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音楽家と歴史・社会 -21: マルタ・アルゲリッチと彼女の家族

主にクラシック音楽に係る歴史、社会等について、書いています。今回は、現役のピアノニストで、世界中の多くのファンを魅力し続けてきているマルタ・アルゲリッチとその家族を描いたドキュメンタリー映画を観た感想についてです。
夕べ偶然、YouTubeで、清塚信也 Official「きよりんチャンネル[決]」を視聴したところ、「生きてる間に聴くべき音楽家」として、彼女が挙げられていました。3年前にFacebookに彼女について投稿したことを思い出しましたので、若干の編集を加えたものを再掲します。

///////////// 2020年8月16日、NHKプレミアムで放送された映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」(2012年公開)は面白かった。原題は"Bloody Daughter"という奇妙なもの。実は、音楽映画ではなく、彼女の3人の娘のうち末っ子のステファニーが撮影した、所謂ファミリーストーリー。家族との激しい生き様が描かれた怪作?だ。
アルゲリッチは結婚/離婚を3回繰り返したため、父親が異なる娘達のラストネーム、国籍は違うし、容姿も大きく異なる。
・最初の夫:ロバート・チェン、中国出身のピアニスト
・2番目の夫:シャルル・デュトワ、スイス出身の指揮者
・3番目の夫:スティーヴン・コヴァセヴィチ 米国出身のピアニスト ベートーベン に造詣

最初の夫との間の娘リダは生まれてすぐにジュネーブの養育園に預けられ、アルゲリッチの母が無理にブリュッセルに連れ出したことが、誘拐との審判が下り、アルゲリッチはリダの親権を喪失。
2番目の夫は、韓国出身のバイオリニストのチョン・キョンファと不倫(セクハラ?)し、激怒したアルゲリッチによる離婚。
 (追記)シャルル・デュトワは、後にセクシャル・ハラスメント疑惑を受けた。アルゲリッチはどう感じていたのだろうか?
3番目の夫とも、三女ステファニーが生まれて2年で離婚。出生時に父親を届けず、証拠書類を残さなかったため、未だに認知されていない!

このような奔放な遍歴にもかかわらず、アルゲリッチは、50年以上に亘り世界のクラシック音楽の最高峰にいる。

アルゼンチン出身として知られているが、実際には12歳頃から国外に出ずっぱり。14歳の時に一家でウィーンに移住。ステージママの母親の強力な推しで、ペロン大統領に面会し、父親を無理矢理に外交官にさせ、在オーストリア大使館勤務とした。フリードリヒ・グルダの弟子になるためだ。アルゲリッチの母親は、ウクライナ系ユダヤ人のアルゼンチン移住二世であり、手と足が大きい、個性的な人だったらしい。

アルゲリッチは、ショパンのみならず非常に幅広いレパートリーを誇り、速い演奏と正確なタッチ、そして躍動するリズム感を有する。同業者の夫達は、彼女の美貌と才能に魅惑されたが、癒しの時間を得ることは出来なかったのだろう。

映画の後半には、第11回別府アルゲリッチ音楽祭のために来日するアルゲリッチと男友達(マネージャー?)、それを映像芸術家として撮影するステファニーが登場。日本のファンがアルゲリッチグッズや音楽の友の特集号に群がるシーンが面白い。そして、本番前のステージ裏で、苛々して演奏を拒もうとするアルゲリッチの姿。癇癪持ちの婆さんに見えるのだが、演奏に入ると鬼気迫る迫力で聴衆を感動させる。

家族の秘め事を曝け出してでも、偉大な母親の姿を映像として残そうとするステファニーと二人の姉達にも感動した。映画を見終わって、何度も来日しているのに、アルゲリッチの生演奏を聴いたことがない自分を情けなく感じた。/////////////

以上の内容は、2020年8月18日に書いたものだが、最近のアルゲリッチも活躍しているようだ。
今年83歳になった彼女は、第23回別府アルゲリッチ音楽祭を監督、出演するため、来日した。5月19日夜、大分県別府市のホールでドビュッシーの「チェロとピアノのためのソナタ・ニ短調」などを演奏した。
ああ、またしても、私は生演奏を聴くチャンスを見送ってしまった!清塚信也が感動した、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を弾いてくれるような奇跡はもう起こらないだろうか♬

映画アルゲリッチ 私こそ、音楽!」(2012年公開)のPR写真から

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