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第23節までのベガルタ仙台を分析する

ベガルタ仙台が危機に瀕している。2020年、ここまでリーグ戦を23試合消化し、勝利は2つ。ホームユアスタでの勝利はいまだない。今シーズンも残り11試合となったこのタイミングでここまでの戦いぶり、現状を整理し、チームが抱えている課題について考えていきたいと思う。数週間試合レビューをさぼってたので、まあその埋め合わせ的な。

木山ベガルタの目指す場所

そもそも木山ベガルタはどのようなサッカーを概念とし、大きな目標とし、勝利を手にしようとしているのか。個人的な解釈は「攻守をコントロールし、アグレッシブに闘う」サッカーだ。その戦い方を採用するのは仙台の戦いの歴史、そして文化を考慮した際に自然なことのように思える。

テーマが前後二つあるが、一つ目の「攻守をコントロール」に関しては、ベガルタ仙台が少なくともここ数年で成し遂げられなかったことだと思う。手倉森監督の下J2優勝し、2012年にはJ1の2位に輝いたチームは4-4-2のブロックからカウンターを繰り出す戦い方を採用。しかしボール保持から相手のゴールを脅かすことはできなかった。それを鑑みてボール保持攻撃に着手したのが渡邉晋監督に率いられたチーム。標榜する立ち位置を意識した攻撃を年月をかけてチームに落とし込み天皇杯準優勝にまで進んだものの守備には多くの課題が見られ、リーグ戦では目覚ましい結果を出すことができなかった。2019年はJ市場の変化などいくらかの要因によって特徴である攻撃もままならず、降格の危機に瀕したことを受けて守備ベースの戦い方に変更。最終的にはかなり洗練された4-4-2のゾーンディフェンスからのカウンターで残留を勝ち取ったが、本人談のとおり攻撃練習が少なくなり、ボール保持からチャンスを作ることはほぼなくなってしまった。このようにボール保持と非保持(便箋的に攻守としたが…)のバランスをとって戦うことができなかったのがこれまでの仙台だ。この両面のジレンマがあったチームがこのタイミングで両立にチャレンジし、勝率上げに取り組もうとするのは流れとしては自然に思える。世界的にもその攻守のバランス、切り替えの部分を設計するチーム(ジダンマドリー、ロシアワールドカップフランス、クロップリバポ等々)が結果を残している背景がある。木山監督も監督インタビューで「自分たちのペースで」とか「自分たちの形で」とか、どの監督も言いそうなことではあるものの主体性を持ってバランスを取りつつ攻守をコントロールしたいという意図がその言葉にはありそう。憶測にすぎないが。

二つ目のアグレッシブさはまさにセンダイの文化に沿ったものだと思う。なんだかんだユアスタが盛り上がるのはカウンター時などに勢いよくチームが躍動した瞬間や、選手が球際に激しく寄せていった瞬間だ。そのようなプレーをし、サポーターの力を勢いにして勝利を掴みたい。そんな思いが木山監督のアグレッシブという言葉には含まれているはずだ。

さて個人的な解釈ではあるが、チームは「主体性を持って攻守をコントロールし、アグレッシブに闘う」サッカーをテーマかつベースに細かな戦術を設計をしているように思う。攻守両面の主導権を握るためのその両面で抱えるリスクの管理、そしてチーム編成(けが人などの状況)によってその戦術は少しづつ変化を遂げてきているが、今回は現在に至るまでのそれを大きく3つに分けて整理する。

木山式 ver.1.0 -第1節名古屋戦 

シーズン初めのキャンプは例年に比べけが人も多く、戦術練習も満足には出来なかったはずだ。しかしながらチームは開幕戦で少なくともテーマに沿った戦い方を採用する。特徴的だったのが図の通り、ボール保持でロングボールをサイドに供給し、ボールの落下点付近に選手が素早く寄ってセカンドボール回収のための包囲網を敷くという戦い方。ビルドアップこそ行わないものの、ボールを失った瞬間の設計が施され、そこにリソースを割いてアグレッシブにプレーするその戦い方はチームのテーマにかなっていた。しかしこの試合を行ったのちリーグは約4か月の中断を余儀なくされた。

