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平成東京大学物語 第11話 〜35歳無職元東大生、初めて上京した日にホテルで自分自身を慰めたことを思い返す〜

 調度品は品のいいアイボリーホワイトとサーモンピンクで統一されていたが、設備は貧弱だった。ぼくは部屋の隅に申し訳程度に備え付けられた机で翌日の二次試験に向け最後の復習をした。学校の教科書やら参考書やらノートやらをスーツケースで大量に持ち込んでいた。それらは高校三年間の生活の痕跡がぎっしりと刻まれたものばかりで、ちょっと感慨を覚えなくもなかった。試験前夜だというのになにかしんみりとした心持ちになった。でも好きだった世界史の資料集を軽く眺めていると、ぼくはむらむらと下半身にわきあがる色欲をおさえることができなくなってしまった。大都会の激烈な刺激がぼくのうちにひそむ陰獣を呼び起こしたみたいだった。当然のことだったが、部屋にはぼくの他に誰もいなかった。ぼくは好きだった女の子のことを想像した。彼女が両親の留守中に男にソファで押ししだかれ制服のままスカートをまくりあげられ、薄布をずらされ、なにものにも包まれない肉棒を注送されている様を想像して獣欲をなだめた。彼女はいけない行為と頭では理解していながらも下半身に幾度も襲いかかる愉悦の荒波に打ち克つことができないでいた。それは禁忌を破るからこその無上の快楽だった。お尻を強く握られたり片足だけを持ち上げられたり、あるいは両足を広げられて彼女自身を見つめられたりと、様々な恥態が次々と浮かびあがった。劣獣の猛りはおさまるどころのさわぎではなく、ほどなくして渋谷のホテルの一室に白い雄たけびがあがった。ぼくは初めて東京で自分自身を慰めた。それはぼくが初めて東京の地に降り立った日のことだった。

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