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【前編 | 10,000字】エンプラ向けBtoBマーケティングと、”引き算”の「ABM」「THE PODS」

マーケティング戦略を考えるって?

【収益戦略】の章で解説した「事業計画」を実現するための機能戦略として、まずは「マーケティング」を見ていきます。「マーケティング」という言葉はあらゆるところで使われていますが、その「戦略」を決めるために具体的に何を考えるべきか、クリアにイメージが湧かない人も多いと思います。

この「攻略本」では、マーケティング戦略=以下の「4要素」を決めていくことと定義しています。

書き始めたら半分で10,000字超とすごく長くなってしまったので、前編・後編の2つに分けて解説していきます。


前編のサマリー

エンプラ向けBtoBマーケティングの戦略を考えるとは

  • あれこれと手を出したくなりやすいBtoBマーケティングにおいて、「やらないことを正しく決められるようになる」ために

  • 「ABM」「THE PODS」といったエンプラ向けマーケティング手法を理解した上で

  • 「Tier・ペルソナ・バイヤージャーニー」で最重要な「Who(ターゲティング)」を明確にして

  • 顧客の態度変容を促すための「What(コンテンツ)」として、潜在層向けの「コマーシャルインサイト」・顕在層向けの「USP」を決定すること

です。ターゲット顧客が多いケースで成果を出しやすい「THE MODEL」型のインバウンドマーケティングとは違い、「ABM・THE PODS」型のマーケティングは、①ターゲティングと②顧客に個別最適化したコンテンツの準備が必須です。

本章では「エンプラ向けBtoB事業」を前提に、マーケティング戦略の4要素である「Who(ターゲティング)・What(コンテンツ)・Where(施策ポートフォリオ)・How(コピー)」の内、ターゲティング・コンテンツを見ていきます。ぜひ最後まで読み進めていただけたら嬉しいです。

マーケティングも最大の分岐は「エンプラ or SMB」

事業戦略で解説した通り、「マーケティング(営業やカスタマーサクセスも)」を考える上で、最大の分岐は「エンプラ・SMBどちらを狙うか」です。

エンプラ向けとSMB向けは「全く違う競技」のため、どちらを選ぶかによって事業の方向性が大きく決まり、それに合わせてマーケティング戦略も大枠が決まります。

このマニュアルは私の「エンプラ向けBtoB事業」責任者の経験に基づいて作成していますので、以降もエンプラ向けを前提にして記載していきます。

BtoBエンプラ事業責任者にとっての「マーケティング」

エンプラ向けBtoB事業責任者にとって「BtoBマーケティング」のナレッジを学ぶ意味は「やらないことを正しく決められるようになること」に尽きます。

The Modelが普及し、BtoB事業においてもマーケティング組織が置かれ、毎年ある程度のマーケティング予算をかけるのが「当たり前」になってきました。一方で、BtoB事業は受注までのリードタイムが長いため「施策毎の投資対効果」を精緻に分析するのが難しく、採算が合っていないまま続けている施策も多い印象です。

BtoB顧客は①顧客数が少なく、②検討期間が長く、③合理的な判断をするのが特徴です。そのため、一施策で大きな効果が出るホームラン施策(例: BtoCでの「TikTok売れ」)はなく、複数施策の組み合わせが必須です。また顧客の検討ファネルが長い & オン/オフラインでの接点が必要だからこそ、採りうるマーケティング施策の種類も豊富で、「あれこれと手を出したくなりやすい構造」になっています。

だからこそ、事業責任者としては「やらないことを決める」を重視した"引き算"のマーケティング戦略を考えていく必要があるのです。

https://www.handk-inc.co.jp/blog/btob-marketing

BtoBマーケティング専門のコンサルティング会社であるSAIRUの栗原さんも、プレックスでマーケティングをやられている實川さんも、「やらないこと」「引き算」の重要性を語られています。

マーケティング戦略の全体像

ではここから具体的にマーケティング戦略を組み立てていきましょう。エンプラ向けBtoB事業責任者が理解していくべきは以下の11項目です。

■前提
 ①ABM
 ②THE PODS
■Who(ターゲティング)
 ③Tier
 ④ペルソナ
 ⑤バイヤージャーニー
■What(コンテンツ)
 ⑥コマーシャルインサイト
 ⑦USP(Unique Selling Proposition)
■Where(施策ポートフォリオ)
 ⑧既存深耕: 9マトリクス
 ⑨新規獲得: カバレッジ
 ⑩事例獲得戦略
■How(コピー)
 ⑪セールスコピー

① スタートアップにおける「ABM戦略」とは?

