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日本の「不動産テック」の耐えられない軽さ

*タイトルは「存在の耐えられない軽さ」からのパクリです。深い意味はありませんw

いままで、「不動産テック」界隈をネタにして「不動産チャラテック」などと、チクリチクリと軽くディスってきましたが、自分はかれこれ20年ほどに渡ってこの業界(不動産とIT)を見てきて、もどかしい思いを長くしてきたので、多少辛口になるところはご理解、ご勘弁頂きたいところであります。

自分はただ単に、元宅建士でプログラミングもする人、という今はなんの利害関係もしがらみも無い立場の人間なので、ポジショントークでもなく、日本社会の為に、本当のこと、思ったことを、不動産業界だろうがIT業界だろうが国交省の天下り元官僚だろうが、全方位に対してぶっちゃけて指摘すべきことはする、というだけであります。

日本の「不動産テック」界隈を見ていて思うのは、軽いなぁ、チャラいなぁ、という事であります。まぁもともとIT業界の一部や不動産業界の若い賃貸のにーちゃん達などはチャラいので、それらが交じり合ってさらに微妙なチャラさを醸し出しています

雰囲気の軽さは、若さという事もあり、全く構わないのですが、問題は2点あると思っています。

事実誤認の多さ

そもそも言っている事が事実誤認だったり、やっている事のポイントがずれている事であって、間違った情報や不十分な知識などを元に理解している所も多々見受けられることです。

自分も振り返ってみると、若い頃は不動産業の実務とこの業界についてまるで分かっていませんでした。それはそれで仕方がないです。仕方がないのですが、それが一般向けなどのメディアに乗って喧伝されたりすると、もはや問題としか言いようがありません。

また、都合の良い所だけ触れて(チェリーピッキング)、リスクやなぜそうなのかといった全体像などには触れない、という点もいつも気になります。

あんまり特定個人の発言を具体的に言うのもアレなので、一例として「不動産テック専門メディア」での記事を取り上げてみましょう。

不動産テックの専門メディアですからね。ええ。

記事内でも紹介しましたが、日本には「レインズ(REINS)」という不動産業者間物件情報交換ネットワークシステムが存在します。このレインズが保有する物件情報が、SUUMOやHOME’Sなど不動産ポータルサイトの情報源となっています

ttps://www.sumave.com/20171205_192/

なっていませんので。レインズは「保有」しませんし、物件検索ポータルサイトにも情報源として横流ししたりしていません。

追記:>不動産の「物件データ」は誰のものか

基本中のキ、です。

もし、どこかの業者がレインズの情報を無断で流用してそういう所に掲載していたら、限りなく違法に近い行為です。一部、そういう業者も居ますが、やってるのは媒介契約も許諾も何もない、実質単なる「おとり広告」です。

一方、アメリカでは「MLS(エムエルエス)」というオープン化された不動産データベースが存在します。不動産業者でなくてもデータベースを見ることができ、情報量の多さやリアルタイム性はレインズとは比べ物になりません。MLSにより、多くの切り口で物件の最新情報を収集し、物件を検索することが可能なのです。

ttps://www.sumave.com/20171205_192/

「オープン化された」、とはどういう意味でしょうか。MLSsのデータベースは不動産業者(ブローカーやエージェント)しか直接は見る事は出来ません。自宅の売買に関わることなど、中には守秘義務に関わる事もありますから、全部のデータを一般にまるまる公開するわけにも行きませんから。

追記:>「巷の、「レインズの『オープン化』論」の論点を整理してみる」で詳しく書きました。

アメリカの不動産業者団であるNAR(全米リアルター協会)が管理しているMLSを踏襲してREINSは生まれました

ttps://www.sumave.com/glossary/reins/

「不動産業者団」というのは善意にとってただのタイポだとして、NARがMLSを直接管理している訳ではありません(沢山あるし)。次に、「MLSを踏襲してREINSは生まれました」これ、参考にはしたかもしれませんが、レインズは日本の法律に基づいて指定されたいわば官製の独占ゆえにクソシステム)もので、MLSのように自然発生的に必要性から自主的に立ち上がったものがいくつも連携し合っているものとは根本的に違うと思うのですが・・・。

(追記:MLSについて別途、「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」で詳しく書きました)

