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2020/9/10(うたの日366)

冷えてないビールしかない黄昏のあなたはとつくに思ひ出の人/太田宣子
(2020/6/26「冷」)

一読して良いなあ、と思う。ビールは缶のタイプのものをイメージしながら読んだ。でも、瓶のものであっても、外側からしんとした水平線が見えてそれもいいような気がする。「冷えてないビールしかない」と否定の二重、また「黄昏の」が上の句と下の句を上手く繋いでいて、時間としての黄昏時と「あなた」の両方にかかっている感じ…「あなた」は既に黄昏として、これ以上増えることのない「思ひ出」のなかのみにいるのだろう。ビール自体の色も黄昏時の色をしている。
冷えてないビールしかないのは、帰ってくるひとのためにビールを冷やす習慣がもう無くなったのだと思う。ビールをケースで買っていたりすると、冷やし忘れることがある。主体はビールを飲まないひとであったので、飲まない
まのケースのビールが残されている状態なのかな、と。…缶の中に黄昏が詰まっている状態、というのがまず素敵だし、それは自分が減らそうと思わなければずっとそのままだというのもいいな、と思う。缶ビールって手軽に酔えるチープな飲料としての側面があったりするのに、こんなに詩情にあふれた歌に昇華されていて、すごいと思う。

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