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娯楽映画研究所ダイアリー 2022年7月4日(月)〜10日(日)

7月4日(月)『流れる』(1956年・東宝・成瀬巳喜男)・『ジュラシック・パークⅢ』(2001年・ユニバーサル・ジョー・ジョンストン)

7月4日(月)の娯楽映画研究所シアターは、映画時層探検の目線で成瀬巳喜男『流れる』(1956年11月20日・東宝)をDVDからスクリーン投影。

東京の花柳街。大川端にほど近い柳橋、芸者置屋「つたの家」を舞台に、芸は見事なのだがお人好しで商売はうまくいかない”つた奴”(山田五十鈴)、その娘で家業に否定的な勝代(高峰秀子)、そして”つた奴”の妹でシングルマザーの米子(中北千枝子)。ベテランだけどお茶を引いてばかりの芸妓・染香(杉村春子)、ドライな現代娘の芸妓・なゝ子(岡田茉莉子)たちの女所帯。

経済的には苦しくて、つた奴は、腹違いの姉・鬼子母神のおとよ(賀原夏子)から借金をして日々をしのいでいる。この映画は「金が仇」なのである。そこへ職安から、夫と子供を亡くしたばかりの梨花(田中絹代)が女中としてやってくる。呼びにくいから「お春でいいね」と、梨花はお春と呼ばれるようになる。

というわけで、山田五十鈴さん、高峰秀子さん、杉村春子さん、田中絹代さん、岡田茉莉子さんたちそれぞれの「やるせない」エピソードを描きながら、「つたの家」の人々は時代に、自分たちのこれまでに流されてゆく。それを大川の流れとダブらせているのである。

何度も観ているのだが、観るたびに、成瀬の演出、山田五十鈴さんたちの演技に舌を巻く。この映画に出てくる男たちも「ダメ男」ばかり。米子の元亭主・板前の高木(加東大介)の身勝手さ。出奔した芸妓・なみ江(泉千代)の伯父で千葉の鋸山から「つたの家」を強請りにきている下衆な鋸山(宮口精二)。加東大介さんはワンシーンだけど、見た目と裏腹の「ダメな色男」ぶりが見事。

宮口精二さんに至っては、この映画の登場人物たちの「暮らし」の根幹を揺るがすトラブルメーカーで、下衆っぷりが素晴らしい。『七人の侍』の頼もしき武士も成瀬の手にかかれば、とんだ男となる(笑)

トップシーンの柳橋、新大橋(昔の!)、清洲橋など「橋づくし」でもある。田中絹代さんが「つたの家」に初めてやってくるシーンは、総武線のガード。僕は今でも秋葉原から自宅に歩いて帰るときに、ここを通って、柳橋から、両国橋を抜けて錦糸町までブラブラする。

7月4日(月)の娯楽映画研究所シアター第二部は、連夜の恐竜体験、ジョー・ジョンストン監督『ジュラシック・パークⅢ』(2001年)をBlu-rayからスクリーン投影。

この映画の初日の午前中、僕は大阪で宮沢りえさんのインタビューをして、新幹線で文字起こし。東京に到着後、カミさんと待ち合わせをして、上野で満員の観客とともに楽しんだ。なんたってティラノサウルスをよりも強いスピノサウルスの登場。翼竜たちが飛び交うヴィジュアルが楽しかった。

サイトB(イスラ・ソルナ島)で行方不明になった少年・トレヴァー・モーガンを探すために、ウィリアム・H・メイシーとティア・レオーニの元夫婦が、金持ちと偽ってハモンド博士(アラン・グラント)を連れ出す。94分という短い尺のなかで、サイトBでの息子探し→脱出行が、危機また危機、恐竜たちの襲撃てんこ盛りで描かれる。なのでスッキリと面白い。

やっぱり観たそばから忘れているので、スクリーン投影して観ると本当に面白い。ラプトルの群れでの襲撃、プテラノドンの鳥籠での恐怖の体験など、これでもか、これでもかの連続。やっぱり恐竜映画はいいね!