とまぁ、ちょっと検索しただけでも、同様の事実誤認やいい加減な話しはわんさか出てきます。なにも、このメディアがどうのという話しではなく、この「不動産テック」界隈がだいたい皆そんな感じなのです。なので、そういうのを前提にしてたりすると、もう話している事も信頼性がゼロなのです。

頭が痛くなります

そんないい加減な理解や事実誤認を前提にして何かをやろうとしても、当然のことのようにやることのポイントがずれてしまうのでしょう。

バズワードを散りばめた軽薄さ

横文字のバズワードを並べ立てて、ITに疎い一般の人達に対して(騙しているとまでは言わないが)アピールしようとしていること。

ビットコインが流行ってブロックチェーンという言葉が注目されれば、すわっとばかりに不動産とブロックチェーンとか言い出して自らにも注目を集めようとする日本の「不動産テック」界隈

軽さの極みですね。

流行り言葉のバズワードが出てくるたびに飛びついては、今は***の時代云々とやるのは、やり過ぎるとバカにされるんではないでしょうか。最近では似たような事を言い換えて自らバズワードっぽいのを作り出して延々とやっているだけの気がします。

本当の技術者は絶対にこんな事しません。むしろ、IT業界として信用を失う行為なので、今すぐ止めて頂きたいとまで思います。

本当の技術者であれば単に冷静に技術を評価しておき、状況に合わせて適切な技術を採用するだけです。本当の技術者なら、単に流行っているからと言って、不適切なケースでその技術を採用するようにぶち上げて売名行為をしようなんて発想にもなりません。他の技術者達から逆に技術選定を間違ってね?と突っ込まれて恥をかいてお終いだからです。

なので、本当の技術者にとってみれば、恥知らずの行いに感じます。

登記とブロックチェーンの件でも書きましたが、こういうの、真顔で受け売りしてくる人達が湧いてくるという大変めんどくさい弊害もあります。本当に止めて欲しいと思います。

ブロックチェーンの前には、「AI」というバズワードが流行りました(何度目だっけ)。これは非常に曖昧な言葉で、人によって理解が異なります。技術者にとっては現在のAIは「機械学習」、よくても「深層学習」の事であって、その原理を理解すれば限界も分かります。ところが、一般の人にとっては「人工知能」です。そういうのを利用して「今話題のAI(人工知能)を使って運用しているので高配当で儲かる」という詐欺をやる人達まで出てきますし、曖昧なままメディアも取り上げるので、それに騙される人達も続出するのです。

そもそも、言葉という面で言えば、本当にコミュニケーションが上手な人は、相手に合わせて分かり易い言葉を選んで説明します。本当に必要なケースであれば、あえて曖昧な「分かり易い」言葉を使わず、ちゃんと定義された言葉を使って整理します。

単に専門用語をひけらかして相手より上に立とうとするのは、(普段は低い立場の人が防御反応的にやる事もあるし、理系の人達はコミュ障も多いのでやりがちだったりしますが)見苦しいことです。

どうせ相手には分からないだろう、と、専門用語やバズワードを散りばめて、チェリーピッキングの説明をした上で、どうです、うちのサービス凄いでしょう、みたいなのは、分かる人から見れば信義にもとる行為。

不動産業に居た頃は自分も何度もやられた (この場合は釈迦に説法というか・・・イヤ良く知ってるし、ていうか自分、似たようなシステム開発した事あるし、みたいな)事があるのでウンザリです。

そういうセコイことは、ITゼネコンやコンサルの人達が散々やってきたことです。(幾度となく目撃してきたし)そういうの、真似しなくて良いです

期待すること

今の日本は、ひと昔前のITゼネコン(SIer、システムインテグレーター)依存の丸投げ下請け多重構造時代の悪習から、自社IT中心のビジネスへ転換(いわゆるDX)というな、重要な過渡期にあると思います。

そういう意味では新しい世代の「不動産テック」界隈の人達は、旧来のNTTデータなんちゃらや、日立なんちゃらとかいった、日本のITゼネコンがやらかしてきたような悪行の数々の真似をするようなことをせずに、実際の不動産業に根差した、地に足のついた事を目指して欲しいと思う今日この頃です。

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