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僕が考える美瑛・富良野の楽しみ方

今日は、僕が理想とする美瑛・富良野の楽しみ方をお伝えしようと思う。もちろん、これは僕の考え方なので全ての人に当てはまらないとは思うけれど、30年この土地を見続けてきた僕的には、こうあってほしいと思う内容だ。

■7月はメディアが動き出す

実は毎年のことながら、7月になるとテレビもラジオも雑誌も、こぞって美瑛・富良野特集を組む。みなさんは富良野と聞いて何を思い出すだろうか?ちょっと前までは、必ずと言っていいほど「北の国から」だった。ところが、最近はあの名作ドラマさえ知らない人が多くなり、時代を感じてしまうのは僕だけではないだろう(笑)。
でも、あの頃から変わらず、今も人気トップランカーはラベンダー。最近では早咲きから遅咲きまであるので、6月下旬から8月ごろまで楽しめるようになったから、夏の主役はラベンダーというのはしばらく安泰だろう。
そして、最近その主役の座を奪いつつあるのが「美瑛の丘」と「青い池」。僕が北海道に通いだした頃の主役はまぎれもなく富良野。ガイドブックには見開きで富良野特集があり、小さく囲み記事で美瑛が掲載されていた程度だった。ところが最近では美瑛の方が多くページを割かれることもあるくらい、美瑛人気は定着したと言ってもいい。
その人気に便乗、といっては大げさではあるけれど、この時期はテレビロケが盛んだ。雑誌の取材も多く、7月号は美瑛・富良野特集が定番になってききた感がある。どれくらい多いかというと、僕自身のこの夏の出演依頼が2番組。きっと他にもテレビ局は入ってきているだろうから、どれくらい人気かは、想像していただけるではないだろうか?
テレビの影響はやはり大きく、紹介された場所、お店などはその後しばらく大人気になり、地元民が行けなくなるほどなのだ。

■美瑛・富良野は観光地であって観光地ではない

本州のみなさんにとっては夏の観光地としてすっかり定着した、ここ美瑛・富良野だが、実は観光地として整備された場所はごく一部。富良野の麓郷の森、ニングルテラス、中富良野のファーム冨田などは、観光用に整備されていてはいるが、その他に広大に広がる風景はすべて「農地」。この地で農業を営む農家のみなさんの個人所有の生産現場だ。言い換えれば、大半は個人宅だともいえるだろう。これは北海道の畑作地帯全般に言えることかもしれないけれど、農家の生産現場を「観光地」として勝手に解釈してしまっているわけだ。これは行政が主導したというのとは少し違う、と僕は思っている。自然発生的に旅行客がその魅力に気づいたこともあるだろうし、写真家がその美しい風景を世に広げた結果とも言えるだろう。
何れにしても、この現象はなかなか特異な状態で、いわゆる観光地とはまったく性格のことなるエリアだということがお分かりいただけるのではないだろうか。住んでいる人の中には「観光地」だということに違和感を感じている人が少なからずいる、ということをまずは知っておいてほしい。

■とはいえ、その美しさは世界に誇れる

写真家が美瑛・富良野の写真を撮り、ライブラリーを通して全国に売っていた時代。その写真をどこかの広告や雑誌などで見て、いつかは行ってみたい、と思うようになった。その結果が「観光地化」だったのかもしれない。でも、やはりこの風景は世界に誇るべき美しさであることは間違いない。うねりゆく丘陵地帯とその奥にそびえる十勝岳連邦の組み合わせは、おそらく世界の有名景勝地にも引けを取らない。このエリアの特徴的な地形が生み出す自然現象の美しさも、世界的にみても稀有だと確信している。そして、その根本には「農家の暮らし」の美しさがあるのだと僕は思う。厳しい開拓の時代を経て、人力で切り開いたこの土地を淡々と守り抜くその姿に、僕はたまらなく惹かれるのだ。
北海道は大自然だと人は言うけれど、実はこの土地には、そこを開拓した人々の血と汗が染み込んでいる。さらには、それ以前からこの地に住んでいたアイヌの人々の魂さえも宿している。常に人と自然が共存してきた大地こそが、北海道なのだと僕は思うのだ。

■観光とは、そっと光を観ること

美瑛・富良野を旅するときは、そのことを忘れないでほしい。ここは、先人たちが命をかけて作り上げた「生活の場所」なのだ。だから僕はこう考える。そっと、その場所の「光」を「観」てほしい。それこそが観光の本当の意味じゃないだろうか。農家の生き様に触れ、彼らへのリスペクトを忘れないでほしい。これからの観光は、そうなっていってほしいと思うし、そうなるのが誰もが幸せになれる。僕は、そう思う。
美瑛・富良野を旅するとき、ぜひ地図を見ないでほしい。迷う旅をしてほしいと思うのだ。有名な木や丘を探す旅の時代は終わった。これからは、自分自身の原風景に重ね合わせて、この地を五感で感じてほしい。そのためには、農家の生き様を見ることが大切だ。見せるためではなく、効率を追求しているからこその美しさ。人の生き様こそが美しい。そこに多くの人が気付けば、きっとこの地は世界一の場所になるだろう。

■写真集「FARMLANDSCAPE」に込めた思い

そんな思いを綴った写真集のおかげで、ラジオやテレビへの出演が続いている。でも、実はこの写真集は僕自身の名を上げるために出したんじゃない。長く美瑛と向き合ってきて、美瑛のおかげでここまで暮らすことができた。全て農家の方々の営みのおかげなのだ。だから、僕はこの本を通じて、農家の生き様の美しさを世に伝え、美瑛への視点を少し変えたいと思っている。一人の写真家の一冊の写真集ができることはたかがしれている。でも、やらないよりはマシだと思う。
僕自身は新たな視点で写真を撮り始めている。そのために、このタイミングで美瑛に恩返しがしたかったのだ。



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