土橋俊寛

着物男子。大東文化大学経済学部教授。著書『ゲーム理論ドリル』(同文館出版)『ヤフオク!…

土橋俊寛

着物男子。大東文化大学経済学部教授。著書『ゲーム理論ドリル』(同文館出版)『ヤフオク!の経済学』『ゲーム理論』(日本評論社)ウェブサイトhttps://sites.google.com/view/toshitsuchihashi/ 感じた事をエッセイに綴っていきます。

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    海外旅行の記録です。

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    今までに潜った海を紹介します。スキューバダイビングの写真日記です。

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    気楽に書いた、気軽に読めるエッセイです。

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最近の記事

褒めればよいとは限らない

他の条件を一定とすると(ceteris paribus)、誰でも褒められるのは好きだろう。対象は必ずしも自分そのものでなくともよい。 「誰とでもすぐに仲良くなれるの、すごいと思います」 「いつもそうですけど、指摘が的確で感心します」 「髪切ったの? 今の季節にぴったりでカッコ良いね」 「いやあ、君の奥さん本当に美人だよね」 ところが、中には首を傾げたくなる「褒め言葉」というのがある。私にとってはこれがそうである。 「良い服ですね」 自分のファッションを褒めてくれている

    • ラオス旅行(仮)その6

      「今日はワットプーへ行く日だな」 「昨日も一昨日も同じ事を言ってたけどね」 ホテルのロビーでコーヒーを飲みながら、私たちは今日のスケジュールについてのんびりと話し合っていた。一昨日はパクセーの滝に時間を割き過ぎ、昨日は「4000の島」に長居し過ぎた。「マスト・ゴー」と言われるワットプーに今日こそは行かねばならない。そのために高いお金を払ってレンタカーをもう1日、余分に借りたのだ。 だが、まずはメコン川を渡って丘を登り、パクセー市街を一望できるワット・プーラサオに向かった。こ

      • ラオス旅行(仮)その4

        「朝6時半にトゥクトゥクが来るから」 昨夜教えてもらった通りにゲストハウス前にやってきたトゥクトゥクに乗り込んだ。ここからタケークまでは5時間かかるらしい。トゥクトゥクに5時間か……。早起きも手伝って、私は既に疲れ初めていた。 「車の助手席に2人座れるんじゃないか」 2日前から行動を共にしていたイリヤはすかさず運転席に提案し、オーケーの返事を得ていた。トゥクトゥクだろうと何だろうと、助手席は普通の車と変わらない。イリヤ、実にめざとい。さすがだ。 しばらくは2人でお喋りに興

        • ラオス旅行(仮)その3

          ゲストハウスから20分ほど歩くとコンロー国立公園に着いた。この公園内にある大きな洞窟は観光客に人気のスポットだ。洞窟内は川が流れている。ここを訪れるために昨日は9時間もバスに揺られたのだった。 公園の入り口で料金を払う。洞窟を進むためのボートとガイド込みで1人11万キープ(880円)だった。観光地にしては料金が安い。 国立公園なので政府がサポートしているのは当然としても、興味深い事にニュージーランド政府が環境保全に一役買っているようだった。 洞窟に入るとすぐに真っ暗闇に

        褒めればよいとは限らない

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          ラオス旅行(仮)その1

          皆さんはラオスと聞いて何が思い浮かぶだろうか。正直言って、私は何も思い浮かばなかった。 ラオスの近隣に位置する東南アジアの周辺国なら、どの国にも何かしらのイメージが浮かぶ。タイはエメラルド仏やプーケット島、何よりもタイ料理が美味しい。マレーシアはミーゴレンでベトナムはフォー。何だか食べ物ばかりだが、間違ってはないだろう。カンボジアにはアンコールワットがあり、ミャンマーは軍事独裁政権がえらい事態を起こしている国。 では、ラオスというと? 何とも不思議な空白地帯である。 私

          ラオス旅行(仮)その1

          飛んでイスタンブール

          前方カメラの映像の正面に2列の光点が連なる滑走路が見えてきた。滑走路が段々と大きくなってくる。機体が地面と水平になると同時に床下から軽い振動が伝わってきた。この瞬間に身体の力がふっと抜ける。ああ、無事に着陸できたんだ。 イスタンブール国際空港に到着したのはまだ日も昇らない早朝5時だったのだが、国際線の乗り継ぎゲートはすでに長蛇の列が出来ており、その周りでは大勢の空港職員がテキパキと仕事をこなす。「アザーサイド、アザーサイド!」人の列が1か所に集中しないように、女性スタッフが

          飛んでイスタンブール

          断捨離

          「物を買うのはあんまり好きじゃないな。物が残らないように、食べ物とかサービスとかにお金使いたい」 大学生時代の友人がこう言ったのを聞いて、私は心底驚いた。手元に何も残らないなんて、なにかもったいない気がしたのだ。 「それ、なんでなの?」 「物が残ると、それを見るたびにお金を使った事実を思い出すから。それが嫌だ」 目から鱗とはこういう事なのだろう。 私自身は物が好きな人間だという自覚がある。物を集めるのも好きで、まるでカラスのように溜め込みたくなる。 こう書くとなんとも物質

          透明度100メートルのシルフラ、アイスランド(2018年12月)

          夏。その日のダイビングを終え、ダイビングショップの休憩スペースに置いてあったダイビング雑誌を何気なくパラパラとめくっていると、アイスランドの文字が目に飛び込んできた。 アイスランド? 北極圏に近い、あの北欧の国のアイスランド? スキューバダイビングは熱帯か亜熱帯の海で楽しむものという先入観があっので、完全に意表を突かれた。 見開きページの写真の中で、エメラルドの水中に潜る女性ダイバーが全身に黄色い光を浴びていた。写真からも透明度の高さがうかがえるが、記事によれば果たして1