7月5日(火)『リコリスピザ』(2022年・ポール・トーマス・アンダーソン)・『晩菊』(1954年6月15日・東宝・成瀬巳喜男)・『メカゴジラの逆襲』(1975年・東宝・本多猪四郎)

今日はこれから、待望久し!PTA監督『リコリスピザ』を日比谷シャンテで観る。楽しみで楽しみで!

ポール・トーマス・アンダーソン監督『リコリス・ピザ』が素晴らしすぎて、素晴らしすぎて、誰かと語り合いたい。10代の頃の自分の気持ちとリンクして、ホントに最高の映画!何もかも良かった。また、直ぐにでも観たい!

ヒロイン、アラナ・ハイム。いいねぇ、ほんとに良い。10代で、こんな歳上の女の子に出逢ったら最高だね。もどかしいまでのクーパー・ホフマン君との遠回りの恋。ショーン・ペンのウィリアム・ホールデン風のスターが最高!ブラッドリー・クーパーに笑った!サントラの選曲も完璧!

1973年、オイルショックの頃、ぼくは10歳だったけど、あの70年代の空気、フィルムの質感、若い子たちの感覚。家族との距離感。この映画のなにもかもが愛おしい。アラナ・ハイムの笑顔にやられた!

映画館で『007死ぬのは奴らだ』『メカニック』を上映している時代へ、バック・トゥ!

7月5日(火)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男特集として『晩菊』(1954年6月15日・東宝)をDVDからスクリーン投影。林芙美子の短編「晩菊」「水仙」「白鷺」をベースに、田中澄江と井手俊郎が脚色。

7月5日(火)の娯楽映画研究所シアター第二部は、中野昭慶監督追悼で、クライテリオン盤Blu-rayで『メカゴジラの逆襲』(1975年・東宝・本多猪四郎)。伊福部昭先生のタイトル音楽にのせて、タイトルバックで前作『ゴジラ対メカゴジラ』のバトルシーンが惜しげもなくリフレインされる。100インチスクリーンに展開される中野特撮は、同時期の深作欣二監督作品同様、有無をいわせぬ迫力と勢いがある。この突き抜け感、これでもか!のカタルシス。

チタノザウルスが大暴れする中盤の爆発的破壊力。ヒーローとしてのゴジラ出現。恐龍対怪獣王!『日本沈没』を経てのディザスター描写の容赦のなさ。飛行してくるメカゴジラⅡ!パノラミックな大怪獣バトルは、中野特撮の真骨頂!

本多猪四郎監督と中野昭慶特技監督が組んだ最初で最後のゴジラ映画! 斜陽の映画界で、不況の日本での鬱屈を、豪快な爆破で吹き飛ばす中野昭慶監督の特技! これも未来に伝えるべき映画遺産! 心よりご冥福をお祈りします。

7月6日(水)「ミズ・マーベル」第5話・『妻の心』(1956年・東宝・成瀬巳喜男)

ディズニー+「ミズ・マーベル」第5話。どんどん面白くなってきた。カラチを舞台にした前話のラスト、1947年のインド・パキスタン分離独立の日にタイムスリップしたカマラ。そして今回は、さらに1942年へと遡る。タイトルロゴは、英語、ウルドゥー語、ヒンディー語さまざまな言語で「ミズ・マーベル」と出てくる。

で、今回はカマラの曽祖母・アイシャと曽祖父・ハサンの出会い、祖母・サナが生まれる。ヒンドゥー教徒とムスリムの宗教的な対立、人々の分断が描かれ、ついに運命の1947年8月15日、インドとパキスタンの分離独立の日を迎える。

スーパーヒーローのドラマでありながら、歴史の局面で分断された民族の悲劇。それが現代につながっていく。やー、これはすごいよ。MCUなんて!という人にも是非観てほしい。色々書くとネタバレになるけど、とにかく観て!

