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成人式、ハレの日

今日というハレの日は、果たして必要なのだろうか。
依ちゃん(よりちゃん)は、艶やかな赤地の振袖を纏った自分の姿を、鏡越しに見やりながら思う。
少し派手すぎやしないかしら。
若干心配にもなるが、まあお祝いの日だし、式典だし、と自らに言い聞かせた。
何だかそうでもしないと、逃げ出してしまいそうだから。


式典会場に着くと、皆、声高く再会を喜びあった。
依ちゃんも例外ではない。
「うわぁ、依ちゃん?久しぶり!」
「昌子?だよね?元気だった?」
一緒に過ごしていたあの日々は、何年も何年も前のことなのに、それでもあの日々の面影が何処かにあって、誰だか分かるのは不思議だった。
自分が分からなくても、他の人が分かり、教えてくれたりして、その連鎖でどんどん再会の輪は広がっていく。


そんな中、依ちゃんの目は誰かをきょろきょろと探していた。
あの人だ。
心の中で名前を呼ぶだけで、ちょっとそわそわする、あの人だ。
叶った恋より叶わなかった恋のが焦がれるのは何でだろう。
依ちゃんは彼との少ない思い出を記憶の中から引っ張り出す。
寄せ書きの走り書き、着崩し過ぎた制服、それから満員電車で触れた細すぎる腕なんかを。
何年経っても色褪せないとは、この事だ。


あの人の姿はなかった。
依ちゃんは、それで良い、と思った。
周りをもう一度見渡す。
会場は人と人とが色とりどりの花模様。
皆大人になったのだ。
「まもなく式典が始まります」
依ちゃんは姿勢正しく礼をした。


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