大原ケイさんの記事「歴史を扱う本にウソが見つかった時、アメリカの出版社ではどう対処しているのか?」を読んだ感想。

 大原ケイさんの記事「歴史を扱う本にウソが見つかった時、アメリカの出版社ではどう対処しているのか?」を読んだ感想です。記事へのリンクは以下。
https://hon.jp/news/1.0/0/24942


 日本でも海外でも同じだと思うが、校正校閲については、しっかりやっている社もあればそうでもない社もある。米国では規模が大きいところは訴訟などのリスクを考え真剣に取り組む傾向が強いのだろう。小さいところはどうだろうか。

 書籍や雑誌の出版とは重なる部分も重ならない部分もあるとは思うが、いわゆる「ハゲタカジャーナル」などは中身を問うているわけではない。査読されないということはいい加減なものも少なくないということだ。以下は、predatory publishers = ハゲタカ出版社(査読しない論文を高額な掲載料で掲出する出版社)のリスト。
https://predatoryjournals.com/journals/

 カルト宗教による出版活動についても、一般的にはフェイクと理解される内容であっても、宗教的な啓示や教義を物語として表現しているのだと言われたら、それまでの話だ。サイエントロジーの創始者ロン・ハバードは日本では長くSF作家として紹介されていた。米国の場合は疑似科学についてもID(インテリジェント・デザイン)理論など宗教を背景につづられてきた歴史もある。サイエントロジーも当初は「科学」だった。

 さらに、KDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)を始めとする「ダイレクト出版(自費出版)」では、現実的には内容は野放しだ。この件については以下のニュースも参照してほしい。
「Amazonが「自閉症は漂白剤を飲むことで治療可能」とする本をサイトから削除」
https://gigazine.net/news/20190529-amazon-removes-books-bleach-autism/

 なので、自分はこの記事を「米国にはフェイクを出版するような出版社はない」とか「米国では憎悪や偏見を煽り立てるようなフェイク本は出版されていない」という意味合いではなく、「マスをマーケットとする大出版社は訴訟のリスクを避けるために事実関係の精査に厳しい(が、それでも信用度の確保は難しい)」という事実の記録として読んだ。

 実際、記事の最後は「出版物の信用度を確保することはノンフィクション出版社の大きな課題です」と締められている。この記事ではそのための校正校閲(ファクトチェック)の実際が描かれているが、「米国にはフェイクを出版するような出版社はない」ということは書かれていない。

 だからといって記事に価値がないということではなく、訴訟リスクを抱えた米国の出版社ですらファクトチェックにこれだけ苦労しているという事実は、規模を問わず日本の出版社には耳が痛い話であり、自分たちの日々の仕事を見直すきっかけになるのではないだろうか。また、読者にとっても、出版物の信用度について、改めて考えてみる機会になるはずだ。

 と、いうことをこの記事を読んで考えました。大原さん、いつも内容の濃い記事、ありがとうございます。

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