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僕とラジオと君と星

毎週木曜、22時05分。
『おはようございますの人もお休みなさいの人も、ようこそ"おおいぬラジオ"へ』
さて、今日もミズキのラジオが始まった。

『今日なんですけどね、私うっかり寝坊してしまって。と言うのもいつも、夕方に仮眠を取るんですけど枕を変えたらそれがもう最高で…。うーん、寝るの大好きなんだよね。なんとか間に合ったわけですが』
ミズキの声は、高くて細くて少し掠れている。
話す時に声を張ることがなく、とろんとした話し方は、かえってリスナーに受けが良いらしい。

『そういえば、こないだ会った人がすごい面白かったんですよ。ちょっと話していいですか?いーい?あのね…』
その話は10分以上も続いた。話しすぎて流石にスタッフの止める声がした。
ミズキはいつもこんな感じだ。
表面上は淡白だし自由奔放、でも興味のあることには、真っ直ぐ。

僕と暮らしていた時もそうだった。
深夜、ふと目を覚ますとカチカチとマウスをクリックする音が部屋で小さく鳴っていることがよくあった。
パソコンの前で頬ずえをつき、椅子の上で立膝を付いて画面を見つめる、お世辞にも行儀が良いとはいえない姿。
声をかけることは出来なくて、だからこっそり布団から見ていた。
ミズキはそのことを、きっと知らないままだと思う。

『さあて、お手紙のコーナーです。ペンネーム、銀さん。"僕は恋人がもう何年もいません。親や親戚からは、そんなんで大丈夫かとしょっちゅう言われています。大丈夫じゃないのでしょうか』
その質問に、僕はちょっともやもやする。
ミズキが触発されて恋人でも作ったらどうするんだ。
頑固親父みたいな気持ちになって、じっと、ミズキの答えに耳を傾ける。
『恋人がいるか否かがあなたの人生の良し悪しを左右する訳ではないから、何にも気にしなくていいと思う。そのままで良いと思うよ』
僕はほっとし、そしてミズキらしい答えにクスクスと笑ってしまう。
どこにいても、いつになっても、ミズキはミズキのままらしい。


『それでは、次のお手紙です。ペンネーム、恋する乙女さん。"私は遠距離恋愛をしています。恋人に会いたくても会えない時、どうしたら良いでしょうか。"』
今日のお手紙は恋愛モノが多い。
僕はラジオはそのままに、ベランダに出て夜を見上げる。
僕の視力は悪いので、月も星も見えやしない。

「私、遠くへ行くよ」
そう言ってミズキはこの家を出て行った。
僕はふすん、と鼻を鳴らした。
本当に随分と遠くまで行ってしまった。

今夜最後のミズキの声が背中から聞こえる。
『それではこれで。8光年先から貴方に、ミズキがお送りしました。またお会いしましょう』

僕はあるはずの星を見上げる。
遠くも遠く、遠すぎだ。
君ってばほんとに興味のあることには、真っ直ぐ。
いやいやむしろ、斜め上。


そうして僕は尻尾を振り振り、一番明るい星に向かって、ワン、と吠えた。


special thanks ---
このお話は、ももねさんをモデルに描かせて頂きました。
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