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線路のとなり、電車がうるさい三角公園

学校は嫌い。だって友達がいないから。
でもこの頃の放課後はちょっと好き。ほんの、ちょっとだけ。
お母さん、今日も帰りは遅くなります。
私は心の中で母にそう連絡すると、小走りになりそうになる足を必死に抑えて、なに食わぬ顔で向かう。
どこへって?
線路のとなり、電車がうるさい三角公園。


「君、また来たの?」
その人は私をみて開口一番にこう言った。
えへへ、私が曖昧に笑ってみせると、その人はため息をひとつ付いてスケッチブックをぱらぱらとめくる。
この人は、絵を描いている人だ。
それ以上も、それ以下も知らない。
学校がつまらなくて、この土手をふらふらしていたら見かけて、面白そうだからこの頃うろちょろしているだけだ。出会ってまだ3日。なんて浅い。
多分女性で私より歳上だと思うけど、それも多分、だ。だっていつもジーパンだし、髪も短いし、華奢だし。案外私と同じ年だったら、と思うとどきどきする。


「あ、三角公園」
私は思わず声を出す。スケッチブックにはこの公園が書かれていた。
けれどその人は、ばっとスケッチブックを閉じてしまった。
気まずい空気が漂う。
「なんで隠すの?」
「描きかけだから」
「いつも描きかけじゃん、いつもは隠さないじゃん」
私は大声を出した。電車の音が聞こえないくらいに。
そしてじろっとその人を睨んで押し黙る。
あーあ、こういう所が駄目なのに。心の中でそう思う。
小さい頃からの私の性格。
こういうのって、ほんといくつになっても治らない。
あんなに叱られても意味なかったよ、お母さん。


電車は3本も行ってしまった。
次の電車が通り過ぎたらもう帰ろう。そう思ったその時。
「あのさ。アンパンマンは、さ」
その人は言った。
「アンパンマンは”いのちの星”が入ってるからアンパンマンなんだって。いのちの星がなかったら、ただのアンパンなんだよ」
淡々と話すこの人が何を言いたいのかわからなくて、私はその目をじっとみる。

「絵を描くとき、いつもそのことを考えるんだ」
その人は真っ直ぐに遠くをみていた。



それから3日間、天気はあいにくの雨で、その人は公園に来なかった。



4日目にやっと晴れると、その人はやって来た。
「君、また来てるの」
お決まりの言葉を言われ、また私がへらへらしていると目の前に一つの景色が現れた。

それは三角公園を描いたあの絵だった。
そこには、私の姿も描かれていた。
「あげるよ」
その人は言った。
絵はとても優しい色をしていた。
いつもの電車の音が、遠く聞こえるほど。

「いのちの星」

呟いた私の声に、その人は
あはは、と声をあげて笑った。



お母さん。今日、人生で初めて友達ができました。




special thanks ---
このお話は、なたこさんをモデルに描かせて頂きました。
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