BtoB、特にエンプラ向け事業に関わっている方であれば「ABM」という言葉は、聞いたことがある方も多いと思います。日本でのABMの第一人者であるシンフォニーマーケティングの庭山さんは、著書『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』でABM戦略を以下と定義しています。

💡 ABMとは、顧客・見込み客データを統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す戦略的マーケティングのこと。

ABM戦略は、エンプラ向け事業にとって有効なマーケティング手法であり、外資系SaaSだけでなく、足元では国内スタートアップでもABM戦略を取り入れるケースは増えています。

一方で注意すべきは『エンプラ向けABM』と一言で言っても、各社で①エンタープライズの定義も②採るべきマーケティング手法も意外と異なることです。商材によって獲得できるARR(Annual Recurring Revenue(年間収益))は異なり、1社あたりに掛けられるコスト・工数・採るべきマーケ手法も変わってきます。

そのため、他社の成功事例を鵜呑みにせず、自社に最適なABM戦略を取り入れることがとても大切です。意外と範囲が広いABM戦略ですが、ある程度カテゴリ分けは可能です。個人的に1番しっくり来ているのが、プレックス實川さんのこの3区分です。

noteのなかでわかりやすく例えてくださっていますが、❶ガチエンタープライズのアウトバウンドは素潜りのヤリ漁、❷ターゲットアカウントを意識したミドルABMのインバウンドマーケティングは魚群探知機を使った一本釣り漁船、❸The Model型の広範囲のマーケティングは巻き網漁とイメージすると理解しやすいと思います。

https://note.com/motoho299/n/n31aca8621932

私自身は❶100社以下のターゲットからARR1.0億円以上を狙う事業と、❷500社前後のターゲットからARR2,000-3,000万円を狙う事業の2つの事業責任者をやっていましたので、本マニュアルでもこの2つ(ヤリ漁と一本釣り漁船)をイメージして解説していきます。

今注目される「THE PODS」とは?

B2Bマーケティングに携わる方々であれば「THE MODEL」という言葉は聞いたことがあると思います。THE MODELとは「マーケティング・インサイドセールス・外勤営業・カスタマーサクセスの各部門の情報を可視化・数値化し、それぞれの部門の専門性を最大化して成果を高める」営業プロセスの分業モデルです。

https://www.salesforce.com/jp/resources/articles/sales/the-model/

THE MODELは非常に有効なモデルでしたが、分業制は対象顧客数が少ないと機能しづらいこともあり、ターゲット顧客数の少ないB2Bマーケティング、特にエンプラ向けマーケティングでは、思ったように機能しないケースも多いです。

そんな中でエンプラ向けBtoBマーケティングでいま注目されているのが「THE PODS」という戦略です。THE PODSとは「マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスまで、すべての役割をひとつのチームとして組成する」営業プロセスモデルです。

THE PODSは❶ターゲット顧客数が少なくなる一方で、その狭い領域での認知を高めたい、❷ターゲット顧客数が限られるからこそ、対象業界に深く刺さる専門的な知見をベースにしたアプローチをしたい場合に有効なモデルです。「セグメント毎に特化した分業型の組織を作る」ことで、経験・ナレッジをスピーディに蓄積し、顧客解像度を高めていくことができます。

また「経験・ナレッジの揃った人材が、役割を超えて協力する体制」が作れるため、スピードや生産性も大きく改善できる可能性が高いです。

Micoworksの大里さんの記事のように、実際に成果と生産性を高めている先進企業の事例も出てきています。

https://insidesalesplus.com/blog/nsrtkhw-3687

BtoBマーケティングで最重要な「Who(ターゲティング)」

ABM・THE PODSというエンプラ向けBtoB事業でのマーケティング手法について理解した上で、具体的なマーケティング要素を検討していきましょう。1つ目は「Who(ターゲティング)」です。

「ターゲティング」はBtoBマーケティングにおいてもっとも重要な要素です。なぜならBtoBの顧客はターゲットが少なく、合理的な購買行動をするためです。そのため、少ないターゲット顧客を明確に「ターゲティング」して、ピンポイントで「買うべき理由」を届けることが、BtoBマーケティング成功の鍵になってきます。

