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【英国法】株式会社の組織・運営に関する日英比較#3 ー取締役・取締役会ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、株式会社の組織・運営に関する日英比較の第3回です。今回は、取締役と取締役会について、比較していきたいと思います。

いきなりこの記事にたどり着いてしまった方は、第1回の記事から読んで頂けると分かりやすいかも知れません。

今回のトピックのバックグラウンド等は第1回に譲り、早速中身に入っていきたいと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


取締役

員数

日本では、非公開株式会社は、最低1人の取締役を置かなければなりません。なお、取締役会設置会社の場合は、最低3名必要です(*1)。

イギリスでも、非公開会社については、最低1人の取締役が必要です(*2)。モデル定款は、取締役会に関する規定を置いており、モデル定款を採用する非公開会社は、日本風に言えば取締役会設置会社であるものの、取締役が1人でも問題ありません。

なお、日本もイギリスでも、取締役の人数に上限は定められていません。理論上は、50人でも100人でも設置可能です。

資格

日本では、株式会社の取締役となる資格を欠く者として、次の者が挙げられています(*3)。

日本の会社法の下で取締役となれない者:
① 法人
② 金商法、破産法等が定める所定の罪を犯したとして有罪判決を受けてから2年を経過しない者
③ 禁固刑以上の刑に処せられて、その執行を終えていない者

他方で、イギリスでは、次のように定められています。

英国のCA 2006の下で取締役となれない者
① 16歳未満の者(*4)
② Company Direcors Disqualification Act 1986に基づく不適格命令を受けている者(*5)

②については、細かい要件はあるのですが、日本の②③要件にイメージとしては近いです。

イギリスでは、法人が非公開会社の取締役となることを禁止していません。もっとも、取締役のうち一人は自然人である必要があります(*6)。

イギリスが16歳未満の取締役を原則として禁止しているのに対して、日本では、取締役の年齢制限はありません。ただし、役員を登記する際にその者の印鑑登録証明書の添付が必要となることがあり(非取締役会設置会社など)、印鑑登録が行えるのが15歳からであるため、場合によっては、15歳未満の者が取締役になれないこともあります。

選任

日本では、取締役の選任は、総会普通決議事項です(*7)。

他方で、イギリスでは、取締役の選任に係る決議方法は、CA 2006で法定されていません。モデル定款では、総会普通決議、又は、取締役会の過半数の決議若しくは取締役全員の同意により、選任できるものとされています(*8)。より緩やか定めを置いた定款の例として、支配的株主の通知により選任を可能とするものも見たことがあります。

解任

解任についても、日本では総会普通決議事項です(*9)。

イギリスは、解任については、選任の場合とは異なり、総会普通決議が要求されます(*10)。なお、書面決議による解任は基本的に認められません。

また、解任を決議する株主総会の開催に際して、特別通知の手続が必要です(*11)。これは、総会日の28日前までに、解任決議を行う旨を会社に通知しなければならないもので、会社は、原則として決議案を総会通知と同じ方法で株主に解任決議案を通知しなければなりません(*12)。

ただし、この特別通知の縛りは、定款で排除が可能と解されています。もっとも、モデル定款では、特別通知を排除していません。

任期

日本の会社法は、非公開株式会社について、取締役の任期を10年までとしています(*13)。定款記載例では5年とされています(*14)。

他方で、イギリスでは、CA 2006にも、モデル定款にも任期は定められておらず、もっぱら、会社と取締役との契約に従うことになります。前回の株主総会のところで述べたとおり、イギリスの非公開会社は、定時株主総会の開催が不要であるため、年度ごとに取締役の再任を承認するタイミングも発生しません。そのため、会社側が意識して区切りを設けなければ、取締役はずっとその地位に止まることになります。

代表取締役

日本では、各取締役が会社を代表するという原則を置きつつ、取締役会設置会社については、代表取締役を選定することが要求されています(*15)。また、取締役会設置会社でなくとも、取締役が複数いる会社では、代表取締役を定めることが多いという理解です。

イギリスでは、CA 2006でもモデル定款でも代表取締役に相当する地位は法的には用意されていません。名称として、CEOやCheif Executiveの肩書が付されることは多いですが、その権限は、各会社の定款なり内部規則次第という理解です。

取締役会

日本の非公開株式会社の中には、取締役会を設置している会社とそうでない会社があり得るところですが、会社の重要な機関ですので、このエントリーでも取り上げることにします。

なお、これまでの比較では、日本公証人連合会の定款記載例のうち「2 中小規模の会社」をベースにしていましが、この例は非取締役会設置会社であることから、この項では、取締役会設置会社の定款記載例である「3 中規模な会社」を参考にしたいと思います。

取締役への権限の委任

日本では、会社の業務運営に関して、取締役会が取締役に委任できない事項があります(*16)。重要な財産の処分や多額の借財などが代表的なものです。

他方で、イギリスでは、CA 2006に同様の規定は無いと理解しており、モデル定款でも、権限の委任を制限するような規定は見当たりません。もっとも、定款などで制限を別途設けることは差し支えないはずです。

招集手続

日本では、各取締役が取締役会の招集することができますが、定款記載例では、代表取締役が招集権者とされています(*17)。また、招集通知は、原則一週間に発しないといけないものの、短縮可能であり、定款記載例では5日以内とされています(*18)。

イギリスでは、取締役会の細かい手続について基本的に法定しておらず、モデル定款に多くの規定が置かれています。モデル定款では、各取締役に取締役会の招集権限が付与されていますが(*19)、招集通知の期限は定められていません。

定足数・決議要件

日本の会社法は、定足数は過半数(上回る割合を定款で定めることも可)で、決議は出席者の過半数(上回る割合を定款で定めること可)と定めています(*20)。定款記載例は、これを特に変更していません(*21)。

イギリスでは、モデル定款で定足数に関する規定が置かれており、「取締役らによる適宜の定めに従うが、2名未満であってはならず、別段の定めがない限り2名」とされています(*22)。決議要件は、出席者の過半数の賛成であり、同数の場合には、議長がキャスティングボードを原則として握ります(*23)。

議事録

日本でもイギリスでも、取締役会議事録の保管が求められます。奇しくも、どちらも10年間の保管が必要です。

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、日英の株式会社の組織・運営に関する比較のうち、取締役と取締役会に関して見てき、ました。

ここ最近、ずっと会社法のことを書いている気がして早く終わらせたいのですが、残りの細かい項目があるので、第4回に持ち越します。

さすがに次回が最終回になるはずです。
よろしくお願いします。

追記:こちらが次回(最終回)です!

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 会社法331条5項  *2 S. 154, CA 2006
*3 会社法331条1項  *4 S. 157, CA 2006
*5 S. 159A, ibid  *6 S. 155, ibid
*7 会社法329条1項  *8 Art 17(1), モデル定款
*9 会社法339条1項  *10 S. 168, CA 2006
*11 ibid  *12 S. 312, ibid
*13 会社法331条2項  *14 25条1項
*15 会社法362条3項  *16 同法362条4項
*17 27条1項  *18 28条1項
*19 Art 9(4), モデル定款  *20 会社法369条1項
*21 29条1項  *22 Art 11(2), モデル定款
*23 Art 13(1), ibid


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