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娯楽映画研究所ダイアリー 2021 6月14日(月)〜6月20日(日)

6月14日(月)『100日間生きたワニ』・『アメリカン・ユートピア』・『静かなる男』(1952年・リパブリック)・『続 ますらを派出夫会 お供は辛いネの巻』(1956年・東京映画)

上田慎一郎・ふくだみゆき監督『100日間生きたワニ』試写。ああ、こういうアプローチなのかと。上田監督たちの普段の会話を聞いているような、ゆるゆるだけど、若い子たちのココロの繋がりとか、ああ、なるほどなぁの63分でした。

スパイク・リー監督、デイヴィッド・バーンの噂のブロードウェイショウ!『アメリカン・ユートピア』を漸く観る。いゃあ、眼福、耳福、心福! 毎日、ずっと観ていたい。デイヴィッド・バーンは、僕にとっては、あきれたぼういずの川田義雄であり、クレイジーキャッツの植木等でもある(笑) もうたまらんかった! 最後の自転車スーイ、スーイも良かった!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジョン・フォード監督10年越しの企画、ジョン・ウェインとモーリン・オハラ主演『静かなる男』(1952年・リパブリック)。故郷アイルランドに、ピッツバーグから久しぶりに帰ってきた「過去のある男」ジョン・ウェインが、勝気なモーリン・オハラにプロポーズする。出会って早々、嵐の夜のキスシーンは、この映画を観てなくとも、世界中の映画ファンなら観たことがある筈。スピルバーグの「ET」でエリオットがカエルの解剖中に好きな女の子とキスする瞬間、ETが TVで観ていたのがこのシーン。ETとエリオットがシンクロニシティする、あのシーン!

で、ウェインとオハラは、気のいいバリー・フィッツジェラルドの計らいで婚約!となれば良かったが、オハラの兄さん・ヴィクター・マクラグレンが猛反対。暗礁に乗り上げる。映画の語り部でもある、神父・ワード・ボンドたちが知恵を出し合って二人をバックアップして…

牧歌的なアイルランドの田舎を舞台に、フォード一家による、微笑ましくもダイナミックなヒューマン・コメディ。モーリン・オハラが実に魅力的で、ヴィクター・マクラグレンのわからんちんぶりも最高! 愚兄賢妹ということでは、初期の「男はつらいよ」にも通じる。ただし、ジョン・ウェインは博さんみたいじゃないけど。

また、ウェインの過去、ボクサーで試合中に過失とはいえ、相手を殺してしまったことでの心の傷は、日活の石原裕次郎さんの映画や、舛田利雄監督作にも通じる。

で、最後は殴り合いで分かり合えるという男騒ぎの展開だが、その殴りっこのスケールが半端ではない。ジョン・ウェインVSヴィクター・マクラグレン! 闘いの途中で休憩して、パブでビールを飲んだり。村中の人がどちらが勝つか賭けをしたり。楽しいことこの上ない。

こういう映画を、無邪気に楽しんで観ていた時代、いいなぁ! 黒ビールが呑みたくなった!

 続きましては、秋好馨原作、笠原良三脚本、小田基義監督『続 ますらを派出夫会 お供は辛いネの巻』(1956年・東京映画)。完全なる続編。原作の主人公・亀山寅造(柳家金語楼)が、山師の三木のり平さんに騙されて破産。家なしになり、派出夫に。派遣されたのがライバルのなでしこ派出婦会の会長・古川ロッパさん宅。女装で、との条件で「おトラさん」を名乗り、いきなり、西川辰美さんの漫画の世界と相成る。

千葉信夫さん、トニー谷さん、南道郎さん、柳沢慎一さんと、次々とコメディアン登場なのは、日劇のプロデューサー、山本紫朗さんプロデュースだから! 日劇ミュージックホールの伝説のギャグマン・泉和助さん、ワンカットだけアップに! 残念ながらギャグはないが。

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古川ロッパさんのアップがゼロなのは、何かの仕打ち? 気になるなぁ。エノケンさん、大活躍!

クライマックス、離れ離れになっていた、金語楼さんの妻・千石規子さんが行商人となりロッパ宅へ。奥さんの清川玉枝さんの計らいで、千石規子さんが泊めてもらうのは、原作漫画にあったエピソード。子供の頃、家に漫画があって繰り返し読んだので、懐かしかった!

