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【第50話】下北半島で出会った「かんだちめ」

こんにちは。
早いもので、お話も50回目を迎えました。
特に記念号ではないです……。
今回も夏の青森ツーリング回です。

7月21日に東京から新幹線で青森へ。2日間かけて津軽半島北部を一周。半島最北の竜飛崎や階段国道などを巡りました。旅の3日目は下北半島へ渡り、ついに本州最北端・大間崎へ! 4日目となる本日は、半島北東端の尻屋崎を目指します。今のところ天候には恵まれず消化不良ではありますが、今日の天気はどうでしょうか。そして、素晴らしい景色は見られるのでしょうか。

▼前回のおはなし▼

最高級! 大間まぐろを食す!

7月24日、火曜日。本州最北の地で朝を迎える。昨日まで空全体を覆い尽くしていた雲はどこかへ消え、今日は青空が広がっていた。こんなに気持ちの良い朝はあるだろうか。8時頃に宿をチェックアウトして、昨日に続き大間崎へやって来た。澄んだ空気の中、岬の向こうには北海道の渡島半島がくっきりと見える。大間といえば一本釣りで知られる大間まぐろ。町内各所で提供されているが、最低でも2000〜3000円台とかなり高額だ。そんな中、ここ大間崎付近で安く食べられる店があるらしく、早速向かってみた。ご飯茶碗にマグロとタコが盛り付けられて1500円。朝ご飯にはこれがちょうどよかった。店のおっちゃんの方言は強く何を話しているか聞き取れなかったが、親切にもバターサンドやホットコーヒーをサービスしてくれた。マグロ丼を完食し、お店に別れを告げた。

漁師に一本釣りされた440kgの大間まぐろをモデルにしたモニュメント
大間崎は青森県でありながら、北海道の南端よりも北に位置している
漁師の夫婦が営む小屋の店。感じの良い人たちで、居心地の良い店内だった
2023年現在は値上げのためか、このメニューはないみたいだ

絶好調の「はまなすライン」

大間から東へ向かう国道279号は「はまなすライン」とよばれる。特筆する程の見どころはないが、道路の起伏は穏やかで交通量は少ない快走路だ。そして海岸すれすれを通っており、視界いっぱいに津軽海峡を見渡すことができる。朝の日差しを受けて、透き通った海面はマリンブルーに輝いていた。こんなにも太陽がありがたいとは。出発してからちょうど1時間、20㎞弱進んだところで小さな町に着いた。下風呂温泉という鄙びた温泉地だ。海に面して国道沿いに数軒温泉宿が建つ。この周辺はかつて鉄道計画のあった場所で、未成線に終わったため実用化されることはなかったものの、数々の鉄道遺構を見ることができるのだ。なかでも下風呂駅跡には遊歩道や足湯が設けられ、ちょっとした観光名所にもなっている。もしも路線が開通したとしても採算が合わず結局すぐに廃線になったのだろうなと、想像を膨らませながらプラットホームから静かな町を見下ろした。

海面すれすれを走る国道279号
なんの名所でもない海岸ですら、この透明度である
大戦中に建設が進められたが、戦況の悪化で完成することはなかった。2005年に遊歩道として整備された

「いかすみらぁめん」とは何ぞ。

再び自転車に乗り国道279号を東へ進んだ。道路は海岸から離れて、山の中へと入っていった。標高100mにも満たない木野部(きのっぷ)峠を越えると、大畑の町が広がっていた。この町には2001年まで鉄道が通っていて、現在はバスターミナルとなっている旧・大畑駅の周辺には、当時の賑わいを感じさせる昔ながらの商店街が続いている。ちょうど12時を過ぎた頃でお腹も空いてきた。お昼にしよう。「いかすみらぁめん」の幟がなびく一軒の食堂を発見。気になったので入店、賞味してみる。磯の香りのする優しい味の一杯だった。スープまで飲み干し、お店を後にした。この後は、半島北東端・尻屋崎を目指す。岬に至るまでの32㎞、休憩できるような店はない。お腹も満たされたし、まぁ大丈夫だろうと踏んで補給食も持たずに出発したのだった。