7月6日(水)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男特集『妻の心』(1956年5月3日・東宝)をDVDからスクリーン投影。

原作はなく、井手俊郎のオリジナル・シナリオ。舞台は群馬県桐生市の老舗・薬舗。タイトルロールの妻は、高峰秀子さん。東宝オールスターが、地方都市の窮屈な人間関係を演じるので、もちろん標準語で話す。もしも群馬の方言だったら、これほどしっとりした味わいはなかっただろうな、と思いながら堪能した。

群馬県の小さな町で一番の旧家・富田屋栄竜堂薬舗は、時代に押されて経営不振。店を切り盛りしている次男・信二(小林桂樹)と妻・喜代子(高峰秀子)は、敷地内に小さな喫茶店を開いて、これからに備えようとしている。しかし、母・こう(三好栄子)は「次男の道楽」と渋い顔。

ちょっとした会話や態度で、これまでの「嫁姑の息苦しい関係」が匂わされる。なればこそ高峰秀子さんは、喫茶店への夢を抱いてイキイキしている。メニューの勉強に「キッチンはるな」夫婦(加東大介&沢村貞子!)に通うデコちゃん! 銀行からの融資は、同級生・竹村弓子(杉葉子)の兄の銀行員・健吉(三船敏郎)の尽力でなんとか可能に。

というわけで前半、喫茶店開業のために、イキイキと活動するデコちゃんがとてもいい。頼りないけど好人物の夫を小林桂樹さんが好演。しかし、順風満帆の日々は長く続かず、若い時に稼業を弟に押し付けて東京で就職、結婚した長男・善一(千秋実)一家が帰ってくる。会社が潰れて、ぶらぶらしていた千秋実さんが、母親経由で次男・小林桂樹さんに、商売をしたいから30万円貸してくれと頼んできて・・・

「金が仇」「ダメ男」の成瀬映画の真骨頂というか、いやーな展開になってくる。「妻の心」はいかばかりか。デコちゃんはその不満、ストレスをなんとなく、三船敏郎さんに向けて、独身の三船さんも心が揺れ動く。不倫ということではないけど、夫や家庭から気持ちが離れて・・・みたいな微妙な感じ。それがこの映画の最大の魅力でもある。

クサクサした小林桂樹さんも、子供のころからの友達・国夫(田中春男)と芸者二人を連れて温泉へ。ところが相方の芸者・福子(北川町子)が帰りに行方不明となり、自殺してしまう。

といった小事がやがて大事となり、色々な意味でクライシスに・・・とはいえ、元の鞘に収まっていくのが「夫婦」という、この時代の文芸映画の定石通り。あと口の良いラストが待っている。

ロケーションは、群馬県桐生市本町通り、宮本町三丁目の桐生が岡公園などで行われている。グーグルアースで探検すると、当時の雰囲気がまだ残っている。デコちゃんと三船さんがやらずの雨で休憩した茶店(店内はセット)も休憩所として現存。キッチン「はるな」に向かう途中、三船さんが歩くのは、桐生駅にほど近い「カニ川通り」。映画を観終わったあと、ついグーグルマップでロケ地巡りをしてしまった(笑)

7月7日(木)『めし』(1951年・東宝・成瀬巳喜男)

小林のり一さんの訃報。ぼくは二十年ほどのお付き合いでした。「エノケン生誕100年」でコントをお願いし、下北沢シネマにアートン「駅前シリーズ」トーク。東宝「社長シリーズ」解説映像などでお世話になりました。想い出は尽きません。ご冥福をお祈りします。

7月7日(木)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男特集で、戦後成瀬映画の色んな意味でのスタイルを作った『めし』(1951年11月23日・東宝)をDVDからスクリーン投影。

7月8日(金)『ソー:ラブ&サンダー』(2022年・マーベル・タイカ・ワイティティ)・『おかあさん』(1952年6月12日・新東宝)

1961年7月8日。加山雄三さんの『大学の若大将』(杉江敏男監督、笠原良三・田波靖男脚本)が封切られました。つまり、今日は「若大将」記念日でもあります。主題歌「夜の太陽」の作曲は中村八大さん、当時流行のドドンパ歌謡。ともあれここからわれらが若大将=田沼雄一の永遠の青春が始まったのです!