木山式 ver.2.0 第2節湘南戦~第7節柏戦

長い中断を経て帰ってきたチームが採用したシステムは4-3-3であった。相手ビルドアップに対して3トップが規制をかけて縦パスを誘導。入ったそのボールを3センターやCBが寄せて奪う。相手に前進された際は3センターがペナルティーエリア幅にとどまり、内側のコースを遮断する。これらが非保持時の主な特徴。ボールを奪うとジャーメインをはじめウイングに預けてカウンターが第一優先。後方からビルドアップする際にもSBが一発サイドチェンジや立ち位置取り(角度作り)で工夫を見せつつ、ウイングに預けて全体を押し上げ、前進することが少なからず出来ていた。一方で前線からの誘導は4バックのチーム相手に嵌ることが少なく、さらにそのアグレッシブさ故ボールを失った際の対応が疎かになることもしばしば。それらの弱点が露出した試合の筆頭が柏戦であった。この試合を機に中盤逆三角形の4-3-3は基本システムとして採用されなくなり、守備方法にも変更が加えられた。

木山式 ver.3.0 第8節マリノス戦~現在

15節鹿島戦あたりでいったん崩壊していた気もするが、形を若干変えながらも路線としては現在に至るまで継続されていると考えているので、この期間を木山式 ver3.0に設定した。基本システムとして採用されたのは4-2-3-1(4-4-2)。その特徴及び課題をボール非保持時と保持時に分けて整理する。長ったらしいのでこの図で充分。

まとめ

ボール非保持 -SHの高さと二つのパターン

シーズン当初と変わらず高い位置からの誘導やボール奪取を志向する仙台のボール非保持時の振る舞いだが、主に2パターンの守備方法を使い分けている。それらのパターンの違いはサイドハーフの高さにある。

一つ目のパターンは完全に引いて失点をしない守備をするため、相手の勢いに耐えきるために用いられる。守備のための守備として言い換えられる。ボールを奪ってカウンターに出る瞬間への準備よりも、とにかく目先の守備を意識するものだ。この際の両サイドハーフはボールの位置に関わらずボランチの高さとほぼ同列。もしくはそれ以下=DFラインと同列くらいの立ち位置を取り、相手のサイドの高い位置を取る選手をマークし続けるか、中央にボールを入れさせないようボールの高さに立つ。なおSHがDFラインぐらいに下がった際は前線から人が降りて展開を阻止するための横切のアプローチをする。トップ下関口はこういう仕事を一秒たりともさぼらない。二つ目のパターンは前から制限をかける際に用いられ、私たちが試合を見ていて直感的にいい流れが来ていると感じる際はこの方法が取られていることが多い。攻撃のための守備と言える。この際にはまず相手のビルドアップ時にDFラインを高く設定し、ボールサイドと逆のサイドハーフはFWとほぼ同列くらいの立ち位置を取る。この配置をまず取ったら、図でいくとボールサイドの右サイドハーフが敵左SBに対しステップを踏みながらやや緩やかに寄せてそこからの縦パスを牽制、敵左CBへのリターンを誘導。そこから敵右CBを経由し敵右SBにボールが出た瞬間にプレスのスイッチを入れる。先ほどまでボールの逆でやや高い位置を取っていた左サイドハーフが強く寄せて、同時に後方のボランチやSBが同サイドの敵にマンツーマンでつき、ミスを誘発させ、ボールを奪い取る。そんな算段だ。また逆サイドハーフを高さがカウンターできるかどうかの指標になるが、それについては後述する。

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パターン2の守備モデル

このようにサイドハーフの位置の違いがこの2パターンの守備方法の違いになるが、チームはこれらを戦況や時間帯によって使い分ける。単純にパターン2は同時に選手の意識や動きの矢印の逆(例えばDFラインの裏など選手の背中側にボールを入れられること)を取られる可能性があるため使いどころをマネジメントする必要があるし、またこれを90分繰り返すことが体力的にも難しい。さらにコンディション調整よりも相手の対策に時間をかけて練習することが難しいことで、前半はリスクをかけずに様子見に使い、後半は勝負に出るといったプランを選択せざるを得ない試合が今季は少なからずある。そういった要領でこれらの使い分けが行われている(何より後半勝負にして流れを大きく変える選手交代が出来ないのはつらいが)。その使い分けがうまくいったのが第21節川崎フロンターレ戦。リーグの圧倒的首位に立つチームに対し、初めの約60分間は低めに構え、残りの30分間は交代選手の勢いも借りつつ前から圧力をかけて、敵陣側でプレーする機会が増加し、いくつか決定的なチャンスを作り出した。