【事業戦略】の章のバリュープロポジションの整理で、「誰に」「どんな価値を提供するか」は明確になっているはずです。そのため、ターゲティングでは「誰に」の部分を具体的な企業名と紐づけてリストアップし、その企業群へ届けるべきマーケティングメッセージを言語化していきます。

③ 知っておくべき「Tier」という考え方

ターゲットリストを作る際に「Tier」を整理しておくと、組織としてマーケティングの精度が高められます。

Tier毎に企業リストの抽出条件を決め、Tier間の優先順位を決めておくことで、組織全体でターゲット企業のイメージをブラさず、同じ目標に向かって施策を進めていけるようになるのです。

https://note.com/jmagicpie/n/ne1faa7bd870d

Tierを設定する上で大切なのは、以下の4つのポイントです。

  1.  課題やニーズでの「セグメンテーション」
    業種業態・売上高・従業員数などの属性情報でセグメント分けず、顧客の課題・ニーズで区分します。 ターゲティングでは、「自社の価値が、どの顧客の課題・ニーズにマッチしているか?」という観点で優先順位づけをしていくため、セグメンテーションの段階から課題・ニーズで区分しておく必要があります。

  2. セグメンテーションに使う条件を「外部から判断できるもの」に変換 課題やニーズでセグメンテーションするには、課題やニーズの有無を「外部から判断できる条件」に変換する必要があります。ここが事業責任者としての頭の使い所で、条件設定がうまくいくと、ターゲティングの精度が上がる and/or ターゲット数が拡がることで、マーケティングの効果は劇的に良くなります。 ちなみに、この絞り込み条件と企業リストアップを助けてくれるのが企業データベースサービスで、私も「FORCAS」を利用していました。

  3. 受注・商談化データを活用する Tierを決めるときは、必ず過去(特に直近)の受注・商談化データを活用します。実際に受注・商談化している企業をバイネームで見ながら、自社の商材が「顧客のどんな課題・ニーズに刺さっているのか」を確認していきます。 当たり前に思えますが、意外とデータに基づいて決められていないケースは多いので要注意です。

  4. Tierは「セールス」とすり合わせる セグメンテーションと各Tierの抽出条件の設定が終わったら、該当する企業をバイネームでリストアップする前に、必ず「セールスとのすり合わせ」を挟みましょう。下表でTierの定義を言語化し、ドンピシャで当てはまるスター企業をバイネームで入れた上で、セールスと理解に齟齬がないかを確認していきます。

Tierを決める段階で「この条件の企業とアポが取れたら、全力で営業してもらえるか?」を明確にしておけば、後からセールスがリードをフォローしてくれないといったトラブルを未然に防ぐことができます。

④ BtoBも購買者は「個人」→「ペルソナ」は必須

ここまで来ると、早速Tier毎にターゲットリストを作って施策を進めたくなりますが、その前に必ずやっておくべきなのが「ターゲット顧客の詳細な言語化=ペルソナ設定」です。

「ペルソナって本当に必要なの?」と思っている方も多いと思いますが、以下の理由から、個人的には「成果を出したかったら必須」だと考えています。

  1. BtoBでも購買者は「個人」であり、その顧客像の理解は施策精度に大きく影響すること

  2. 成果を出すにはマーケ部署だけでなく、セールス・カスタマーサクセスの巻き込みも必要なこと

  3. 施策の実行時には、自社だけでなく外部のパートナー企業に外注するケースも多いこと

ペルソナを設定することで、マーケティング部署として顧客理解を深められるだけでなく、施策に関わる人との認識を揃えられるため、各施策の精度を高められるとともに、一貫性のあるマーケティングを実現できます。

但し、ペルソナを作るのは解像度を上げる & 認識を揃えることが目的のため、精緻さにこだわりすぎない・最初から詳細に作り込みすぎないのがポイントです。SAIRUさんのペルソナの粒度が、色々な商材でとても使いやすいと思っています。

https://sairu.co.jp/method/15684/

具体的にペルソナを設定するには①セールス部門へのヒアリング、既存顧客へのインタビューを行います。 ※後述するバイヤージャーニーに関するヒアリングも併せて実施しましょう