6月15日(火)『ハイ・ティーン』(1959年・井上和男 )・『マクリントック』(1963年・ユナイト)・『ますらを派出夫会 男なりゃこそ』(1957年・宝塚映画)

阿佐ヶ谷ネオ書房で「佐藤利明の娯楽映画研究所」収録が早めに終わったので、これからラピュタ阿佐ヶ谷で「蔵出し!松竹レアもの祭」で佐田啓二版「暴力教室」こと「ハイティーン」を観ます!

ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で「ハイ・ティーン」(1959年・井上和男 )。問題児ばかりの高校三年生のクラス担任となった佐田啓二さんが、生徒たちの抱える問題とぶつかりながら、信頼を勝ち得ていく。

予定調和の青春ものではなく「坊ちゃん」や、石坂洋次郎の「若い人」「何処へ」のフォーマットだが、「暴力教室」後だけに、一筋縄ではいかないドラマ展開。脚本は山内久さん! 一年間を107分で描き切る井上和男監督のダイナミックな演出を堪能。日本テレビの青春学園ものよりも6年前! ラストの謝恩会のシーンに、ちょっと感動。

杉浦直樹さん、神山繁さん、加藤武さん、ポイントのキャスティングも良く、東野英治郎さんの校長先生に「青春学園シリーズ」のルーツを感じる。 明朗と屈託、現実を乗り越える理想。生徒たちの克服のドラマが丁寧に描かれて、好もしい佳作。

生徒たちが選んだ修学旅行先がなんと、東海原子力発電所!

石原慎太郎さんの「青春とはなんだ」から始まると考えられてきた「青春学園」史観を大きく変える一本!

桑野みゆきさん、瞳麗子さん、そして初代・峰不二子の声優・二階堂有希子さんたちもフレッシュ!

主人公の恋人に、青山京子さん。つまり「思春期」のヒロインがオトナになった時代でもあります!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、アンドリュー・V・マクラグレン監督『大西部の男』改め『マクリントック』(1963年・ユナイト)。ジョン・ウェイン&モーリン・オハラ共演としては『リオ・グランデの砦』(1950年)、『静かなる男」(1952年)、『荒鷲の翼 」(1956年)に続く、7年ぶり、四本目の作品となる。

西部で大成功している大地主・マクリントック(ウェイン)の元に、別居中の妻・ケイティ(オハラ)が久しぶりに戻ってくる。勝気で思い込みの強いケイティは、「静かなる男」のその後のようでもある。東部の大学を卒業して帰ってくる娘・ベッキー(ステファニー・パワーズ)を連れて東部で都会暮らしをしようというのだ。

なぜ二人が別居に至ったのか? 壮大な夫婦喧嘩が展開され、やがて、ケイティの勘違いだと判っていくが、展開やキャラクターは『静かなる男』の延長にあり、往年のファンを楽しませてくれる。

マクリントックに仕える、農夫の若者・デヴリン(パトリック・ウェイン)がベッキーと結ばれるサイドストーリーも含めて、勝気な女性と西部の男の恋愛スタイルが描かれる。

シェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」をベースした賑やかな西部劇コメディ! 殴り合いはタップリあるけど、ジョン・ウェインが撃つ拳銃はたった一発。しかも空砲というのも気が利いている。

プロデュースは、息子のパトリック・ウェイン。随分前にパブリックドメインになっているので、気軽に観られるが高画質のワイド版で観てみたい。アマプラで配信しているのはPDのDVDと同じ、粗い画質のトリミング版。ラストの310回目の大成功(何かは観てのお楽しみ)の微笑ましさ!

ジョン・ウェインとモーリン・オハラのコンビは、8年後の共演5作目『100万ドルの血斗』(1971年)へとつづく!

