見出し画像

~策略~J1第4節 横浜FCvsベガルタ仙台

明治安田生命J1リーグ第4節 横浜FCvsベガルタ仙台 2020.7.12

J1が再開されてから3つ目のゲーム。今節からはスタジアムでの観客動員が始まり、この日のニッパツ三ツ沢競技場では2235人の観客が試合を見守りました。3連戦の最後ですが、しっかりと振り返っていきます。

試合前両チーム状況

横浜FC(9位)

前節柏レイソルを3-1で下し、今季初の3ポイントを獲得。昨季途中から下平監督に率いられるチームは、中断期間に戦術の幅を広げることに努め、再開前は4-2-3-1としていた基本システムを再開後の2試合では用いらず、3-1-4-2を基軸にした戦い方を選択した。その臨機応変さをもとに、サポーターが見つめるスタジアムで勝利を手にしたいところ。

ベガルタ仙台(10位)

こちらも再開後にシステムを変え、前節7人スタメンが入れ替わるなど、新システムのもとでのチーム戦力の底上げに取り組んでいる。横浜FCとの直近の対戦はJ2時代の2009年。さらに横浜FCを相手とした三ツ沢での試合で勝利したのは15年前の2005年にまで遡る。今日はあの有名な動画のように、三ツ沢にTwistedは響かないが、勝ち点で並ぶ横浜FCに勝利し、次節ユアスタでのゲームにつなげたい。

前節のレビューはこちら

スタメン

スライド2

横浜FCは前節先発した田代に代えて袴田がスタメンに名を連ねた。袴田は3バックの左に入り、前節そのポジションを務めた小林が中央に入る。

一方仙台は前々節湘南に勝利した11人から、左ウィングの西村に変えて、前節好調だったゲデスを起用しこの試合に挑む。

前後半ー目的・手段・方法(仙台の攻撃)

当然ながらサッカーをプレーすることの最大の目的は相手よりも多くゴールを奪い、勝利すること。そのための手段として、この日の仙台は特徴である素早いカウンターからのウイングの仕掛けのほかに、相手に引かれた際の攻撃の目的地を明確に定めた。それはずばり横浜FCの3バックの間にできるスペースだ。横浜FCは前節星キョーワンと中央のCB(柏戦では田代)の間のスペースでクロスを呉屋に合わされ失点している。3バックの中でも特にこの星の周辺のスペースは対戦相手にとっての格好の餌食。仙台もそれをしっかりと分析した上でこの試合に挑んだ。

基本的にビルドアップせずロングボールを後方から蹴ることが多かった仙台だが、そのセカンドを拾ってから、狙いとするスペースを活用するための、サイドチェンジを活かした攻撃を仕掛ける。ブロックを組まれた際の左サイドでのボール保持から見ていきたい。もちろんこちらにボールがある際の選択肢のうち、もっとも優先度が高いのは星とマギーニョの間、もしくは星と小林の間スペース。47分にはゲデスと石原が相手を引き付けることで、星-小林間を松下が取り、ジャーメインの決定機につなげた。しかしながら横浜FCの3センターも5バックもスライドし、このスペースが狭まっていることから、ここに直接入れるのも容易ではない。そこで仙台はこの3センターのスライドを逆手に取った。

スライド3

注目は関口の立ち位置。関口は右のIHながらボールのある左サイドに寄って来る。このメリットは主に二つ。一つは仮に左でボールを失ったとしても、その周辺からより多くのプレッシャーをすぐにかけられること。もう一つは対面する相手のCH瀬古の注意を引き、右により多くの空間を与えられること。同時にジャーメインも幅をとって志知の行動を抑制しているため、多くの場合蜂須賀はフリーで松下から、もしくは関口や椎橋を経由してサイドチェンジを受けることが出来た。

スライド4

このようにしてフリーでボールを受けた蜂須賀はすぐさま星の周辺のスペースにアーリークロスを入れた。ボールが逆に来ると同時に5バックもそれに合わせて動くが、連携がとり切れずスペースを広げてしまうことが往々にしてあり、特に図にあるような27分のシーンはそのズレをボールこそ合わなかったがしっかりと狙うことが出来ていた。

右サイドで会相手に引かれた状態でボールを持った際も似たような仕組みで攻撃を行っていた。左では松下がサイドチェンジの役割を担ったが、こちらでは仙台のアレクサンダー・アーノルドこと蜂須賀が務めた。得点シーンも典型的。蜂須賀からゲデスへと高速サイドチェンジを入れ得点に結びつけた。前半にもトライしていたが、強風もあってなかなか合わず。それを後半は修正し、アシストまで持っていたのは本当に素晴らしい。昨年J2に名を馳せ、鳴り物入りでJ1の舞台に立った志知との争いにも蜂須賀は完勝。SBとしてJ1トップレベルのプレーを見せつけた。

また蜂須賀のサイドチェンジから大外でゲデスがボールを持った際、逆SB石原も開幕戦同様WBとCBの間に積極的に侵入し好機をうかがった。前後半通して狙いは一貫しており、後半は星と小林の間を狭めるなど、後述するような対策を取られたが、きっちりと形から同点に持ち越し、勝ち点を獲得できたのはよかったのではないかと思う。

前半ー両監督の攻防①

昨年のJ2優秀監督賞に輝いた監督は伊達ではない。仙台の狙いをもった攻撃を受けつつも、下平監督のチームはそれを凌ぎ、しっかりと主導権を握りながらゲームを進めた。彼らの一番の狙いは前に出てきた仙台のIHの背中側のスペースを使うことにあった。このスペースを広げるため、横浜FCの選手たちは後方からのビルドアップから立ち位置を工夫する。