❶セールス部門へのヒアリング
受注時の担当セールスや、カスタマーサクセスへのヒアリングを行います。顧客がどんな課題・ニーズを持っていて、なぜ自社商材に興味を持ってくれたのか、比較された他社商材は何か、なにが決め手で受注できたのか、なぜ自社商材を活用してくれているのかといった背景を深掘りしてください。

❷既存顧客へのインタビュー
営業部門などから得た情報をもとに仮説のペルソナをいくつかたてて、近しい顧客へのインタビュー、ユーザーテスト(観察)などを実施します。ユーザーインタビューは、対象顧客の主観的な意見にはなるものの、感情の動きや言動の背景をつかみやすいという長所もあります。

言葉の裏に隠れている課題感や実現したいことなどを探り、ペルソナの人物像をよりリアルなものにしましょう。

⑤ 検討プロセスの長いBtoBでは「バイヤージャーニー」は重要

BtoB商材は高額かつ組織的な意思決定が必要なため、検討プロセスが長くなりがちです。

そのため、ペルソナを設定して「スナップショットの顧客像」を掴むだけでは検討プロセスの一部しかカバーできず、マーケティング施策を設計するのには不足があります。SAIRU栗原さんの解説にありますが、BtoBマーケティングの施策設計の鍵は「階段設計」であり、この階段設計を行うためには、顧客の検討プロセスを把握する「バイヤージャーニー」が必須になります。

https://sairu.co.jp/method/5586/

最近「カスタマージャーニーはもう古い」という意見もたまに見かけますが、個人的にはそんなことはないと思っています。

確かにスマホやSNSの影響で、顧客の検討プロセスは多様化し、一直線に進むのではなく、行き来するものになってきてますが、だからバイヤージャーニーが古くなった・使えなくなったというわけではないと考えています。むしろ検討プロセスが複雑化したからこそ、顧客の行動や感情の変化を可視化し、最適なタイミングで必要なコミュニケーションができるよう、バイヤージャーニーを設計する重要性は増しているはずです。

https://sairu.co.jp/method/18950/

具体的にバイヤージャーニーの作成プロセスは以下です。

❶バイヤージャーニーマップの項目を決める
横軸は、顧客が商品やサービスを認知してから購入、申し込むまでの購買プロセスを時系列で記載しましょう。縦軸は、BtoBでは態度変容の流れや顧客との接点を整理できるような項目がおすすめです。

❷顧客の行動を書き込む
バイヤージャーニーは、企業の目的に沿って顧客を行動させるためのものではないため、顧客視点がブレないよう、顧客の行動から書き込んでいきます。見込み顧客が漠然とした大きな課題感を抱き、サービスを知って利用するまでの流れをイメージして書いていきましょう。

❸企業の目的を書き込む
顧客の行動を書き込んだら、その下に企業の目的=各フェーズの顧客に対して目指すべき自社のゴールを書き込んでいきましょう。実行する施策を通じて、顧客にどのような行動や思考の変化を起こしてもらいたいかを考えて記載していきます。

❹タッチポイント・コンテンツ例・CTAを書き込む
最後に具体的な施策を書き込んでいきます。各フェーズごとに「タッチポイント・コンテンツ例・CTA」を分けて書き込んでいきましょう。現場の担当者をペルソナとしたバイヤージャーニーマップであっても、その上長や関連部署とのタッチポイントも設けておくことを忘れないことが大切です。

バイヤージャーニーのポイントは、ペルソナと同様に「セールス部門・既存顧客へのヒアリング」をしながら作ることです。マーケティング部署だけで作ると、どうしても偏った情報に基づいて作ることになるため、必ずヒアリングを挟むようにしましょう。

ここまでセールス・既存顧客へのヒアリングまで終えたら、バイヤージャーニーマップは完成です。

但し、ここでも「完璧さ」を求めすぎるのは厳禁です。施策のPDCAを回す中でジャーニーマップについても適宜見直し、少しずつ精度を上げていく前提で作成していきましょう。

「What(コンテンツ)」が成果の出るマーケティングのカギ

次にマーケティング戦略の2つ目の要素である、「What(コンテンツ)」について見ていきましょう。

BtoBマーケティングにおいて「コンテンツは王様(Contents is King)」と言われるように、ターゲット顧客に「コンテンツを通して何を訴求するか」は成果に直結する、超重要なファクターです。そして、コンテンツを整理する上で大切なのが「いかに顧客の態度変容を起こすか」という考え方です。