続きましては、秋好馨原作、小田基義監督、シリーズ第四作『ますらを派出夫会 男なりゃこそ』(1957年・宝塚映画)。舞台を関西に移して、中田ダイマル・ラケット師匠、横山エンタツさん、東京勢は柳家金語楼さん、三木のり平さん、有島一郎さん、EHエリックさんなどなど。

お話は東京映画版と同じで、エピソードの羅列で、依頼家庭での派出夫たちの失敗、失態の連続。ダイラケ師匠が派遣されるのは、環三千世さんと石浜裕次郎さんの新婚家庭。エンタツさんは、女流画家・美吉佐久子のアトリエ。のり平さんは船場の老舗。で、のり平敗退で、我らが主人公・亀山寅造(金語楼)。そのお宅のとうはん・櫻井園子さんが、望まぬ相手・有島一郎さんと結婚させられそうになるが、有島さんは稀代の結婚詐欺師だった! 亀山派出夫はその機転で、とうはんの危急を救うことが出来るか?

脚本は新井一さん。宝塚映画らしい、おっとり、緩やかな喜劇!

6月16日(水)『宇宙怪獣ガメラ』(大映・1980年)・『素晴らしき求婚』(1950年・東宝)

1980年の劇場公開以来、久しぶりに湯浅憲明監督『宇宙怪獣ガメラ』(大映映画)を観る。前年の夏、有楽町日劇で「ゴジラ映画大全集」が大々的に開催され、5月の文芸地下「スーパーSF特撮映画大会」に通い詰め、スクリーンで東宝、大映の特撮映画を観ることができた。関連書籍もたくさん刊行され、特撮映画待望論が一気に盛り上がっていた。

明けて1980年、朝日ソノラマから「宇宙船」が発刊された。そんな頃に、新生大映が、これまでの「ガメラ」シリーズのフッテージを再編集、高橋二三脚本、湯浅憲明監督による新作「宇宙怪獣ガメラ」を製作。マッハ文朱さん主演作として、松竹東急系で春休み公開した。

もちろん初日に駆けつけたが、それ以来となる。

「大怪獣ガメラ」から「ガメラ対深海怪獣ジグラ」までのシリーズ7作品のクライマックスを新撮のお話で展開していくのだけど、菊池俊輔さんが新しく音楽をつけているので、あのシーン、このバトルが菊池メロディーで繰り広げられるのが、かなり胸熱^_^

「ガメラ対バルゴン」で凶悪ガメラが黒四ダムを破壊するシーン。製作当時、石原裕次郎さんと三船敏郎さんが「黒部の太陽」企画を立ち上げ、五社協定と闘うことになったことを思い、永田ラッパが鳴り響いたのだなぁと^_^

ガメラ版「ザッツ・エンタテインメント」として観ると、次々と登場する、ギャオス、ジグラ、バイラス、ジャイガー、ギロン、バルゴンとの決戦シーンは、まさに満漢全席^_^

ああ、シリーズ中断の九年間に「宇宙戦艦ヤマト」「スターウォーズ」「スーパーマン」「未知との遭遇」ブームがあり、女子プロレスやピンクレディー旋風が吹き荒れていたことを、改めて実感した。

なんといっても菊池俊輔さん作曲の主題歌が頭の中をリフレイン。みんな覚えてしまうこと必至!

この夏「妖怪特撮映画祭」で久しぶりにスクリーン上映!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、小田基義監督『素晴らしき求婚』(1950年・東宝)。ユーモア小説の雄・佐々木邦「アパートの哲学者」を松浦健郎が脚色。世田谷あたりで、独身アパートを経営するインテリ、古川ロッパさん。杉葉子さんが結婚するため、仙台に向かう夜、友人・月丘夢路さんが名古屋から上京して空き部屋に転がり込む。

しかし伊豆肇さんが借りることになっていて、バッティングしてしまう。ハリウッド喜劇のようなモダンなアパートには、娯楽室があり、ロッパさんがピアノを弾きユーモレスクを歌う。

で、美人の月丘夢路さんに、住人・井沢一郎さんも一目惚れ。伊豆肇さんも、立候補して恋のライバルとなる。しかも、井沢さんにはアパートの住人・中北千枝子さんが惚れていて、事態はややこしくなる。

それぞれが職業上の秘密を抱えていて、単なる恋愛マッチング物語でなくなっていくのも楽しい。

伊豆肇さんは、実はアパート買収を会社に命じられたサラリーマン。井沢一郎さんは興信所の調査員。中北千枝子さんはクルマの整備士でテストドライバー。月丘夢路さんはレビューの踊子。管理人のロッパさんは、大恋愛の末に恋人を喪失したことがトラウマの独身主義。おまけにノイローゼ気味の助教授・渡辺篤さんは独身のフリをしているが、田舎に妻を疎開させたままの既婚者。

