菅政権への期待  ― デジタル通信インフラへの巨額投資を行うべし ― 【9月18日付投資日報巻頭記事完全版】

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政治は派閥同士の危うい均衡の上に成り立っている―とはいえ、自民党総裁選を圧倒的多数で勝利した菅義偉氏が自民党の新総裁に選出された。


その派閥均衡からみて短命、あるいは長期政権後の政権は短命である―というアノマリーから、さほど長期政権は期待出来ないとの声もあるが、案外長期政権になる可能性もあり、その意味では菅義偉氏の政策にも注目が必要だろう。


特に、市場参加者にとって気になるのは、過去辣腕を振るった携帯料金等にかかわるデジタル戦略だろう。携帯電話の自由化はある程度進んだ―とはいえ、実際の日本のデジタル化の進捗状況は図らずもコロナ禍で著しく遅れていた事が露呈してしまった。


注目は、菅政権がデジタル化を加速させ、成長戦略の中心に据える事が出来るか否か―という点にある。現政権も政府主導で増強や高度化に向けて動いている所があり、16日に発足する新政権の目玉事業になれば―想定外の新政権株高すら期待できるだろう。


こうした期待は、菅氏が総裁選の期間中、電子行政を一元化する「デジタル庁」構想を提案した事による。


持論の縦割り行政打破を政策の軸に、各省庁の既得権益を一旦白紙化。電子行政の権限をデジタル庁に全て移行するというもの。首相官邸による省庁への「グリップ」を強化しようという狙いである。マイナンバーカードの全国民への普及は、この政策の一環だ。


これはこれでよい試みといるが、それよりも大きな問題は情報量の増大に耐え得る基幹通信回線の容量。コロナ禍の下で、オフィスに通っていたサラリーマンが自宅でテレワークを開始。大学生など家族もモバイル授業に移行した所、同時に作業しようとすると、画面がフリーズするケースが多発している。要は様々な局面でオンラインがスムーズに動かないのだ。オンライン会議に同時に多数が参加すると、画面が動かなくなる経験をした人も少なくない。


米国に比べて動画を使ったインフラが進捗しない理由は通信容量の問題といえるだろう。勿論、民間企業で進められる所は多い。モデム、回線、PCの刷新を民間企業が行い、通信会社が独自に設備投資する。しかし、この方法では遅々として進まない事も明らかだ。


特に5Gの遅れの原因は投資回収リスクだ。現状では設備投資期間の長期化が予想され、短期間での設備更新は難しい。ここを公共投資で通信インフラの大幅整備を行う―という構想が菅政権にあるという。通信インフラは公共投資にふさわしい、という訳だ。


実際、日本の高度成長が高速自動車道や新幹線の整備等交通インフラによって実現した事を考えれば、今後の成長の起爆剤となるインフラが「通信インフラ」である事は間違いない。今後のデジタル化社会で不可欠なインフラは、高度で大容量の通信インフラであり、その整備に国費を投入し、潜在成長率の引き上げの原動力にする―というのはある意味当然であろう。恐らくデジタル庁構想によるペーパーレス化等は大した生産性の向上はないだろうが、通信インフラの整備は兆円単位の費用が必要。その分、民間への投資効果も大きい事になる。財政投融資の資金を含め公的な資金を投入すれば、需要喚起も見込める。その上、中長期的に経済効率の引き上げも想定出来る「中身のある成長戦略」となる。


もう一つは、通信インフラが整備できれば、新幹線でも高速道路でも東京集中を弱めるどころか東京集中を進めてしまった掛け声だけの「地方再生」を本当に実現できるかもしれないからだ。


掛け声は地方再生、東京一極集中の是正―であったが…
過去の高速道路整備、新幹線整備は地方再生も大きな掛け声の一つであった。


東京と短時間で結ばれれば、便利になり東京からの観光客も増え、結果として地方が再生する―というものだった。しかし、現実に起こった事は地方から東京への人口流出(所謂、ストロー効果)であり、宿泊を伴わない事による観光収入の減少であった。


ただ、通信インフラの整備はこうした地域を活性化させ、自民党の悲願であった地方再生が可能となる可能性がある。在宅勤務は多くの通勤者に如何に日々の通勤によって生産性が落ちているか、精神的疲労を引き起こしているか、を如実に表してきた。そうした中、田園都市への移住と勤務の両立-という可能性が通信インフラの拡充によって可能となる。


地方は地価が安いので都心部より広い住居面積を確保でき、自然環境も優れている。明治維新から150年余り、東京への集中を続けてきた日本の社会が、初めて地方へのシフトを始める可能性があるのだ。


もう一つの地方再生のキーはIT技術を駆使した農業の展開だ。


無人化による稲作が実験的に行われているが、今後は付加価値の高い園芸作物等でAI(人工知能)を駆使した取り組みが可能になる。養殖などの水産業でも、同じような展開が試されている。


更に「オンライン授業」が当然となった今となっては、東京の大学に入学しても、居住地は地方のままで問題ない―という事になる。オンラインの世界であれば、東京に引っ越しする必要はない、という訳だ。


となると、東京への人口流出が主に若年層に集中してきたことを考えれば、人口流出に歯止めがかかる可能性がる。


こう考えると、自民党の地方支部や地方出身の代議員も通信インフラの拡充に公費を使う事に反対する意味はなくなる。むしろ、積極的に賛同する可能性が高い。そうなれば、通信インフラの公費投入への抵抗勢力は消滅するはずだ。


菅政権がこうしたデジタル庁による巨額の通信インフラ計画を打ち出せば、勿論、株式市場にとっても朗報だろう。あらゆる意味でデジタル庁の仕事は役所のペーパーレス化などという矮小なものでなく、日本中の通信インフラ拡充を主としてほしいものだ。

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