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トップガンマーヴェリックの謎を解け‼ #11

3.2 Why Don’t you make Rooster your WING MAN?(ルースターの章)


 3.1では”ミッションの謎”と題して計画立案の面から考えましたが、実行面でも謎は存在します。そして“なぞ”の中心人物はルースターです。

 なぜルースターはマーベリックのウイングマンに選ばれたのでしょうか?というのはルースター好きの人も、そうでない人もチラリと思ったはず。

 安全を優先しすぎて、この作戦には向いていない。ハングマンにコイツには無理だ!と言われるだけでなく、ナモナキパイロッツからはぎりぎり外れているイェールにも、もっとスピード出さないと遅れっちまうぞ!!とせっつかれる始末。

 しかし3.2のタイトルは “なぜ選ばれたのか?” ではなく、 “なぜ選ばないのか?” なんですよ。

 この人何言ってんの?と思われるかもしれませんが、これが、トップガンマーヴェリックという映画の核心の部分。いろいろな角度から考察していきます。

≪アイスマンとの面会≫

久しぶりー、元気だった?ああ、元気元気!

 マーベリックのアイスマンへの面会のシーンでは、短いけど印象的なアイスマンのセリフ(筆談というかキーボード談)が続きます。

 なんとなくかっこいい感じのセリフで、ヴァル・キルマーの演技も抜群に渋いので、雰囲気に流されていつも(15回とも)ウルウルと来ますが、一つ一つの文章を書きだして冷静に考えると、それってどういうこと?って結構なぞが多いんですよね。

これが15回見たあとにビビッと神が降りてきました

主なアイスマンからのメッセージは次の通り
I want to talk about work.
There’s still time.
It‘s time to let go
Then teach him.
NAVY needs MAVERICK. The Kids need MAVERICK.

まずThere’s still time.時間はあるよ。
マーベリックにしてみれば、いやいや作戦まであとたった3週間ですよ。といいたくなると思います。

そしてIt‘s time to let go. 過去は水に流せ。ですが具体的に何を流せばよいのでしょうか?

ここで仮説です。

仮説1)アイスマンは自分の死期を悟り、自分に残された時間は数日だが、マーベリックには時間があるという想いもあったに違いないですが、そうでなくてもミッション決行までの3週間もあれば十分とわかっていた。
仮説2)マーベリックはグースの死に対する責任感からルースターを危険に晒すくらいなら自分が身代わりになるという想いがある。(これは仮説じゃなくってマーベリック自身が言ってましたね。)
仮説3)一方アイスマンはルースターの実力を冷静に分析して、ミッションの候補に入れている。

 仮説1~3より)アイスマンは、次のように考えている。という結論となった。
・マーベリックはグースの事故の事でルースターを守りたいという気持ちが先だって、ルースターの実力が客観的に見えていない。
・ルースターは時間をかけて一から訓練せずとも、実力はあり、ほとんど準備はできている。
・あとはマーベリックが過去に起きた事故によって抱く“大切な人を失うという恐怖”にとらわれずに、事実に目を向ければルースターが適任と気づくはず。

反論)*反論に答えられてこその仮説です。
 だが果たして艦隊司令官にまでなったアイスマンが一介のパイロットであるルースターの事をそんなに詳しく知っているのだろうか?

ぽくぽくぽくぽく、チーン!

 アイスマンもグースの事故には一定の責任を感じていて、ルースターのことも気にかけているでしょうし、アイスマンこそトップガンの首席でエリートパイロットなので、トップガン現役時代のルースターの操縦を見れば腕の良しあしはわかるはず。

 そしてアイスマンがルースターを気に掛けるべき、もう一つの理由として、ハングマンのセリフから推定できることがあります。

ハングマンの『ルースターはのんびりと最適な機会を待っている。』のセリフ。これって聞いたことないですか?
そうトップガン’86でグースは『じっくり待って相手がミスするのを待つ』とアイスマンを評価しています。

 このように語り手の意図は違えど、共通するものがあります。

 アイスマンは実は自分と同じ操縦スタイルを持つ後継者としてルースターを認めていたのではないでしょうか?