ボール非保持 -アグレッシブさのリスク

一方で何よりも結果が出ていないことでわかる通り、趣向する守備方法、特にアグレッシブさを象徴するパターン2はそのリスクに付け込まれることがしばしばあり、勝つための戦術としてなかなか機能していない。そのリスクは主に2つに絞られる。

一つはマンツーマンの守備によって自分たちのポジションが崩されてしまうこと。上述したように相手が立ち位置を入れ替えるなどした際に、人に強くついていく守備は本当に危険な(視野や体の向きが変わって対応が難しくなってしまうような)パスコースを相手に明け渡してしまう恐れがある。例えば18節の横浜Fマリノス戦ではアタッキングフットボールを標榜する相手に対してそれぞれのメリハリがつかず、前述したような高めの逆SHの背中側のスペースを使われ、何度もピンチを招き押し込まれた。また20節札幌線ではサイドの相手に対しマンツーマンでついたことで、ボールの横に立って中央へのパスを遮断する選手が不在になり、守備の薄い逆サイドにまで運ばれ、失点を喫した。人の分担を掛け違えれば対応に後手を踏んでしまうこともある。さらに立ち位置を崩されながらボールを奪ったとしてもその時々に異なる位置に立つ味方を認知するまでに時間がかかりカウンターに出れないなんてこともあるだろう。

マンツーで横を切る選手がいなくなったことによる失点

シーズン序盤はボールを奪うための守備時に相手の立ち位置に関わらず、ボールの位置に合わせてそれぞれが連動して立ち位置を決定しており、完璧でこそなかったがある程度主導権を持って(自分たちの狙い通りの場所で)奪うことが出来ていた。しかし現在はこのように手法を変え、ボールよりも人の位置をベースに奪い取りに行く際の立ち位置を取っている。おそらくではあるが、連戦の中で戦術練習も多くはとれず、またけが人多発で細かな守備コンセプトをチーム全体に落とし込むのが困難であるため、比較的難易度の低く、共有しやすいそのやり方にシフトチェンジをしたのだと思う。そういった状況も重々理解できる一方で、やはりある種相手の立ち位置に自分たちの守備対応を委ねるそのやり方は消極的であると捉えられるし、現にそれに対応しきれず主導権を手放していて振り回され続けたのが横浜FC戦の前半であり、果たしてこれは主体性をもってアグレッシブに闘えているのだろうかと疑問を感じ得ない。

そしてもう一つ、このボール非保持時の戦い方を採用するにあたってのリスクが少し先述した最終ラインの背後のスペース。前線から制限をかけて相手ビルドアップを誘導し、ミスを誘発させるアプローチは同時にそれを交わされた際の危険性をもつ。最終ラインから最前までの距離を20~25mほどに全体の陣形を縮め、相手陣に押し込むことで広がるDFラインの裏のスペースをカバーするのは当然CBとGKになるが、現在ベガルタ仙台のキャプテンとしてCBに君臨するシマオマテは決してそのスペースをカバーするためのスピードに長けているわけではなく、例えば陣形が引いた際に入ってくる相手のクロスボールや目の前でパスを受ける選手に対して寄せて潰しきるといったプレーを得意とした選手だ。第23節したがって今後もこの戦い方を続けるのであれば、2019年に低い4-4-2ブロックの砦として活躍したシマオマテ離れは進めていく必要があり、そのカバースピードが少なからずあるアピアタウィア久が近頃シマオの相方として、元々シマオが務めていた右CBで出場機会を伸ばしているのは(台所事情も少なからずあるが)当然のことのように思える。

とはいえ近頃は先ほどパターン1として挙げたような失点をしないための守備=守備のための守備は機能してきている。直近で大敗した浦和戦であってもその失点内訳はビルドアップからのミスが3つ、パターン2の守備時の先述したリスクを取られたものが2つ、後述する攻撃時のリスクを取られたものが1つと、完全に引き切った状態での失点はなかった。ボールがサイドにある際に体勢や視野の逆を突かれるようなパスを中央に入れられないよう一人がボールの横側に立って対応し、周辺の選手がそれをバックアップする縦方向の挟み込みであったりカバーであったりのポジションを取ることがこの守備の概略。木山監督がよく口にする「中をしめる」についても、そういったサイドでの対応がしっかりと出来ているかどうかがその評価基準となっていると思う。マンツーで相手についていく、横切りからの撤退といったそれぞれの守備対応のメリハリはチームにより一層求められるだろう。

