お気に入り再掲#3

『ドアとか竹蜻蛉とか』

一歩でどこへでもいけたら
僕らはどこにも行かなくなると思うんだ
ありがたみってのは苦労からくるもので
結局のところ僕たちは
結果を喜んでいるようで
苦労を喜んでいるんだ

報われない苦労はない
苦労は報われるまで続けるべきだし
徒労に終わらせる訳にはいかない
報われてないってことは
それは未だ苦労の中ってことなんだ

この両手を広げて空を飛べるなら
僕らはなるだけ飛ばずに済むようにすると思うんだ
爽快感の本質は解放にあって
それが飛ぶってことならつまり
地べたを這いずってる内にしか
僕らは飛ぶことはできないんだ

夢は手の届かぬものでなければ
蛍に風情はあっても
あの星のような神秘はない
手の届くものを何時までも
夢とは言っていられないんだ

この足で踏める一歩を
誰かの一羽撃きと比べても
行けるところは変わらないし
行くところだって変わらない


『赤く丸い林檎』

林檎の如何に丸々としているかを
あなたに説いても意味はない
林檎の如何に赤々としているかを
あなたに聞いても甲斐はない

旨そうに見える
だが、存外乾いていそうでもある
あまりにも完璧な林檎然とした居住まいに
蝋細工ではないかと疑っている

その疑念を晴らす方法が
あの肌に歯を立てることしかないのなら
私はいつまでもその美しい姿だけを指して
旨そうだと障りない感想を述べるだろう

形が悪ければジャムに
色が悪ければ焼きリンゴに
傷があればパイに
まだ若いならコンポートに

向かぬわけでもないのに
そのどれにするにも惜しい
そんな林檎の如何に味が良いかを
私が知り得るはずもない


『降り積もって』

雪が降り積もって尚雪ならば
道に降り溜まったものは雨
この暖かさが陽の光であるように
あの感傷はきっと月の光でしかない

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