 ただ安全に飛び、自分を犠牲にしても仲間を助けるというだけでは、あの100点娘のフェニックスさんもルースターを認めるわけはないでしょうしね。
 
ここまで考えると仮説が次の段階に進みます。

I want to talk about work. です。

この後「あれっ?」と思いませんでしたか?

”仕事の話”といいながら、いきなり『ルースターがね、まだ怒なんですよ』ってマーベリックは話し出すんですよ。
普通ならミッションの準備状況とか、各パイロットの評価とか言いそうな、そういう振りですよね。

 でもよく考えるとTalk about the missionじゃなくてworkなんですよね。

 最初のペニーのバー Hard DeckでもLINEで “うまくいかなかった?” “あいつは準備できていない。” “みんなそうだよ。”というやりとりがありますが、あれも何ですぐルースターの話を?と思って心の中で引っかかってました。

 Workは言わずとしれた仕事ですが、辞書で調べると“(ある目的をもって努力して行う)仕事”というのが出てきます。

おそらくアイスマンとマーベリックの間には共通認識になっている“Work”があって、それはルースターに関することではないでしょうか?
そしてそれは単なるお悩み相談ではなく努力して成し遂げなければならないmissionよりも大きな“仕事”でなければ先の疑問の辻褄が合わない。

 ただし、アイスマンにとってのWorkとマーベリックにとってのWorkは同じルースターへの関心でも、違う視点で考えていた可能性がありますが、この事は現時点ではこれまでにしておきましょう。

≪ペニーとアメリア≫

ペニーとアメリ あ、マーブだった。

 ルースターとマーベリックの関係は段階を追って語られて行きます。

 はじめは、Hard Deckでルースターを見かけてマーベリックは気まずそう。なぜ?

 次はドッグファイトの後で、ルースターがフェニックスに、マーベリックが願書を破ったんだと語ります。

 そして前述のアイスマンとの面会で、あいつは許してくれない。
と断片的な情報が小出しに出てくるのですが、初めて全貌がわかるのがワンリパブリックの音楽の後のペニー宅でのペニーとの会話なんですよ。

 ですからあれはマーベリックとペニーとの物語であると同時に、マーベリックとルースターについて語る重要なシーンです。

 言わずと知れた、マーベリックが戦闘機でかすめ飛んだという、あの司令官の娘ペニー・ベンジャミンですが、月日は流れ、今ハワイにいる前夫との子供アメリアと2人暮らしです。

 これまでペニーとアメリアの仲がうまくいっていなかったのも、父親がいないことでかどうかはわかりませんが、ペニーが過保護というか過干渉したことによるもののようです。

 そしてこの映画唯一のラブシーン(あっさり目で家族で見ても安心)で、アメリアと以前より良い母娘関係になったのは、失敗しても学べるから信じて任せた。と言っています。

 このペニーとアメリアの関係にはマーベリックとルースターのこれまでの関係、それからこれからなすべきことが投影されているように思います。

 そしてペニーは自分のことを話した後、ルースターと何があったの?なぜ願書を破ったのか?と聞きます。

 マーベリックはルースターの母親の願いであると同時に、その時はルースターが準備できていなかった。と言いますが、このセリフも結構なぞというか、まだ兵学校に願書を出す段階で、教範通りに飛ぶのではだめ。というのは筋の通らない話と言わざるを得ません。

 やはり母親の気持ちを尊重したというだけでなく自分もルースターを危険な目に合わせたくないという深層心理がそうさせているのではないでしょうか?

 続いてペニーは、「今はルースターは準備はできている?」と聞きますが、ペニーにその意図は無くとも、この質問に対する答えは、ルースターの準備ではなく、マーベリック自身が、過去の呪縛に捕らわれずに判断できるようになったのか、を知るうえで大変興味深いものです。
ただその答えは?ゴクリ、というときにアメリアがお友達宅のお泊り会キャンセルになって帰ってくることで、お預けとなるニクい演出でした。

≪ルースターの真価≫

飛行中もスローインファーストアウトで!
(アメリカ海軍 秋の交通安全ポスター)

 空母で出動する段になってやっとマーベリックは答えを出すわけですが、ルースターのミッションでの活躍だけではなく、全編を通してのルースターの評価をしてみたいと思います。
映画的なご都合主義でルースターは急にスーパーサイヤ人化したのでは決してないのです。