人間関係がこんがらがり、みんな隠し事をしているため、事態はかなりややこしくなる。全てを解きほぐすのが、人格者のロッパさん、という、いかにもロッパさん好みのコメディ。

小田基義監督の演出は、悠然としていて、スクリューボールコメディの真逆。面白くなるシチュエーションなのに。まぁ、1950年のプログラムピクチャーなので^_^

東京風景も楽しく、渋谷駅前のバス停、世田谷界隈、映画を見に行くのが帝劇というモダンライフ。それがまた楽しい。

6月17日(木)『忍術罷り通る』(1953年・東京映画)・「Gメン75」第一話「エアポート捜査線」

今宵の娯楽映画研究所シアターは、野村浩将監督『忍術罷り通る』(1953年・東京映画)。大坂夏の陣、三好清海入道(花菱アチャコ)と猿飛佐助(横山エンタツ)は、あえなく戦死して天国へ。青海入道は子供を遺してきたのが不憫で、お大師様(柳家金語楼)と吉祥天女(藤間紫)に頼み込んで10日間の期限付きで下界へ。

つまり、ミュージカル「回転木馬」で知られるフランスの戯曲「リリオム」のプロットなのだけど、エンタツ・アチャコが降りた先は400年後、昭和28年の東京だった!というナンセンスコメディ。

しかも降りたのは、銀座の森永地球儀ネオンの真上。この年、銀座の不二越ビルの屋上に設置された広告塔は銀座のランドマークとなるが、そのタイアップ初期の作品。プロデュースは日劇の山本紫朗さん。

浦島太郎となった青海入道と佐助が、飲み屋で知り合ったサラリーマン・渡辺篤の背広を借りて現代人に。エンタツさんは、忍術で札束を次々と出して、銀座のキャバレーで豪遊。遊び人・トニー谷さんにたかられ、歌手・筑紫まりさんにむしり取られる。

一方のアチャコさんは、隅田公園、言問橋の袂で、息子そっくりの迷い子の面倒を見る。ここから浅草映画となる。しかも、子供の祖母・浪花千栄子さんは「アチャコちゃん!」と戦死した息子が帰ってきたと大喜び。

いきなり「アチャコ青春手帖」の世界へ突入! 野村浩将監督は映画版『アチャコ青春手帖 東京篇』『同 大阪篇』(1952年・新東宝)を手がけていただけに、アチャコさんとおちょやんとは馴染み。

子供を連れて遊びに行くのは、浅草映画ではお馴染み「松屋浅草」の屋上遊園地! スカイクルーザーに飛行塔、豆汽車も登場する。前半銀座、後半浅草、クライマックスは日劇のレビュー! ああ、楽しや、嬉しや、東京映画探検!

Netflix「ゴジラSP」シーズン1 最終回。ペロ2とジェットジャガーの賢さに、ふむふむ^_^ 落語のサゲのようなオチでありました。おわりは始まりで、始まりはおわり。無限ループの破局の怪獣天国。クライマックス、ゴジラとジェットジャガーでパンチパンチパンチで、しかもイースターエッグは、1973年から1974年の東宝チャンピオンまつりへ。ペロ2のスタイルが「ひばりのマドロスさん」!

6月18日14時過ぎからNHKラジオ第一「ごごカフェ」に、番組最短の2ヶ月後のリピートゲストとして出演します。パーソナリティの武内陶子さんから最短ゲストのお墨付きを頂きました。

そこで菊池俊輔先生といえばの「Gメン75」第一話「エアポート捜査線」を40年、いや46年ぶりに再見。高久進脚本、鷹森立一監督によるレギュラーお目見え篇。とにかく沢山の登場人物の捌き方がお見事! それぞれのキャラの初登場シーンもうまいなぁ。

原田大二郎さん、岡本富士太さん、藤木悠さん、倉田保昭さん、藤田美保子さん、丹波哲郎さん、夏木陽介さん(登場順)のキャラをわずか数分で伝えてくれる。特に丹波さん。開通してほどない営団地下鉄千代田線のホームで、サンフランシスコ空路のCAとして潜入捜査中の藤田美保子さんと接触する。つまり「007は二度死ぬ」のタイガー田中のリフレイン!