          透明度100メートルのシルフラ、アイスランド(2018年12月)

          ウガンダからルワンダへ、赤道をまたぐ02

          東アフリカには国がいくつもあるが、『地球の歩き方』に載っていたのはウガンダ、エチオピア、ケニア、タンザニア、ルワンダの5か国だ。治安なども考慮しつつ、旅行しやすいのがこれらの国ということなのだろう。それでも、ケニアの首都ナイロビは「歩き方」として「ナイロビは歩かないでタクシー利用で」と書かれているし、タンザニアの首都である「平和の家」を意味するダル・エス・サラームは治安が非常に悪化しているらしい。私がこれまでに旅行したことのある地域とは少々様子が違うようだ。 さて、どうした

          ウガンダからルワンダへ、赤道をまたぐ02

          ウガンダからルワンダへ、赤道をまたぐ01

          ドバイ国際空港の広大なターミナルで、私はカンパラ行きのフライト・ゲートに向かって歩いていた。ゲートはあまりにも広いドバイ国際空港ターミナルのかなり端の方だったが、搭乗まではまだ時間があるので慌てる必要はない。ようやくゲートに到着すると、付近で飛行機を待つ人たちはみな黒人だった。俄然、アフリカ旅行が現実感を増した。 年に1回は海外へ、できればそれまで訪れたことのない国へ旅行に行きたい。それで、この年はウガンダとルワンダを旅行先に決めたのだった。東アフリカに位置するこの2国につ

          ウガンダからルワンダへ、赤道をまたぐ01

          臨時ダイヤという神技

          仙台まで北上したかったのだが、地震の影響で東北新幹線は福島で折り返し運転をしていた。その先は東北本線に乗り換える。 地方の在来線は編成が短いので、乗客全員を輸送するだけの収容力があるのだろうかと懸念していた。しかし、そこはうまくしたもので、新幹線からバトンを渡されてリレーをつなぐ臨時ダイヤがきちんとできていた。 新幹線の運行が不可能だと分かった翌日から直ちに臨時ダイヤが組まれていたのかどうかは分からないが、このような対策を即座に打てるのは凄い事ではないだろうか。もちろん、

          臨時ダイヤという神技

          四国巡礼日記13~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          昨夜泊まった宿は大日寺よりも二キロほど戻った場所にあった。そのため、次の札所へ向かうだけなら大日寺を経由する必要はなく、近道を歩くこともできる。だが、遍路道を外れた途端、迷子になるという可能性は無視できない。これが昨日学んだばかりの教訓である。 正攻法で行こう――リュックサックを背負い、昨日と同じ道を大日寺に向かって歩き始めた。 道の途中、右手前方にある山上に洋風のお城が見えた。昨日も気になったのだが、あれは一体何なのだろう? 個人が建てたお城なのか、それともホテルやレス

          四国巡礼日記13~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          四国巡礼日記14~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          同宿した二人は桂浜に寄るらしく、朝食の後、「お気をつけて」というあいさつを交わすと身支度を整えて宿を出ていった。それに対し、私が今日たどるルートは渡し舟を利用する、歩き遍路の定番ルートである。 宿から種崎渡船場までは二十分ほどの距離だった。ここから県営渡船「龍馬」に乗って浦戸湾を横切るのだが、この渡し船は遍路道でもある県道二百七十八号線の一部という扱いになっており、歩き遍路が公式に利用する唯一の乗り物なのである。県道、つまり一般道のため料金はもちろんかからない。渡し舟の利用

          四国巡礼日記14~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          四国巡礼日記12~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          出発の身支度を整えていると、すっかり顔馴染みとなった男性に廊下でひょっこり出くわした。いつもと同じように白衣に身を包み、右手に金剛杖を持っている。 「ここからはもう会うこともないだろう」。私の方に向き直り、顔に笑みを浮かべながら男性が言った。「じゃあ、元気でな」 「はい、おじさんもお元気で。色んなことを教えてくださって、どうもありがとうございました」 信州から来たというこの男性は、恐らく同郷のよしみもあり私に多くのことを教えてくれた。どのみち私のお遍路はもうすぐひと区切

          四国巡礼日記12~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          四国巡礼日記11~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          目が覚めると雨はすっかり上がっていた。いまだどんよりとした空模様も午後には青空に変わるらしい。朝ご飯をしっかりといただき、身支度を整えると、次の神峯寺へ向かう前に、「くじら寺」の異名を持つ金剛頂寺の境内にある鯨の供養塔を見ておくことにした。草木に囲まれた境内の一角に立つ供養塔には「捕鯨八千頭精霊供養塔」の文字が見える。室戸には江戸時代から捕鯨の町として栄えた歴史があるのだ。 西洋には捕鯨を野蛮と見る価値観があるが、鯨肉は栄養価が高く、庶民にとって貴重なたんぱく源だった。生き

          四国巡礼日記11~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          四国巡礼日記10~経済学者、お遍路をゆく《春》~

          カーテンを開けると、外は天気予報通りの土砂降りだった。お門違いは承知の上で、精度の高い天気予報を恨めしく思った。 「この雨の中を歩くのか……」 この天気を想定していたからこそ、昨日はなるたけ長距離を歩いたのだった。その甲斐あって、今日は金剛頂寺までの、わずか十三キロを歩けば済む。それなのに思わず深いため息をもらした。 食堂へ降りて行くと、おひつにご飯が明らかに昨日よりもたくさん入っていた。 「いくらでも食べてくださいね。おかわりもできますから」 おばちゃんが配膳しな

          四国巡礼日記10~経済学者、お遍路をゆく《春》~