7月8日(金)公開、MCU 29作目となる『ソー:ラブ&サンダー』(2022年・マーベル・タイカ・ワイティティ)をTOHOシネマズ日比谷プレミアム・スクリーンで堪能。

クリス・ヘムズワースは、オーディンの息子・ソーを11年勤続。まだ38歳の若さとはいえ、ある意味すごいこと。今回は『アベンジャーズ:エンドゲーム』のラスト、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の面々と銀河の世直し旅に出たソーの「スタンダードの伝説」武勇伝から始まる。お馴染みの連中が派手派手なバトルを繰り広げるオープニングの楽しさ。

7月8日(金)、深夜の娯楽映画研究所シアターで成瀬巳喜男特集として『おかあさん』(1952年6月12日・新東宝)をDVDからスクリーン投影。

「全国児童綴方集」の子どもの作文を原作に、水木洋子さんが脚本を執筆。つまり、戦前の東宝映画、高峰秀子さん主演の『綴方教室』(1939年・山本嘉次郎)の戦後版ということで企画されたもの。

7月9日(土)『稲妻』(1952年10月9日・大映・成瀬巳喜男)・『ジュラシック・ワールド』(2015年・ユニバーサル・コリン・トレヴォロウ)

7月9日(土)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男監督特集として『稲妻』(1952年10月9日・大映)をDVDからスクリーン投影。

林芙美子原作『めし』(1951年・東宝)で大成功を収め、戦後の復調を果たした成瀬は、新東宝での『おかあさん』(1952年)に続いて、初めての大映東京撮影所で撮ったのが、やはり林芙美子原作の『稲妻』だった。

7月9日(土)の娯楽映画研究所シアターは、最新作の公開も待ち遠しい「ジュラシック・パーク」シリーズ第4作にして「ジュラシック・ワールド」三部作の第一作『ジュラシック・ワールド』(2015年・ユニバーサル・コリン・トレヴォロウ)をBlu-rayでスクリーン投影。

第四作にして第一作、というのは小林旭さんの「賭博シリーズ」が第6作にして『黒い賭博師』(1965年・日活・中平康)シリーズにリニューアルしたのと同じか(笑)

ともあれ初公開のとき初日に観て、Blu-rayを購入して一回観たっきりだったので「みたそばから忘れている」だけに、100インチスクリーンに投影したら、本当に面白かった。恐竜映画好きとしては、とにかく面白い。合成怪獣、いや遺伝子操作で作られた新恐竜「インドミナス・レックス」の最強ぶり! ティラノサウルスも、スピノサウルスも、ヴェロキラプトルも凌駕する凶暴で、悪知恵が働く。

というわけで、ジュラシック・ワールドの集客のために、とんでもない恐竜(怪獣)を作ってしまい、それが檻から逃走、二万人の観客は果たして? もうただそれだけの面白さ。

クリス・プラットは、MCU「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のスターロードとは真逆の真面目なタフガイでパークの恐竜監視員、元カノの高慢ちきなパークの責任者・ブライス・ダラス・ハワードと一緒に、行方不明の彼女の甥っ子を探して、決死の冒険をする。

というわけで「ジュラシック・パーク」から22年後、懲りずに恐竜を生み出して「ジュラシック・ワールド」を開業(よく営業許可が降りたもんだ・笑)。結局、これまで以上の惨劇となる。特にプテラノドンたちが檻から逃げ出し、パークの人々を襲撃するシーン。まさにスピルバーグ映画的な「これでもか!」の阿鼻叫喚!

そしてクリス・プラットの主人公・オーウェンは、四頭のラプトル「ブルー・デルタ・エコー・チャーリー」とのコミニュケーション技術を身につけて、ラプトルたちを操る。それも面白く、インドミナス・レックスVSラプトルのクライマックスは、なかなかの見もの。

7月10日(日)『妻』(1953年4月29日・東宝)

7月10日(日)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男特集で『妻』(1953年4月29日・東宝)をクライテリオンDVDからスクリーン投影。

林芙美子&成瀬巳喜男としては『めし』(1951年・東宝)、『稲妻』(1952年・大映)に続く第三作。今回もまた「やるせない」物語。高峰三枝子をヒロインに、上原謙と「結婚10年」、会話もない倦怠期の夫婦を、観ているこっちも「ため息」が出るほどギスギスと好演。この二人は、のちに「フルムーン」カップルとしてCM出演することになるが、それはずっと後の話。