バイヤージャーニーでも整理した通り、BtoB商材は高額・組織的な意思決定プロセスが必要なため、検討期間が長くなります。そして衝撃的なのは、この購買プロセスのうち、自社(セールス)が関与できるのは57%以降のみという事実です。セールスが関与できない段階では、顧客は自ら情報収集し、それぞれの判断軸でソリューションを選定していきます。

しかも、サービス提供者にとってさらに大きな問題は、①購買プロセスに関わる関係者数は年々増えており(平均で5.4人!)、②この5.4人の意思決定がもっとも行き詰まるのが、セールスの関与できない購買プロセスの37%時点という事実です。

この「セールスが関与できない段階」から顧客にアプローチし、「意思決定の行き詰まり」を外部から打破するにはマーケティングによってコンテンツを届ける以外に方法はありません。だからこそ、BtoBマーケティングにおいて「コンテンツは王様」であり、その「コンテンツで何を訴求するか」がマーケティングの成果を左右するのです。

※ちなみにエンプラセールスの章でも書きますが、だからこそ「早い段階でゆるーく相談されるエンプラ営業」の価値はものすごく高いのです…!

上記の顧客検討行動を踏まえて、事業責任者が考えるべきなのは大きく2つの「What(コンテンツ)」です。

  1. 潜在層を動かす「コマーシャルインサイト」

  2. 顕在層を動かす「(USP)Unique Selling Point」

⑥「コマーシャルインサイト」が潜在層と接点をつくるカギ

必ず用意すべき「What(コンテンツ)」の1つ目が、潜在層の真の課題を掘り出し、自社の強みに合うように整理するコンテンツである「コマーシャルインサイト」です。

顧客の購買プロセスのなかで最も検討が行き詰まる「37%時点」に入り込み、「平均5.4人」の関係者に「自社の強みと繋がるように、顧客に課題を気づかせるコンテンツ」がコマーシャルインサイトになります。

通常のコンテンツではなく、コマーシャルインサイトが持つ要素は以下の3つです。

  1. なんと!今までの自分の考えは間違っていたのか」という顧客のハッとした気づきがある

  2. 顧客自身も気づかなかった問題を指摘できている

  3. 熟知しているはずの顧客に、思いもしなかった観点や知見を教える

似たような商材があふれる現代では、商品・サービスのちょっとの差別化を謳ったところで、強い態度変容は起こせません。そんなときに、自ら信じて疑わなかったことが「実は間違っていた」となれば、いてもたってもいられなくなり、態度変容を強く促せます。これがコマーシャルインサイトの価値です。

「コマーシャルインサイト」を見つけるのは簡単ではないですが、その分、これを見い出せればマーケティングの成果は劇的に変えられます。コマーシャルインサイトの作り方については、『隠れたキーマンを探せ』に実例とともに詳細に解説されていますので、ここではポイントを説明していきます。

💡コマーシャルインサイトの見つけ方
問い①我々は何が得意か?

商材の特徴やベネフィットだけではなく、それを取り囲む幅広い能力・アセットを含めて検討する
問い②我々だけが得意なのは何か?
①を競合と比較して、自社独自の強みを導き出す ※最も難しいプロセス
問い③我々独自の強みのうち、持続可能なものはどれか?
「独自の強み」は簡単に真似できないものであるべき。真の差別化要因は「ユニーク」「有益」「防御可能」「持続可能」といった特性を持っている
問い④独自の強みの中で、顧客によく認識されていないものはどれか
注目すべきなのは「よく認識されていない」意外性のある強みを見出すこと
問い⑤顧客が自身のビジネスについて十分理解していない点(そのせいで我々独自の持続可能な強みに気づいていない点)は何か?
ソリューション提供者ではなく、顧客自身のビジネスについて考える。顧客が「何を見逃しているか」という視点で考え抜くのが重要
問い⑥顧客のビジネスについて何を教えてあげれば、彼らの現在の認識を変えられるか?
下記のような問いへの答えを検討していく
・我々の言い分に確実に納得させるには、どんな証拠データが必要か?
・我々の「立証責任」はどの程度あるか?
・その証拠のうち、どれくらいが手元にあるか?
・手元にない証拠をどこで、どのように手に入れればよいか?