しかもゲストに、川地民夫さん、室田日出男さん、寺田農さん、中田博久さん、田中浩さん! いやぁ、凄い凄い! 皆さんと仕事できた自分はなんて恵まれているのか!川地さんの妹役の田中真理さんが美しい!

1975年、僕は小6で銀座の泰明小学校に通っていた。室田日出男さんが泳がされる銀座、日比谷の映画街ロケに感涙! 「デアボリカ」「ゴッドファーザーPART 2」上映中。三信ビルも、三井ビルも、スカラ座も、千代田劇場も、有楽フードセンターも、ニュートーキョーも映るのですよ!

あー、いちどだけ、恋して燃えた〜 しまざき由理さんが歌う主題歌「面影」が随所に流れて、記憶中枢を刺激する。その頃、好きだった同級生のヨッチの顔まで浮かんでくる。しかし、菊池俊輔先生の音楽が、この「Gメン75」の混沌を見事にまとめ上げていることを改めて実感!

6月18日(金)『100万ドルの血斗』(1971年)・『恋愛特急』(1954年・東宝)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジョージ・シャーマン監督『100万ドルの血斗』(1971年)。ジョン・ウェインとモーリン・オハラ、五度目の共演作。ジェイコブ・マッキャンドルズ(ジョン・ウェイン)は、10年前、妻・マーサ(モーリン・オハラ)に牧場を託して、気ままな旅暮らし。ある日、元保安官・ジョン・フェイン(リチャード・ブーン)率いる強盗団が、牧場を襲撃。10名を惨殺して、孫・ジェイク(イーサ・ウェイン)を誘拐する。

身代金は100万ドル。マーサはジェイコブを呼び出して、孫の奪還を計画。10年ぶりに会った次男・ジェームズ(パトリック・ウェイン)は母と自分たちを捨てた父を許せないまま、無骨な父と行動を共にする。一方、三男・マイケル(クリストファー・ミッチャム)はこだわりを持たず、バイクを乗り回す現代若者。さらにジェイクの腹心的存在の先住民・サム・シャープノーズ(ブルース・キャボット)も加わり、メキシコ国境を超えて盗賊団のアジトへ向かう。

冒頭の襲撃シーン、かなりバイオレンスで、丸腰の善良な人々に、容赦なく銃口が向けられる。マカロニ以降の西部劇。といっても1909年の物語なので、捜索隊は車も、バイクも使うが、最後は馬しか頼りにならない。

道中、ジョンとパトリックのウェインの壮大な親子喧嘩や、まるで忍者のようなブルース・キャボットの活躍。若き日のクリストファー・ミッチャムのキビキビした動きが、楽しめる。リチャード・ブーンの悪役は、ほんとに憎々しげで、実に素晴らしい。

ウェイン一家総出演の「最後の娯楽西部劇」として、眺めているだけでも楽しい。出来ることなら、もう少し、ジョン・ウェインとモーリン・オハラの芝居が観たかった!
ブルース・リーが「ドラゴン危機一発」に出演した頃、ジョン・ウェインはまだ西部の男だったんだと、改めて感無量!

 続きましては、杉江敏男・鈴木英夫監督『恋愛特急』(1954年・東宝)。下北沢のアパートに住む、日劇のワンサガール、越路吹雪さん、岡田茉莉子さん、北川町子さん。彼女たちが、有楽町まで乗るTKKバスの運転手・榎本健一さん。明朗喜劇のスタイルで始まるが、日劇のプロデューサー山本紫朗さんプロデュースによる、裏方の哀感を描いたバックステージもの。

岡田茉莉子さんは、京都の映画監督・斎藤孝雄さんに見初められ映画界へ。長年、バックダンサーを務めてきた北川町子さんは、田舎の幼馴染・桜井巨郎さんとの結婚引退を決意する。

越路さんには、演出家・小泉博さんと長年付き合っていて、来月の出し物に困っていたプロデューサー・志村喬さんが、小泉博さんの台本を採用する。しかし小泉さんは、どうしても主演を越路さんにしたい。しかし会社は、トップスター・濱田百合子さんの主演を強行する。

北川町子さんと桜井巨郎さんが、ランデブーで行くのは松屋浅草の屋上遊園地。スカイクルーザーに乗って、浅草空中散歩を楽しむ。

下北沢界隈の牧歌的な空気。エノケンさんのバスが、内幸町、有楽町を走る! 日劇の晴れがましさ!