何を言っても「暖簾に腕押し」の、およそ魅力のないしょぼくれサラリーマン課長・中川十一(上原謙)なのだが、会社でタイピストをしていた未亡人・相良房子(丹阿弥谷津子)に、なぜか好意を寄せられ、とうとう「本気」の「浮気」をしてしまう。

この映画、色んな意味で丹阿弥谷津子が美しく、素晴らしい。自立する女性で、不倫だとしても自分の選択と納得しているし、嫉妬でおかしくなった高峰三枝子が、訪ねてきた時にも「お会いしたくなかった」とハッキリと自分の気持ちを伝える。

もちろん高峰三枝子も美しく、大女優の風格がある。成瀬は『めし』の原節子同様、美しい高峰三枝子を「生活やつれの女房」として演出。食事をして、お箸で前歯をシガシガして、お茶でうがいをする。なんともはやの古女房だが、そんなお下品な仕草まで、高峰三枝子が演じると、風格すら感じさせる。

さて、中川は房子をお茶に誘い、意気投合する。このあたり、なかなかリアル。二人がお茶を飲むのが、銀座にあった「名曲喫茶 らんぶる」。ちょうどソニービルの裏手にあり、1980年代、東銀座の電通関連会社でアルバイトをしていた僕は「成瀬の『妻』に出てくる喫茶店だから」とよく、デートの待ち合わせに使っていた。

映画では、名手・中古智によるセット撮影だが、店内の構造はほぼ同じ。なので、改めて観ると懐かしい。決してコーヒーがうまいわけでもなく、廉価というわけでもないが、戦前からこの地で営業を続けている、ということが、当時の僕にとっては何よりの価値だった。

房子に誘われ、ある日曜日、上野の東京芸大での展覧会へランデブーする二人。鶯谷駅で待ち合わせをして、上野公園へ、国立博物館の前を歩き「美学校」(昭和23年までの呼称)へ向かう。その二人を目撃するのが、中川家の二階に下宿している芸大生・谷村忠(三國連太郎)。丹阿弥谷津子は、のちに「釣りバカ日誌」シリーズではスーさん(三國)の妻・久江を第6作まで演じるので、なんとも不思議な気分になる(笑)

やがて房子は、会社を辞め大阪に帰ることになる。「お手紙くださいね」「うん」。完全に不倫カップルである。しばらくして中川は、専務(清水将夫)と大阪へ出張。特急「つばめ」の人となる。二人が鼻の下を伸ばすのが、水商売風の美人(塩沢登代路→塩沢とき)。

大阪で房子とその息子とひととき楽しむ中川。中之島界隈でのロケもあり、結局、その夜、二人はデキてしまう。房子は「恋愛」、中川は「浮気」の心算だったが、真面目な中川は「本気」になってしまう。

ここから、妻・美穂子(高峰三枝子)が猛烈な嫉妬を覚えて「夫は絶対渡さない」と激しい気性を見せる。あくまでも無言の中川。なかなかスリリングな展開となる。

メインのストーリーと並行して、中川家の下宿人たちの物語も展開。復員して以来、全く働く気力を失ってしまった夫・松山浩久(伊豆肇)に愛想がつきて、銀座のキャバレーで稼いでいた妻・栄子(中北千枝子)は家を出てしまう。しょぼくれて、酒に酔うだけのダメ男を伊豆肇が見事に演じて、情けないけど「わかるわかる」である。

結局、故郷に帰った松山に変わって入ってきたのが、美穂子の親友・桜井節子(高杉早苗)の紹介の二号さんのホステス。そのパトロン鬼頭(谷晃)の妻(本間文子)がねじ込んでくる。あいにく二人は熱海に遠出していて、美穂子がそのグチを聞くのだが、町工場のオヤジがいい気になって女を囲っていると、鬼頭の悪口。これはそのまま『女が階段を上るとき』(1960年)の加東大介でリフレインされる。女房役も同じ本間文子だったし。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。