6つの問いに答えていくことで、強い「コマーシャルインサイト」を見つけ、それをコンテンツに落とし込んでいきましょう。

コマーシャルインサイトを組み込んだコンテンツが、具体的なマーケティング施策によって顧客に届けられることで、BtoBマーケティングは成果につながっていきます。

⑦「UPS」は”なぜ自社を選ぶべきか?”への回答

必ず考えるべき「What(コンテンツ)」の2つ目が、顕在層に自社を選んでもらう=顧客に自社へアプローチしてもらう(問い合わせや資料ダウンロードなど)ための「USP」です。USPはUnique Selling Pointの略で「顧客から見た、自社の商材が持つ独自の強み」のことを指します。要するに「なぜ顧客は自社を選ぶべきか(Why 自社?)」を言語化したものです。

USPは顕在層向けマーケティング施策の「軸」になるもので、広告やLP、営業資料などでの商材訴求の土台になるため非常に重要です。絶対に手を抜かず、ここで考え抜きましょう。

商品戦略の「バリュープロポジション」を整理する中で、競合にはない差別化要素をある程度整理していると思いますので、ここではそれを「いかに顧客に刺さる形で訴求するか」に焦点を当てて解説していきます。

ポイントは、❶「ベネフィット」を訴求する、❷顧客を「絞り込む」、❸「優先順位」を守るの3点です。

❶メリット < ベネフィット

USPを考える上でよくある失敗が、商材の「メリット」を押し出してしまうことです。

「メリット」とは、その商材のウリや特徴のことです。一見、メリットを伝えるだけで十分のように見えますが、それは商材の特徴をただ伝えただけにすぎません。顧客からしてみれば「で、それが私の何に役に立つの?」がわからないため、態度変容を促しきれないケースが多いです。

そのため、商材のメリットではなく、顧客の「ベネフィット」を訴求することが非常に重要になります。

「ベネフィット」とは、メリットによりもたらされる恩恵のことで、もう少し分かりやすく言うと「商材を買ったら起きる顧客の良い変化」です。ベネフィットを訴求することで「自分にとってこんな良いことがあるのか!」と納得してもらいやすくなり、態度変容を起こしやすくなります。

ベネフィットで気をつけるべきなのは、顧客が抱えている課題によって、ベネフィットは違ってくる場合があることです。ベネフィットを考えるときは、必ずペルソナとその課題に立ち返って、「どんな課題を解決できる商材なのか、それによってどのような良いことが起こるのか」を考えるようにしましょう。

❷顧客の絞り込み

「刺さるUSP」を作りたいのであれば、すべての顧客に喜んでもらおうとしないことが大切です。ターゲットの絞り込みが甘いと、平凡で尖りのない訴求になってしまいます。

ターゲティングで既に顧客は絞り込まれていると思いますが、改めて「自社にとって狙うべき顧客のペルソナ・抱えている課題」を強く意識して、USPを磨き込んでいくことが重要です。

❸USPの優先順位

北の達人コーポレーション木下さんがまとめてくださっているように、USPには4つの分類があります。

特にLPや広告などの訴求で、実績・権威性やお得感を訴求することも多いと思いますが、それよりも優先すべきは「他社商材にはない or 他社商材より高い便益」の訴求です。この優先順位を理解しておけると、マーケティング施策での訴求を考えるときに非常に役に立つので、必ずここで暗記してしまいましょう。

前編のまとめ

エンプラ向けBtoBマーケティングの戦略を考えるとは

  • あれこれと手を出したくなりやすいBtoBマーケティングにおいて、「やらないことを正しく決められるようになる」ために

  • 「ABM」「THE PODS」といったエンプラ向けマーケティング手法を理解した上で

  • 「Tier・ペルソナ・バイヤージャーニー」で最重要な「Who(ターゲティング)」を明確にして

  • 顧客の態度変容を促すための「What(コンテンツ)」として、潜在層向けの「コマーシャルインサイト」・顕在層向けの「USP」を決定すること

です。ターゲット顧客が多いケースで成果を出しやすい「THE MODEL」型のインバウンドマーケティングとは違い、「ABM・THE PODS」型のマーケティングは、①ターゲティングと②顧客に個別最適化したコンテンツの準備が必須です。

ここまでで前編は終わりです。
後編では、マーケティング戦略の4要素である「Who(ターゲティング)・What(コンテンツ)・Where(施策ポートフォリオ)・How(コピー)」の内、施策ポートフォリオ・コピーを見ていきます。

ぜひ後編も見ていただけたら嬉しいです。


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