『沼地のある森を抜けて』梨木香歩/新潮文庫

『沼地のある森を抜けて』を読んだ。端的に言えば「人がひとりからひとりを生み出していた時代があったかもしれない」はなし。

もしも私がある日から二人に増えてしまったら、どうするだろう。聞いたことがある。二人目の自分に対する感情は、そっくりそのまま今の自分への評価なのだと。

私は、「ふたりもいらないなぁ」と思う。もう一人の私も「ふたりはいらないなぁ」と思っている。だから私はもう一人の私を、ぜんぜん私の趣味とは正反対の格好をさせて世に放つし、私も、もしももう一人の私が「私」になりたくなった時のために、今までとは全然違う姿で学校に行く。そこにはもう一人の私と元私が居て、「私」は世界中を探してもどこにもいない。「私」という一人が消えて、もう一人の私と元私という二人が生まれる。

友達は悲しむ。両親も私には気付かない。唯一お姉ちゃんだけが、元私の根幹にどう頑張ってもぬぐいきれなかった私の核みたいなものを見つけてくれて、仲良くしてくれる。今度は友達として。そして寂しそうに言うのだ。

「妹がいたんだけどね、どっかに行っちゃったんだ」

私は自分の想像を、すごく、すごく良いなと思った。お姉ちゃんとお友達になりたいと思った。でも私はまだまだ未熟者で、お姉ちゃんの妹という地位を無くしたくないから、やっぱり、今はまだ二人目の私はいらないと思う。

わたしは人間はやめられないけど、いわしはやめられる。できればギャルになって、一日だけいわしをやめてみたいなぁと思った。

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