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UMA同好会|ショートショート

『UMA』って、ご存知だろうか。
Unidentified(正体不明の)Mysterious(謎に満ちた) Animal(動物)、頭文字を取ってUMA。有名なのは、ツチノコや河童などだ。
そんなUMAをこよなく愛し、研究する、いつか会いたいと焦がれ願う。それが、僕達UMA同好会だ。


「皆、飲み物持ったー?」
「「「持ったー」」」」
「それじゃ、かんぱーい」
「「「いえーい、ネッシー!」」」
今日は、UMA同好会の飲み会である。夜空の下、だだっ広い土手沿いの川辺には遠くのマンションからの明かりは遠く、お互いの顔すら、ぐっと近づかなければハッキリとは見えないほど、辺りは暗い。ここは、数十年前UMAが発見されたと言われる場所だ。UMA発見跡地で飲み会をするのが、僕達UMA同好会の恒例なのである。つまるところ、聖地巡礼。なお、ネッシーは、ここで発見されたUMAの名前だ。
乾杯はしたものの、それ以降、僕達に会話はない。いつものことだ。皆、UMAに想いを馳せているのである。飲み物だって、自分の分は自分で持ち寄り、それを飲むのである。
吐く息が白い。それもそうだ、真冬だもの。
皆慣れているから、ダウンジャケットや帽子などを着込み、幾分実際よりずんぐりした体型になっている。その中に、場違いなほっそりとした薄っぺらいシルエットを見つけて、僕は紙カップの中身を早々に開けると、いそいそとリュックから水筒を取り出し、一杯は自分が空にしたカップに、もう一杯は新しい紙カップに注ぐ。むわん、と濃ゆい香りが湯気とともに立ちあがるのを、ちょっとだけ吸い込んで、僕は白いシルエットに近づいた。

「来てたんだ」
カップを差し出して声をかけると、白いシルエットの彼女は振り返って、ニッカリと歯を見せた。ポケットに突っ込んでいた手を片方だけ出して、カップを受け取る。
「なにコレ?」
「ホットビール。寒いじゃん。この間、家で試しに飲んでみたら美味かったから。海外とかでは、結構普通らしいけど。あ、ちょっと待って」
僕はカップに口を寄せた彼女を一旦制して、リュックをゴソゴソと漁る。「忘れてた」
掌より小さく無機質な調味ボトルを取り出すと、カップを持ちながら空いている指を駆使して蓋を開け、彼女の持つ液体に振りかける。
「なにコレ?」
先ほどと同じ調子で彼女は首をかしげる。
「なんかコレ入れると良いらしい。味はよくわかんないけど、良い匂いだよ」
入れたのはクローブというスパイスだ。すん、と香りを嗅いだ彼女は、今度こそカップの中身を口に含んだ。そうして、ほっ、と息を吐く。
「おいしい。あったかい」
嬉しそうな彼女の顔を見て満足した僕も、自分のビールを飲む。
香りと同じくらい濃ゆい苦味と酸味とアルコールを、舌の上で程よい温度に転がしてから、喉に入れると、胸の辺りが温かくなった。家の中で飲むより、外で飲む方が美味しいな、と思う。ふと視線を感じて、顔を向けると、彼女が平たいアルミ缶を差し出していた。
「なに、これ?ドライフルーツ?」
「うん。たべる?」
「じゃあ、いただきます」
僕は缶の中の数枚を手に取って、一枚口に入れた。
ビールとは違う酸味と甘みを噛み締める。美味い。
「おいしい?」
「うん、美味い。合う」
そう言うと、いつも飄々としている彼女が珍しく、うっすらと、はにかんだ。
「つくった」
「え、嘘!君がこれを作ったの?」
どうやらドライフルーツは手作りであったらしい。へへへ、彼女はこちらを見て笑う。僕は思わず片手で口を抑えて、顔を見られないようにそっぽを向いた。ちょっと、今は見られると恥ずかしい顔をしている。気がする。

Unidentified(正体不明の)Mysterious(謎に満ちた) Animal(動物)、頭文字を取ってUMA。
今、僕の心の中を、わーわー言って暴れまわっている感情も、いわばUMAなのではないだろうか。なんなら、隣にいる彼女も。
「おいしいね」
カップを軽く揺らして、朗らかに彼女は言う。
僕は手元のカップから、ビールをちびりちびりと飲んだ。
ぬるくなり始めたそれは、けれども未だほんのりと温かい。そうしてここで飲むコレは、間違いなく美味しくて、間違いなく幸せな味がした。




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「ᔕん乙(なーに、コレ?)」
「▼ᕮᓰhp(人間の食べ物)」
「人ᕼ○ᙢ別▼ᕮ(また人間の所に遊びに行ったの?)」
「Ḱᗩ△56✻本×zい𝕒θ◆σƒbべ¥2੫(だってあそこで飲む”お酒”は、とっても幸せなんだもの)」


*文中に出てくる飲み物とおつまみレシピは、下記のサイトページを参考にさせて頂きました。ありがとうございました!
https://drinx.kirin.co.jp/article/recipe/1/


お読み頂きありがとうございます⸜(๑’ᵕ’๑)⸝ これからも楽しい話を描いていけるようにトロトロもちもち頑張ります。 サポートして頂いたお金は、執筆時のカフェインに利用させて頂きます(˙꒳​˙ᐢ )♡ し、しあわせ…!