もうコンサートなんていけないなんて言わないよ絶対

今年の夏のことだ。

今まであまりコンサートなどに参加したことはないトド夫なのだが、去年ライジングサンに参加してから、ちょっとしたコンサートブームが来ているらしい。

私は意外と若い頃からコンサートに行っているのだが、40歳を越してから移動などが面倒になり、足が遠のいてしまった。

トド夫が乗り気なので、どれどれ私も行ってやるかとマウント気味にトド夫のスマホを覗くと、なんと緑黄色社会と書いてあった。

「それは取れないわ…」私がつぶやくと、トド夫は「やるだけやってみるんだ」と息巻いていた。

1時間も立っていると足が疲れて不機嫌になるトド夫なのに、緑黄色社会のコンサートに参加しようとする心意気だけは褒めてあげたい。

てか取れないよそんな人気のバンド。
と、言いかけた言葉をお腹のあたりで留めた。トド夫をこんなことで煽る必要もない。

「ドリカムも取ってみようと思うんだよね。ワンダーランドだし」
トド夫は、満面の笑みで振り向いた。
「ドリカムならいんでない?きっとみんな座って見るよ」
私は頷いた。年齢層に応じた妥当な選択だ。美和ちゃんも60歳近い。座って見る客にもやさしいだろう。

後日。
案の定、緑黄色社会は外れた。万が一当たったら行くというであろうトド夫をどうやって止めようと思っていた私は、胸を撫でおろした。
そんな私の心中を知らずに、トド夫は落ち込んでいた。
よほど見たかったらしい。
「私たちにはドリカムがいるじゃん!」
トド夫の丸い肩を抱き寄せ、ぽんぽんと頭を撫でて慰めた。

そう、ドリカムがいた。今年はワンダーランドなので、北海道は札幌ドーム。7月1日が初日だった。
「さすがのドリカムでも、札幌ドームをいっぱいにできるはずないんでない?」
久しくコンサートから遠のいている私は、トド夫を何度となくくさした。
今は多様性の時代である。ひとつのバンドが大きく売れていたのは過去の話だ。

だがしかし、私はドリカムを甘くみていたことを思い知らされる。

そして、私たち世代を甘くみていた。私たちはバンド世代。若いときからコンサートに行くことに慣れ親しんだ、チケットぴあ世代である。

その当日。

ドームに近づくにつれ、道がひとで埋まり動かない。道端にある自販機に群がり急いで水分を買うひとたち。
席についてからも、ぞくぞくと入ってくる。それが皆、そろいもそろって私たち世代なのであった。若い子は親に連れられてきた、そんな感じでちらほらいたが、ほとんどは50代以上と思われた。
「すごいな…」
呟く私を見下し、ほらね、見たことか、とトド夫は鼻をフンと鳴らした。
トド夫は前回のワンダーランドも参加しており、ドリカムの威力を理解している。

セットもものすごくでかい。真ん中にメリーゴーランドみたいな形で液晶パネルが配置してあり、上下左右に花道が設置してあった。

そのでかさに感心していたら。
なんと吉田美和は、メリーゴーランドの上に現れた。
そして飛んだ。ひええ。
ワイヤーで飛ぶのはジャニーズだけかと思っていたら、私より年上の吉田美和が歌いながら飛んでいた。
凄い。なんという身体能力。

あっという間に時間が過ぎた。歌い踊り移動する吉田美和に、感心することしきり。なんならもう最初の方の、大阪ラバーズで泣いていた私。
もうコンサートなんて行けないと言っていた自分を叱りたい。

トド夫は、ドリカムは2回目なので、感動は私の半分くらいらしかったが、最後のほうは、目がちょっとうるうるしていた。

良かったねー、ドリカム凄いねーと言い合いながら岐路につく我々を、トド夫の娘さんが車で迎えに来てくれた。

そしてひとこと「年寄りしかいないね」

・・・はい。そのとおりです。





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