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a man with NO mission(掌編集)

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冷笑と不適合、妄執と未遂の小さな物語集。一話完結、木曜更新。不条理/皮肉/諧謔/奇想/黒い笑い/SF(少し不思議)など。イラストはすてられちゃったいぬさん。
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記事一覧

88 ヘドロ釣り

 男が初めての釣りで釣り上げたのは、ヘドロのかたまりのような、不気味にうごめき悪臭を放つ…

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87 行列

男は街中で行列に出くわした。先頭も最後尾も見えない長い列だった。何の列か気になって、先頭…

5

86 泣いている

 ある朝の通勤途中、男はうずくまって泣いている女を見かけた。駅近くの交差点の角のところだ…

7

84 スパイダー

 ある深夜、男は尿意に目が覚めた。よたよたした足取りでトイレを済ませると、水を一口飲もう…

5

83 土中記

 男が公園のベンチで一人お昼を食べていると、突如背後の地面がぼこぼこと盛り上がり、地中か…

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82 遅延

 男は職場へ向かう電車に乗っていた。乗り換え駅で急行を待っていると、事故のため電車が遅れ…

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81 二番煎じ

 とある怖いことがあった次の日、男は件の駅に降り立った。  怖いことの真似をしようと思ったわけではなかったが、どういう巡り合わせか、その出来事に使われたのと同じ物を鞄の中に持っていた。刃渡り17センチのサバイバルナイフが二本。  同じことをやるよう期待されているのだと思った。辺りを見回すと、人々は一様に怖いことをされたがっているようだった。唐突に、誰もが一度くらいは心底からの恐怖を体験したがっているのだとひらめいた。男は鞄から刃物を取り出すと、ニュースで何度も見て覚えた恐ろし

80 読書感想

男は読んだ本の感想を求められ、特に何も思わなかったと感じたままを答えた。相手は、感想は長…

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79 先手

屋上に出てみると先客がいた。どうやらためらっているようだった。男は今のうちにとフェンスま…

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78 ランチタイム

 職場で注文した弁当が男の分だけ足りなかった。同僚たちは皆もう食べはじめていた。弁当屋に…

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何色

*この掌編はブンゲイファイトクラブのオープンマイクに投稿したものです。拙作は184番。リン…

4

77 プリテンダー

男はこれまでずっと妻だと思っていた相手が、ただ妻のふりをしているだけの見ず知らずの女だと…

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シェイプ・オブ・マイ・ワイフ

*BFC2幻の第二回戦に応募しています。  男はよその部署から回ってくる書類に一枚一枚判を押…

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76 体幹

ブンゲイファイトクラブのオープンマイクに出そうと思ったんですが、文字数オーバーしてしまったのでいつものシリーズに取り込みました。オープンマイクはこちら。  最近、体幹という言葉をよく耳にするなと男は思った。初デートで美術館に来たはいいが相手と何を話したらいいか分からず、考えは宙をさ迷っていた。  ――体幹って何だ。体の中心のことか。それとも具体的な場所? バランス力みたいな?  ぼんやり絵を見ながら歩いていた男は、うっかり前の人にぶつかってしまいよろけた。あわてて体勢を立て