ボール保持 -左右のカウンター

次にボール保持について整理していく。まずはカウンター時の振る舞いについて確認する。仙台は先述したパターン2の守備でボールを奪った際にカウンターに出ることが多い。その際に登場するのが逆サイドで高めに位置取るサイドハーフ。彼らは自分と逆のサイドでマンツーマンベースで味方がボールを奪うと、ボランチや前線の選手を経由してからボールを受け、一目散に直線的に高い位置までドリブルで運ぶ。それが成功したのが直近でいえば21節川崎戦の62分のシーンや22節横浜FC戦の41分のシーン。これらの場面ではボールを高い位置まで運ぶことはできたため、逆サイドでボール受けた選手やそこからボールを受ける選手に判断や技術のミスがなければ得点に結びつけることが出来ただろう。

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川崎戦62分 逆サイドハーフを使ったカウンター

おもしろいのは成功例として挙げたシーンがいずれも左サイドでのボール奪取から始まっていたこと。逆に右でボール奪取→左で運ぶカウンターの形は多くの場合失敗に終わっている。19節セレッソ戦の36分や21節川崎戦の16分のシーンがそれにあたる。これらのシーンが失敗に終わった原因はまず選手それぞれの利き足にあると思う。ここまで仙台の中盤で主力を務めている選手は圧倒的に右利きが多い。左奪取→右前進のカウンターの場合、右利きであれば右サイドに向けて前方向のボールが出しやすく、運ぶ選手もピッチの外側広い方でボールをコントロールし、中央からくる選手に対して身体でボールを隠すことが可能。一方逆になればパスが前方向に出しづらく、ドリブルも内側向きで直線的に前方へ向かうことが出来ない。解決方法としては左利きの選手をメンバーに加えるのが一つ。田中や近頃ケガから復帰した松下が現在チームに与えている影響はそういった面でも大きい。ただ利き足で選手選考をするのはなかなか厳しい判断。では右奪取→左前進のカウンターを成功させるために右利きの選手は何を改善すべきか。あくまで外から見たしがないの人間の意見に過ぎないが、それは立ち位置と受け方であると思う。例えばサイドの選手がボールを奪い、一旦ボランチに渡してから逆サイドハーフへと展開する場合、ボランチは奪った選手よりやや下がり目の立ち位置を取り、斜めにマイナスのボールを受けられれば体をより中央側に開いた状態で逆サイドまで展開することが可能になり、より楽にプレーできると思う。選手個々の工夫やコーチ陣のアプローチ次第でこのカウンター戦術が活きるかどうかが決まるだろう。

ボール保持 -縦パスをスイッチに

次に組み立てからの前進について整理していく。仙台の組み立てからのボール保持時の特徴として、縦パスを第一優先および攻撃の起点としていることが挙げられる。縦方向=アグレッシブという安直な等式も成り立たなくはない。相手DFラインの背後もしくはその手前と相手中盤の背後にスペースがあればすかさずそこへと縦パスを送り込むという意識がボランチの二人には徹底されているようだ。椎橋や浜崎はそのプレーに果敢に挑戦している。19節セレッソ戦では浜崎の縦パスをきっかけとして西村がPKを獲得することが出来た。

中央の相手DFを背負っているFWに縦パスを入れると、FWは内側に絞ったSHなど前を向いている選手に落として前進を図る。ゲデスは独力で前を向くことも出来るように半身で受けてボールキープorワンタッチで落とすことで相手を引き出し、DFラインにほころびを作ることが出来ている。山田もどちらかと言えば空間で受けてからのこれが得意な選手。一方で長沢は前を向くより、ポスト役として後ろ向きにプレーをすることが多いため、相手を引き付けられることが少ない。

