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不登校先生 (70・最終話)

「新年あけましておめでとうございます。」

大晦日の紅白歌合戦がおわり、ゆく年くる年が流れている。

2022年になった。

カーテンを開けると夜空はくっきりと星が見える晴れの夜空だ。

例年のごとく、かなり冷え込んでいるのが、窓の結露の状態から伝わる。

ヒートテックのインナーとステテコを着て、防寒の服を着込む。

鍋で温めたお湯を水筒に入れて、充電器を確認する。

コロナ禍になり、友人と過ごすことができなくなった2回目の元旦。

年越しそばを食べて、一人、自転車で初詣に行こう。

お正月恒例になった、さだまさしさんの生さだが、

同じく例年の様に盛り上がっている様子をチラッと見て、

テレビの電源と、部屋の明かりを消した。

静かな夜。冷凍庫の様にキンキンに冷えた夜。

自転車で20分の、地元の神社【八所宮】へむかった。

僕の住んでいる町で一番有名なお社は【宗像大社】なのだが、

毎年僕は、八所宮に参っている。一昨年までは友人と友年明けを迎えて、

そのまま自動車で連れ立って行っていた。

オリオン座も北斗七星も、キラキラと澄んだ空にくっきりと映る。

一方で自転車で走る向かい風は、軍手やマフラー、フードの隙間から

凍り付く寒さを忍ばせてくる。

軍手でも手がかじかんでくる感覚になりながら、

いつもは20分の道のりを40分かけて到着。

夜中の2時前になっていて、人はほとんど来ていない。

樹齢は100年近いか、おそらく超えているだろう樹々の中の、

少し苔生したでこぼこの階段を、灯篭を頼りに上っていく。

いつもの、初詣のお社についた。

後厄を守ってくれた、昨年のお札をお焚き上げの所にお預けして、

夜中で、誰も参拝していないお社に、手を合わせる。

ピンと張りつめた冷たい空気が、そっと自分の合わせた手を包んで

静かに、目を閉じてお参りした。

不登校先生になった2021年。この八か月余は、きつかった。

だけど、それ以上に自分の周りに感謝を感じた日々だった。

何とか、命がつながったことで、これからまた恩返しをしていかないと。

僕にできることは何だろう。僕がしたいことは何だろう。

自分を振り返る時間ができた2021年。

この実体験を言葉に綴って言って、改めて分かったことは、

僕は、不登校が終わったら、また学校の現場で役に立ちたいということ。

心の状態はもう少し時間を必要としているけど、

春にはきっと、先生として仕事ができるように、

しっかりじっくり、元気になるまであと少し、

不登校先生の日々を大事にしていこう。

どうか、心と体の状態が、この調子で少しずつ良くなっていきますように。

長く手を合わせながら、祈るのだった。

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年明け、二度目の心療内科の診察。

「だいぶ良くなっていっているでしょうか。」

「最初の時よりずっとよくなっていますよ。」

「春には復帰できたらと思えるようになってきました。」

「この調子で行けば大丈夫だと思います。あせらずやっていきましょう。」

「ありがとうございます。また来週お願いします。」

「はい、引き続き療養されてくださいね。また来週。」

寒中だというのに、空気を包む冬の日差しが春のように暖かい。

小春日和の暖かさが、そのまま心にも伝播する。

頬に当たる風のほのかな冷たさが心地いい。

季節の移り変わりを前向きに感じる心の中で、

僕を見ているもうひとりの僕が、にっこりとほほ笑んだ。

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〇作者より

不登校先生、本編はこの話で最終話になります。

次話にて、あとがきを添えたいと思います。

あとがきにて改めてお礼のご挨拶もさせてもらおうと思いますが、

ひとまず、こちらでも感謝の気持ちを綴らせてください。

実体験小説「不登校先生」を最後まで読んで頂きありがとうございました。

あなたに読んで頂いたことが、とても励みになりました。

↓あとがき




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