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国語の授業でいろいろな本を使う(原稿ドラフト)

初出:『小学校・中学校教育情報誌 教室の窓』
Vol.71,東京書籍,2024年1月発行
特集:改めて見つめ直す「主体的・対話的で深い学び」

 読む力を伸ばす国語科授業の方法についての文章です。依頼は、「特集テーマについて、読書指導と絡めながら述べてほしい」というものでした。国語の授業で複数の文章や本を使う教え方について述べました。「学習センター」と呼ばれる方法に基づき、複数の文章教材を同時並行的に扱う方法、読む教材を生徒自身が選ぶ意義について書きました。

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夢中になれるチャンス

 アメリカの教育研究者であるサックシュタインとターウィリガーは、著書『一斉授業をハックする』(古賀洋一・竜田徹・吉田新一郎訳、新評論刊、2022年)において、「一斉授業では、生徒一人ひとりに合った学習ペースを把握するために時間を使うことができません。全体のペースをそろえることにエネルギーが費やされ、深い学びが起こる「夢中になって取り組む機会」が失われてしまうからです」と述べている。「深い学び」は、教室全体で同時に起こるのではなく、生徒一人ひとりの中にそれぞれのタイミングで起こる。生徒一人ひとりが「夢中になって取り組む機会」を得られているかどうかが肝心なことだ。国語科授業で生徒が夢中になれるチャンスを広げるにはどうしたらよいか。 

生徒による意思決定

 その一案としてサックシュタインとターウィリガーは、教科書教材に加えて複数の本や文章(テクスト)を用意し、生徒に選択させる方法を提案している。読む力を高める授業にあたり、テーマや指導事項に応じたテクストを何編か準備し、生徒が自分にぴったりのものを選べるようにするのだ。これは生徒が意思決定する機会を授業につくり出すことでもある。

 たとえば説明的文章を使って読む力をつけたいときには、取り扱う教材を教師が決めるのではなく、興味のあるテーマについてクラスでアンケートを行う。そして、さまざまなテーマやトピックのテクストを用意し、読みたいものを生徒が選べるようにする。そのとき、生徒にすべての教材の試し読みをさせてもよい。最初に読んだものに興味をもてない場合は、別のものを選ぶようにする。このような方法が提案されている(『一斉授業をハックする』pp.95-96)。

 国語科授業の従来のスタート地点は、事前に教師によって選ばれたテクスト(教科書教材)を読むことだった。そこでは、生徒がテクストを選択する余地はなかった。彼らが提案しているのは、そのスタート地点をもっと前方に延長することだ。

 つまり、教材を教師から与えるのではなく生徒が選ぶところからスタートする。自分で選ぶといっても教師から示された選択肢の枠内ではあるが、それによって教師は教えたい内容を保つことができるし、生徒の声やニーズを授業に反映させることもできる。そのためには、単元の前半に「試し読みの時間」を設けるとよい(図1)。

図1と図2

試し読みの時間

 たとえば、「スポーツを題材とした説明的文章を読み、スポーツの力に関する筆者の考えを読み取る」という単元目標があるとする。この単元目標にふさわしいテクストは、義足装具士の挑戦を描いた教科書教材「風を受けて走れ」(東京書籍、中学1年)だけではない。バスケットボールのトム・ホーバス監督の采配を分析したインターネット記事を含めてもよいし、女子サッカーのなでしこリーグの歴史に関する新聞コラムを準備してもよい。発展的には、課外活動で情熱を寄せているスポーツや選手についての本を、生徒自身が持参することもできる。

 仮に5種類のテクストを準備する場合、それぞれの冒頭部分を適当な部数コピーし、教室に5か所のコーナーをつくって教材ごとに配置する(図2)。そして、「5つのコーナーを回って試し読みを行い、読みたい教材を一つ決めましょう」と指示する。生徒はメモ用紙に書き込みながら文章の「味見」をする。そして次時以降は、自分で選んだテクストをもとに学習活動に取り組む。

KWLチャートの活用

図3

 図3として、「スポーツの力」というテーマで私が作成したKWLチャートを示した。KWLチャートは、読書の際、あるテーマをめぐるいまの考えやすでに知っていること(what I Know)、本を読むことで知れたらいいなという予想(what I Want to know)、そして本を読んでわかったこと(what I Learned)を書く思考ツールである。とくに説明的文章を読む学習で効果を発揮する。

 まず本を選ぶ前に、KWLチャートのK欄に「スポーツの力」について知っていることを書く。次に「試し読みの時間」で読みたい文章や本を決めたら、それを本格的に読み始める前に、W欄を使って、知りたいことや本の内容の予想を書く。ここまでの作業をしてから本を読み始める。

 そして本を読み終えたら(あるいは読みながら)、チャートのL欄をまとめていく。読む前の予想や期待に対して実際に何が得られたかを書く。ときには予想通りの内容ではないこともあるが、読む前の予想と読んだ後の結果の違いを把握するプロセスに意味がある。文章の内容や構成を予想する先見力や、適切な本を選ぶ選書力が身につくからである。その意味でこれは読書指導の一環ともなる。

いろいろな本がもたらす深い学び

 ある指導事項の達成に向けて、すべての生徒が同じテクストを読む必要はない。教材が別々であっても、試し読みの時間やKWLチャートを活用すれば、生徒一人ひとりの実態に応じた指導や小グループでの意見交換が可能であり、単元目標にクラス全体で迫ることもできる(図4)。

 自分で選んだ本だからこそ、生徒は学習に夢中になり、責任をもって取り組む。話し合いや発表の時間には、別の本を読んだ級友が同じテーマに対して何を知ったのかを聞くのが楽しみになる。国語教科書、本、文章を組み合わせることが、結果として、生徒一人ひとりの学びを主体的・対話的で深いものにすることになるのだ。

図4

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