木野部峠からの景色。大畑の町が広がっている
いつからか時が止まったような、古き良き地方の商店街
錆びたレールが時の流れを物語る。営業時は本州最北の駅だったらしい
一見さんは入りにくい外観だが、店内はアットホームで落ち着いた雰囲気だった
「いかすみらぁ〜めん」950円。いかすみが練り込まれた麺は真っ黒。スープは優しい塩味

寒立馬が暮らす尻屋崎へ

尻屋崎への道は、非常に変化に富んでいた。なだらかな起伏のある牧草地や登り返しの直線路など、まるで北海道を思わせる風景の連続だった。しばらくは内陸の道が続いたが、やがて再び海岸へと辿り着いた。といっても県道が走るのは崖の上で、海と小さな港町を見下ろす形だった。この先はほとんどアップはなく、左側に海原を望みながら県道6号を快走。そしてついに、尻屋崎入口のゲートへと到着した。ここから岬までは目と鼻の先、視線の先には白亜に輝く灯台が鎮座している。岬の周辺は芝生の茂る丘陵地になっており、灯台の元には20頭ほどの馬が放牧されていた。この馬は「寒立馬」とよばれる寒気と粗食に耐性を持つ農用馬。ずんぐりむっくりな体格が特徴の、尻屋崎のシンボルともいえる存在だ。そして灯台も見どころで、国内ではわずか16基しかない「のぼれる灯台」の一つなのだ。寄付金300円を支払い、展望台へと登った。果てしなく広がる太平洋、振り返れば緑に包まれた下北半島、足元には潮風に憩う寒立馬たち……。どこまでも優しい風景が広がっていた。尻屋崎に心癒され、1時間ほど居座ってしまった。もう16時……、そろそろ目的地へ向かわなくては……。

県道6号では、このような開放的な景色を見ることができる
果てしない直線路。どういう訳だか交通量はそれなりに多い
巨大な採石場地帯を過ぎると、尻屋崎の入り口ゲートがある
尻屋埼灯台はレンガ造りの灯台としては日本一の高さ。2022年に国重要文化財に指定された
灯台の元で悠々と過ごす寒立馬たち

むつ市街へ向かう途中…

今日の最終目的地は下北半島の中心、むつ市街。先ほどまで進んできた道を、今度は反対へ引き返す。もう景色を楽しむことはやめて、作業的に、無心でペダルを漕ぎ進める。しかし何故だろう、脚に力が入らない。これは完全にエネルギー切れだ。ラーメン一杯で往復60㎞走ろうというのが間違っていた全身の力が抜け、徐々にペースは落ちていった。ハンガーノックまでもう目前の状態だった。体がフラフラする。こんな何も無い道端でくたばってたまるものか……。朦朧とする意識の中、赤く塗装された四角い箱を視界に捉えた。自販機だ……!! 自転車を放り投げ財布を開く。小銭が100円ちょっとと万札しかない。一本しか買えない。残されたわずかな知恵を絞って、最もコストパフォーマンスの高そうな飲み物を選ぶ。そこで出てきたのが「ぷるっシュ!! ゼリー×スパークリング 味わいグレープ」。半固形のゼリー部で胃袋を満たし、高い糖度をエネルギーに変え、さらに炭酸を臓器に充満させ満腹感を得よう、といういかにも素人らしい考えだ。だがその効果は充分で、むつ市街まで何とか食い繋ぐことができたのだった。

そして嬉しいナタデココ入り
4日間も小さな町や村を巡っていた自分にとっては、むつ市は大都会だった

無事にむつしへゴール。あとは宿にチェックインして眠るだけ。
だけどせっかくの市街地。地元のおいしい食とも出会いたい。
夕飯を求めて夜の街へと繰り出したのでした……。

次回、青森編最終話。
感動のフィナーレは迎えられるのでしょうか。
つづく。

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