 ミッションのメンバーは結局空母に乗ってから戦闘機出撃直前にチームが発表されますが、マーベリックは自分のウイングマンはルースターだと発表します。

 マーベリックはSpecificな(特別な要求のあるというような意味ですが、吹替では厳密性が求められると訳していたようです)作戦であることを考えて決めた。それ以上の意図はなく、パイロット個人の優劣には関係しないと言っていますが、全くマーベリックの本心というわけでもなさそうです。

 つまり重要なのは操縦の正確性よりも必ず生きて帰ること。そのためのチームワークであり、絶対に仲間を見捨てないというルースターの信念が決め手だと思います。

 いや劇中ではマーベリックが編隊長になってからの訓練が省略されていますが、ルースターは操縦の腕の良さも徐々に発揮していったのかもしれません。

 ウイングマン発表の時に、ハングマンの表情が、もしかして自信なさげ?と思わせるようなこれまでとは違う微妙な表情であることと、出撃時に、ある程度認めるものがなければハングマンはルースターを激励したりしない、というのが、ルースターが訓練の後半では腕前を発揮していたのではないかと思う根拠です。

 ルースターの実力はそもそも最初から片鱗が見えますしね。

 マーベリックの垂直降下の我慢比べで、なんとマーベリックのほうが先に、水平飛行に切り替えてルースターがマーベリックの後ろを取るシーンがありました。
そのあとの低空飛行の躊躇でマーベリックを撃墜できませんでしたが、間違いなくマーベリックを上回る操縦を見せてくれました。

 そして最後に実力を発揮したのは敵ウラン濃縮基地へのポップアップ攻撃。

 訓練中のボブに続いて、ファンボーイのレーザー照準器もまた壊れてしまいます。肝心のミッション本番でのこのていたらくで、アメリカ海軍の整備は大丈夫なのかと心配してしまいますが、これは最後にハラハラさせる見せ場をつくるためだけではないと思います。

 もう少しで標準が合うから待ってくれというファンボーイに、ルースターはレーザー誘導なしで爆撃すると言い、見事換気口に爆弾を投入することに成功します。

 これもマーベリックですら成功させていない快挙ですが、もっと注目すべきは爆弾発射前にまずペイバック、ファインボーイ機に『もう上昇しろ』と声をかけているのです。(英語だと聞き取りにくいが吹替版だとはっきりわかります。)

 これは仲間の命を最優先に考え、焦るあまり上昇のタイミングを逃さないようにする配慮と思います。

 その証拠に最後の死の淵ではペイバック機のほうが崖ギリギリをパスしていくのです。
おそらく確実に狙いをつけての爆弾投下のために上昇タイミングはルースターの方が遅かったのではないかと思うのですが、Gと戦いながら、見事な操縦をしたのでしょう。
一方でペイバック機はもう少しでも遅れたら崖の餌食になっていたに違いありません。

 というわけで目立たないけれど、ここは私の中ではマーベリックの想いの通りにルースターが仲間の命を救った重要なシーンなのですが、それだけでは終わりません。
ルースターがマーベリック自身自身の命をも助けることになるとは、マーベリックは思いもよらなかったことでしょう。

 皆さまに問う!普通あの状況で引き返せるでしょうか?

マーベリックのパラシュートが開いたのも見ていない。(パラシュートを見れば皆助けに帰るということになるので、演出上はパラシュート開きたくても開けなかったんでしょう。でその前振りがダークスター爆発での不死身のパフォーマンス。)

敵機も迫ってきている。

おそらく機体限界を超えるGで歪んで操縦性も悪いはず。

さらに司令官から帰還の命令がはっきり出ているのに、ですよ!
ぶひー(鼻息

 このような状況であれば終始マーベリックを支持してきた、勇敢なフェニックスですら「もう引き返せない」と言ってしまうのは仕方ないところ。
それをルースターは引き返してくれたんですね。またウルウル。

 マーベリックが撃墜されたときの叫びの、Mav, No!よりも、吹替え版の『マーベリック、そんな!…』これも好きです。

 マーベリックはパラシュートで降下したルースターに会った時には何で戻ってきたとつっかかりますが、最後はThank you for saving my lifeと素直にお礼を言うのがなんとも良いですね。爽やかです。

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