苦いラスト、徹夜明けの日劇屋上に佇む越路さん! 

志村喬さんのプロデューサーは、おそらく山本紫さんがモデルでしょう。

6月19日(土)『不沈のモリー・ブラウン』(1964年・MGM)・『粘土のお面より かあちゃん』(1961年・新東宝)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、チャールズ・ウォルターズ監督『不沈のモリー・ブラウン』(1964年・MGM)。ジェームズ・キャメロンの「タイタニック」で、キャシー・ベイツが演じていたモリーの一代記をミュージカル化した1963年の舞台を映画化。楽曲はリチャード・モリス、劇作と歌詞はハワード・ドィッチ。

コロラド川で拾われたモリー(デビー・レイノルズ)は、金持ちになりたい一念で鉱山の町レッドヴィルへ。そこで鉱夫ジョニー・ブラウン(ハーヴ・プレスネル)と結婚。ジョニーはモリーのために鉱山を売って30万ドルを作るが、お金の置き場所に困ったモリーがストーブの中にしまったために、現金は灰に… もうダメかと思ったら、金の鉱脈が見つかって大金持ちに…

モリーは念願のデンバーで、上流社交界に仲間入りするが、田舎者と馬鹿にされて、神父のアドバイスで欧州へ出かけて、教養を身につけて、馬鹿にした連中を見返そうとする。

勝ち気で山出しのモリーを、デビー・レイノルズが嬉々として演じて、眺めているだけでも楽しい。クライマックス、ヨーロッパからアメリカに帰国するために乗った船がタイタニックで…という展開と相成る。


 続きましては、中川信夫監督『粘土のお面より かあちゃん』(1961年・新東宝)。原作は「綴方教室」の豊田正子さん。この映画は、今から26年前、川本三郎さんと待ち合わせして、東銀座のシネバラックで一緒に観たことがある。Amazon primeで配信されているのを見つけ、それ以来の再見となった。

昭和24年、荒川近くの曳舟、長屋にブリキ屋を構えてる豊田由五郎(伊藤雄之助)は、お人好しで気が弱く、酒好きで、手間賃を取りはぐれてばかり。女房のお雪(望月優子)は貧乏にもめげずに、あちこちに借金してでも、娘・正子(二木てるみ)、息子・稔坊(津沢彰秀)をなんとか食べさせている。

しかし、貧すれば鈍するで、ついに万策尽きて、草加の実家に工面に行くが、なんとか借りた五百円も、配給の米代と酒屋の借金でパー。ついには夜逃げを決意する。

映画は昭和24年の設定だが、豊田正子さんのタイムラインでは、「綴方教室」の舞台となる葛飾区四つ木に引っ越す前の墨田区曳舟時代。つまり、山本嘉次郎監督『綴方教室』(1938年)の前段にあたる。

西新井橋、曳舟一丁目のバス停、荒川放水路などの下町風景が随所に。正子(二木てるみ)の担任の先生・北澤典子さんとのエピソードがいい。先生が教えてくれる「ラ・マルセーエズ」の自由の空気がいい。この歌は、ラスト、四つ木への夜逃げ途中に、誰何してくる警官・宇津井健さんの口笛でリフレインされる。この警官の人の良さ!

