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回想

祖父の軽自動車に流れるラジオから正午のNHKニュースが聞こえる。
祖父の車に乗って、祖母と妹たちと一緒にダムの水遊び場や果樹園に行く。小学生の夏休みはいつもそうだった。
夏の太陽が肌を突き刺し、額から汗が流れる。
小学生の私は日焼けなどを気にも留めずに、びしょ濡れになって川で遊んだ。
果樹園で祖母が書き込む逗子にいる親族宛ての住所を眺める時間が好きだった。小学生ながらにして、いつまでこの生活が続くのだろうと思っていた私にとって、その住所はどこか遠くの素晴らしい場所のような気がして、思いを馳せていた。
いつからだろうか、そんな夏がなくなってしまったのは。夏の暑さは気持ちのいいものからうだるような暑さに変わってしまった。夏が来ると思い出すのはそんな正しい夏なのだ。
どこか遠くに行きたいとずっと思っている。
戻りたい夏、正しい夏。

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