このようにして中央の縦パス一本からのチャンスメイクを志向している仙台だが、その形からゴールが生まれたことは先ほど挙げたセレッソ戦のPK獲得シーン以外にほぼないはずだ。なかなか縦に入れられない、もしくは出し手となるピッチ全体を見渡せる底の選手が縦パスを入れる能力に乏しいがために、一番底のGKまでボールが下がってしまうこともしばしばみられる。たとえ縦パスを入れてチャンスにつなげることが出来ていたとしても、それは相手側に問題があったときに限られる。日産スタジアムでのマリノスとの対戦では、マリノス側が積極的に前に出てくる&撤退の意志があまりないことにより、仙台はそこに多くの縦パスを供給することができた。一方で鹿島戦や東京戦、浦和戦などでは入れられない、もしくは入れても奪われてしまい手も足も出なかった。「自分たちの形」が存在しながらも、それを活かせるかどうかは相手との相性次第になってしまっているのが現状だ。個人的にはその縦パスを入れる前の段階に課題が存在しているがために、そのような結果になっているのだと考えている。その課題は大きく二つに絞られる。

一つは逆方向の可能性の欠如。縦パスを入れられないと判断した場合に仙台はローテーションしながらサイドからの前進を図る。一旦そのようなシチュエーションになって攻撃が滞った場合、少なくとも椎橋浜崎コンビからは逆に出してやり直すプレーがあまり見られず、むしろCBに戻してからU字で一つ一つ逆まで持っていくことが多かった。それでは逆サイドのSBが初めから大外で幅を取っている意味が全くと言っていいほどない。浦和戦ではビルドアップミスから、その逆SBの背中を使われ失点している。一発でサイドを変えるような、横のレーンを一つ飛ばすようなパスは相手に対してスライドと細かなポジション修正、さらに個々の体勢と目線の変化を強いる。そのわずかな隙に前進して押し込むことだって可能だ。そのボールが出せる蜂須賀や田中や松下の貢献度は大きい。しかし最後方のCBがそれを務めて一つずつサイドを変えては相手にスライドやポジション修正のための時間を与えてしまうため効果的とは言えない。中盤の選手がスイッチとされている縦パスを常に探るのもわかるし、むしろその意識が当人たちを他の可能性から遠ざけているのかもしれない。が、他の可能性を示すことでさらに空間を広げ、使うことが可能になり、その状態ならさらに縦パスを入れる難易度もさらに下がるのではないかと思う。じゃあなんでできないのって話は今言ったような縦への強すぎる意識と、あとはカウンターの話で指摘した通りだ。

もう一つの課題として各々のポジション修正の欠如が挙げられる。仙台は現在保持時にボランチ1枚が状況を問わずに下がって組み立てを行う。ピッチを広く見渡せる最後尾に降りることはスペースを見つけやすくなるほか、2トップと3バックという構図だけを見ればひとり多いことから時間的余裕が生まれ、さほどプレッシャーを受けずに縦パスを送ることだって可能だ。しかし最後尾で1枚多いことは、同時にそれよりも前方で1枚少なくなっていることを意味する。最終的にDFの綻びを突いて得点を奪うことがサッカーの性質である以上、その結果に直結しないプレーは意味をなさない。相手の出方が変化せず、綻びが最終的に生まれなければ、その列を降ろすプレーに必要性はない。さらには中盤が1枚になることで前後分断からカウンターを招く恐れもある。スピードのないCBにボールを運ばせて前方に出るより、後ろを3枚にした方が、奪われたら一気に撤退することで被カウンターによる失点の可能性を低くできるかもしれない。が、リスクをかけるべき場面でもそれをあまり行わず、何より中盤1枚の状態で失点してるのが事実だ。選手には状況を見つつ、立ち位置を修正することが求められていると思う。またそれはボランチ以外も例外ではない。6失点した埼スタでのゲームも、縦パスを入れるには絶好のスペースを相手が提供してくれていたにも関わらずそれを効果的に使うことはできなかった。ボールに近寄ったり、相手が立つ前に立ったりして、そのスペースで受ける選手が存在しなかったためだ。フォーメーションやシステムはあくまでスタート位置やベースに過ぎない。「自分たちの形」をゲームの中で活かすためにがやらなければいけないことがある。