ちなみに、その後にリヤカーを引いた一家が休憩する白髭神社は、セット撮影だが、千葉泰樹監督「下町」で、三船敏郎さんが戦争未亡人・山田五十鈴さんの息子を祭りに連れて行く神社。カルメ焼きのあの神社でしょう。ラストの四つ木橋まで、墨田区、葛飾区界隈の「あの頃」が随所に登場する。

で、二木てるみさんは「綴方教室」の高峰秀子さんへとバトンタッチする。そんな風にも味わえる佳作。

6月20日(日)『砂漠の流れ者』(1970年・ワーナー)・『音楽五人男』(1947年・東宝)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、サム・ペキンパー監督『砂漠の流れ者』(1970年・ワーナー)。西部開拓時代が終わりを迎える頃。砂金掘りのケーブル・ホーグ(ジェイソン・ロバーズ)は、ボウエン(ストローザー・マーティン)とタガート(L・Q・ジョーンズ)に騙されて、水も馬も奪われて砂漠に取り残される。「絶対生き延びて復讐する!」の一念で、砂漠を彷徨うケーブルは、なんとコンコンと湧き出る泉をみつけ、駅馬車の中継所を建設。

西部のホラ話のような前半。娼婦・ヒルディ(ステラ・スティーブンス)との出会いのシークエンスの楽しさ。女に手が早い、インチキ牧師・ジョシュア(ディヴィッド・ワーナー)の抜け目なさ。時代に取り残された男という点では、「男はつらいよ」の車寅次郎と時を同じくして登場したオヤジ・ヒーローの魅力全開。

ヒルディが、街を追われて砂漠のケーブルのもとにやって来る中盤。二人の楽しい日々は、ずっと見ていたくなる。ヒルディが歌う「バタフライ・モーニング」の美しいメロディ。最初はヒルディだけの歌声だが、やがてケーブルとのデュエットになって、それが二人の愛を表現。サム・ペキンパー史上、最もリリカルな名場面!リチャード・ギルズが歌う主題歌、挿入歌はどれも素晴らしい。

サンフランシスコで一花咲かせたいヒルディが去り、いつか彼女を探し出すと決意しながら、ボウエンとタガートの復讐の時を待つ後半。

ケーブルにとっての本当の敵は、時の流れだったという皮肉なオチまで、ユーモアと詩情、心憎い演出の名場面が続く。最後のシークエンス、ヒルディ、ケーブル、ジョシュアの3人が再会しての静かな味わい深い、クライマックス。何度観ても泣ける。

「黄昏西部劇」の傑作!

ステラ・スティーブンスがホントにチャーミング!

続きましては、小田基義監督『音楽五人男』(1947年・東宝)。脚本は伏見晃さん。戦前の「明朗五人男」、敗戦後の「東京五人男」「聟入豪華船」に続く、当代人気スタアを集めた「五人男」もの。これまでは斎藤寅次郎監督の一手市場だったが、今作は小田基義監督。

浅草オペラ出身の山浦(古川緑波)、音大卒の杉尾(藤山一郎)、その相棒の城(相原巨典)、演奏家・若林(渡辺篤)、リーダー格のクラシック作曲家・沖吉(高田稔)たち五人男が、それぞれの道で成功するまでを、ふんだんに音楽シーンで綴った明朗音楽映画。

緑波は浅草オペラ時代に、演出家・河津清三郎のエゴで、一座の花形・小夜福子さんと、別れさせらた過去がある。東宝映画のプロデューサーとなった河津さんが、小夜さんの振り付け、緑波さんの作、ニューフェイス候補相原巨典さんの出演による音楽映画を企画。戦後、運命の男女が再会する。河津さんは明らかに菊田一夫さんがモデル。浅草出身の緑波さんらしい展開。

藤山一郎さんは、柳橋芸者・深水藤子さんの紹介でコロムビアからレコードデビュー。街角で歌っていた「夢淡き東京」をレコーディングする。この曲がトップシーンで、復興著しい東京風景とともに歌われ、緑波さんも歌う。随所に効果的に流れ、観客が口ずさめるように仕掛けられている。

さらに、若山牧水の詩に高田稔さんが曲をつけた(設定で)誕生するのが「白鳥の歌」。戦後間もなくの流行歌、誕生の瞬間を映画で目撃出来る。

五人男は隅田川沿いのアパートで共同生活。その大家の娘に、東宝第1期ニューフェイスの久我美子さん! はちきれんばかりの若さで元気いっぱい!

クライマックス、緑波さんが信州の牧場でのカントリーライフのなかから生み出す「田園ミュージカル」は、いかにもロッパ好みのインテリ趣味。馬車のリズムで作曲するシーンは、ヨハン・シュトラウスの伝記映画「グレート・ワルツ」(MGM)からの頂き^_^


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。