04 横浜FC仙台gs

立ち位置を工夫するチームの起点になったのがアンカーの佐藤謙介。彼は長沢の動きを制限しつつ、仙台のIHの動きを制御した。長沢は自身の背中側のスペースを埋める動きが非常に匠な選手だが、佐藤はまずその監視を逃れ、長沢の前や横に立ち縦パスが得意な小林のサポートに回る。仮に長沢がそのまま佐藤につけば小林がフリーに。逆も然り。そのフリーになった選手に対しては仙台のIH、主に関口がプレッシャーをかける。こうしてIHを引き出すと、その背中のスペースに斉藤光毅が入り、そこへ佐藤やその周辺の選手、主にやや引いた位置で受けるWBがボールを届けた。特に13分からの両WBの動きは逸品で、仙台のSBにつかまらないマギーニョ、斉藤らと絡みつつゴールに向かう志知など見どころ沢山だった。

このスペースで前を向かせたら怖いのが横浜FCの2トップ。斉藤は仙台のCBに対して果敢に仕掛け、自分に食いつけば空いた裏のスペースに走る一美にスルーパスを届けるなど、仙台にとっての脅威となるプレーを何度も見せた。2トップのスペースを作る使うのコンビネーションは完璧に近かった。

一方で黙っているわけがない策士木山隆之。六反負傷により試合が止まっている間、狙われている右サイドの選手を集め、前からプレスをかける際、そしてブロックを敷いた際のそれぞれの対応策を与える。

04 横浜FC仙台あ

まずは前から横浜FCのビルドアップに制限をかける際の関口裏の対応。これには蜂須賀がその役割を担った。相手の左右のCBに対してウイングの二人が外へのコースを切りつつプレッシャーをかけると同時に、蜂須賀はこの内側のスペースに入り斉藤や瀬古がボールを受けることを防いだ。またジャーメインが外を切り切れなかった際には蜂須賀が志知に対してマークにつき、後方も平岡が前に出るなどして対応した。

スライド6

この内側のスペースが消されたことを受けて、瀬古が外のスペースでボールを受ける動きも見せたが、そこまで正確にボールが届くことはほとんどなく、むしろ中央から瀬古がいなくなったことで奪ってから切り替えた際、そのスペースを有効に使うことが出来た。22分のボールを奪ってからの形は、瀬古がいなくなったスペースから蜂須賀がアーリークロスを送るといったもので、横浜FCの対応を逆手に取ったものだった。このプレーで拾ってからすぐ縦につけるという平岡の意識も素晴らしかった。

時間が経つにつれて仙台の面々も芝や風、そして相手のビルドアップに慣れ始め、徐々に前からのプレッシャーがはまること、1v1で奪い切ることも増えていく。また中央の佐藤小林の2択から押し込まれることも前半終盤には増えたが、そこは関口が出て背後をジャーメインが絞って対応、外の志知から運ばれるのはある程度許容するという形をとることで対応していた。

このようにして前半を0で抑えられるかと思ったら前節浦和戦同様クイックリスタートから失点。前半は下平監督のチームのほうが一枚上手だったということかもしれない。0-1で前半が終了する。

後半ー両監督の攻防②

後半も両チーム明確な狙いをもって攻守に出るという構図は変わらない。その狙いの中から、仙台は先述したようにサイドチェンジから1点を返し同点にし、さらにボールをしっかりと保持しつつ前進するシーンも見られるようになった。一方の横浜FCも後半の頭からシステムにやや修正を加えていた。

スライド7

横浜FCは前線から制限をかける際、後半は松浦が前に出る3-4-1-2のようなシステムをとった。この修正は左右の攻撃のバランスを取る椎橋のカバーを明確にするという意図をもって行われたが、椎橋を飛ばしてでもサイドを変えられる仙台にとって、この修正は大きなダメージにはならなかった気がする。またジャーメインの突破など、中央を経由せず同サイドでそのまま縦に押し切ることが出来たのも大きかった。こうして押し下げられると松浦が戻り5-3-2に移行した。

また攻撃面においても3-4-2-1気味に斉藤の逆サイドにいるIHが高い位置を取るなど前半とは異なるシーンが見られた。前線3枚になることで仙台の2CBが出て寄せることも難しくなり、星や袴田から楔が入る機会も前半当初は見られた。

しかし椎橋が中央から動き、人につくなど、仙台もマンツーマン気味に前からビルドアップを妨害するようになる。これにより、ビルドアップからの前進がより困難になった横浜FCは斉藤と一美を仙台SBの裏に走らせCBを引き出したり、松尾投入で左サイドから積極的に仕掛けることによって、蜂須賀を低い位置に押し込むなど着実に修正を図った。仙台はそれでもなんとか人につき奪い取り、もしくは割り切って引き、最後まで勝ち点1を守り切った(最後に右突破から決められたけどオフサイドだから気にしない←)。

試合は1-1で終了した。

雑感

両チーム試合前の分析をしっかりとゲームに反映しつつ、ゲーム中の修正も怠らないという、コーチ監督の働きがあっての勝ち点1だったように思います。選手も狙いが明確だったこともあり、特にその狙いの中核となった蜂須賀や松下なんかは輝いていましたね。また守備に関しても、ゲデスの外遮断の精度の向上など、3連戦の中で良くなった部分が少なからずありました。

一方で試合後のインタビューで木山監督が語ったような最後決めきる部分だったり、失点シーンや失点未遂のスローインなどリスタートの部分だったり、プレッシングの角度だったり、この3連戦で課題も明確になりました。次のゲームまで1週間あるので、まずはしっかりと疲労を取って次の連戦に備えつつ、消せる課題から消していってもらえればと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?