【ショート・ショート】へんな部活
「失礼します・・・」
三上春香はおそるおそる物理室の引き戸をスライドさせた。
春香は順風高校の新入生。授業が始まってからまだ1週間も経っていない。
春香は、放課後、興味を持った部活をいくつか回っていた。春香が中に入ろうとしている物理室は「貴宅部」の部室。部活一覧に掲載されている部活の中で、唯一名前から何をやっているのかがわからない部活だ。
「あの・・・私、1年の・・・あれ?」
室内に誰もいない。部活一覧にはここだと書いてあったはずだ。
「物理室に用?」
後ろから声がした。
「きみ、もしかして『貴宅部』に来たの?」
「はい。そうですが・・・。どんな部活なのか聞きに来たのですが、誰もいないのです」
「私は顧問の大貫。物理を教えてます。今、16時半だから誰もいないよ」
「みなさん早く帰ったんですか」
「まあ、そういう部活だからねぇ」
大貫が苦笑しながらいう
「?」
「家に帰るという『帰宅』とはちょっと違う」
「??」
「みんな、お家が大好きでね。自分の家とか部屋が好きすぎる人がそれを語り合うだけの部活。で、家が好きだからあっという間に帰っちゃう」
「???」
「まあ、普通はそういう反応だよね」
「????」
「君、名前とクラスは?」
「三上春香です。クラスは1年3組」
「じゃあ、入部ね。明日、放課後すぐにここに来て。部長には君が入部したって言っておくから。じゃあね」
「え?いや、あの・・・」
春香は呆然と大貫の背中を見つめていた。
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