これらの課題の改善が木山監督が標榜する縦パスを起点としたアグレッシブな攻撃を機能させるために少なからず必要になるはずだ。いい準備なしには縦パスは通ってもすぐに相手の標的になって奪われる可能性が高いし、そもそも準備ない場合通すところが狭いのでパス自体の成功率も低くなる。ちなみに浦和戦ではもう逆サイド諦めたのかってくらいに逆サイドハーフが中央~ボールサイドに寄った立ち位置を取っていたけどさして機能せず。そうするなら奪われた瞬間に大きく空く逆サイドのスペースへのパスを防がなくてはいけないが、それは試合通してあまり行われず、後半早々にそれが原因で失点。これを今後も続けるかどうかはわからない。連戦の最中や、最後の試合になると規律がほぼ見られなくなることが傾向としてあるため、個人的にはその試合限定のものになると思う。

両SHが同サイドに偏ったことによる失点

残りの試合と来シーズンにむけて

ここまで今シーズンのチーム戦術の変遷について整理してきた。現在の状況は特に深堀し、形こそあるものの課題が同時に多く存在することがわかった。その課題の解決にこれからチームの各々が取り組み、それを改善し、さらに勝利すれば、その時にはじめて今シーズンを進歩の一年と捉えることが出来るだろう。一方でここまでシーズンの3分の2を消化してその課題に対する目に見えたアプローチや改善があまりないことから、残りの時間も同じように過ぎて行ってしまうことも想定できる。仮にそうなった場合、個人のプレーとゲームモデルとのズレが現在多く堆積している以上、来シーズンに向けて冬には選手を多く入れ替えるか、今いる選手がオフ返上でめちゃくちゃ頑張るか、もしくはそもそものチームのゲームモデルを変えるかの三択択を迫られるはずだ。しかしそもそもクラブが債務超過に陥っていることを考えると、これ以上人件費を抱えることはまず考えられず、一つ目の選択肢をとることはないだろう。また先述したように、志向するゲームモデルは少なからず世界の流行に沿っているが、それを表現できる選手たちは世界中の多くのクラブに目をつけられており、需要の増加に伴い彼らの市場価値も高騰している。なおさらそんな人材を取るのは難しいため、やはり選手の入れ替えは現実的ではない。二つ目の選択肢は長いシーズン中に変わらないものが、短い冬の期間で大幅に変わるのかという点で懐疑的。頑張れとしか言えない。となると一番現実味を帯びるのはゲームモデルを変更することになる。その場合いる選手が出来ることに極力合わせる2019シーズン後半のようなアプローチをすることになるだろう。かなり現実的な選択だ。ただそれは冒頭に書いたクラブのこれまでの文脈、アプローチの理想からは離れたもので、まあある種哀しい選択でもある。勝てれば別に方法や理想なんてなんでもいいけど、逆に現実的手段を取ったとしても勝てなかったら…なんてのも考えてしまう。理想と現実の幅で揺れ続け、今シーズンはその融合に取り組んだもののこんな感じに。なかなか難しい。まあとにかく残り11試合は今いる選手がこのゲームモデルでもやれることを証明してほしい。全く締まらない文になってしまった。

あとがき

正直色々あったこの時期にこの偉そうで粗末な記事を出すのはいかがなものかと自分自身に思う。結果が伴ってこずホームで1勝もできていない事実、そして馬鹿が馬鹿によるチームやクラブへの執拗な向かい風を生み出したことによる逆境、それぞれが重圧となって容赦なく選手たちに降りかかっているこの時期に。難しい状況ながら彼らは、「サポーター」にとっての希望の光は、そうあるための努力を欠かすはずなど断じてない。にもかかわらずこの現実的でもあり選手たちの取り組みに対して批判的な文を書くのは正しいのかと。(あくまで自分なりの解釈で)正しい理解をするのは必要。なおさら勝ててないのならその中から正しく明るく解釈できることを探して共感したい。ただ今はどうもそれが自分には見えてないので批判的な文になってしまった。もちろん正しい指摘や批判も必要だとは思うけれど、はたして選手が精いっぱいやっている中で、これを書くのは「サポーター」のやることなのか的な葛藤がある。まあ個人的な感覚を記録しているだけとも捉えられるけど。答えは出てない。ただ少なくとも「サポーター」としてやれる応援や支援はスタジアムでもそれ以外でも続けていく。なによりこんなことでベガルタ仙台には潰れてほしくはないし、そうなったら自分に何が残るのかが謎だし、関口の夢もいつかかなえてあげたい。なくしてはならない。死んでも譲れないものがある。仙台がある限り。

最後に最近印象的だったものを貼って終わる。


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