリボンコントローラが飛びまくる。ミステリアス、トリッピー、ダンサブル、そしてドラマチックな15分の音絵巻。

最後は、再び佐藤行衛氏の歌と山本耕一郎氏(perc)と私によるトリオで行衛さんのオリジナル曲”酒消毒ブルース”。ロボットボイスでコミカルなリボンコントローラーサウンドを使用。私のリボコンは、こんな音色まで出ます。

他にも非常に多様な演奏を行ってきています。こちらのリボンコントローラープレイリストをどうぞ。

リボンコントローラーサミット

ここで2019年に結成した、私を含む自作のリボンコントローラー型楽器奏者3人が集まったリボンコントローラーサミットをご紹介したい。メンバーは、本橋HAL彦氏によるTAOと、山本啓氏によるPosenbo、そして自作リボンコントローラーの私、尾上の3人。

TAOは、1コースの位置センサーで音程をコントロールし、右手側で4つの感圧スイッチで音域を切り替えつつ音色も変化させて演奏し、音源はPC上でREAKTORというソフトモジュラーシンセを使用(ハード、ソフトともに本橋氏によるものである)。 Posenboは、2コースの位置センサーを持ち、それぞれのコースごとにMIDIノートとピッチベンドデータを出力。Stickのような演奏法をとり、音源はKORG X50 PCMシンセを使用。 リボン型位置センサーを使用した楽器という意味では共通点を持ちつつ、楽器として作り方、音色、演奏法にそれぞれの解釈があり違うものになっている。下の動画は、日本の雅楽、能、そして現代音楽やビザール音楽からインスパイアされたオリジナル楽曲"Obi"

むすび

冒頭で書いたように1998年に友人の金澤重則氏が自作リボンコントローラーを拙宅に持ってきてくれて、それを基に色々試行錯誤しながら演奏活動をし2019年現在、20年以上の月日が経った。ご紹介した動画以外にも実にたくさんの方々と様々なスタイルの演奏を共にし(活動履歴)、また音源製作も多くの作品を残すことが出来ている(多くが配信サービスにて聴くことが可能。こちらをご参照)。関わった皆様にこの場を借りて感謝の意を表したい。一方で20年やってても、まだまだ全然上達の余地があり、もっとこの楽器ならではの演奏をして音楽を創りたいとも思っている。また発振機を抵抗制御型でなく電圧制御にする案など新たな工作もしたいと考えている。新たな展開と成果が出てきたら改めて記したい。なお、私以外にも自作リボンコントローラを様々な手法でトライされている方がおり、その辺は"リボンコントローラー"、"自作"などのキーワードでGoogle検索してチェックして頂きたい。

リンク

リボンコントローラーとは(DTM用語辞典)
尾上鳥小屋サウンド
刑事コロンボのテーマで使われている電子楽器は?
米本実著"楽しい電子楽器 自作のすすめ"(拙リボンコントローラーが紹介されている)

[自作楽器]電気擦弦楽器・回擦胡
フレットが異様にスキャロップされたベトナムギター


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尾上祐一

69年東京生まれ。ギター等の既成楽器からリボンコントローラ、回擦胡などの自作楽器まで演奏。ハイテク~ローテク、古今東西の様々な音と音楽を探求。演奏活動、録音製作をソロからワナナバニ園、サンピンといったバンド・ユニットまで形態、ジャンル問わず盛んに行ってます。
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